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第二部25(98) エピローグ1

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「アネロッテは…共犯を持ち掛けてきた腹違いの兄弟、ヨアヒム・シュワルツコッペンからこの事実を知り、その莫大な遺産の強奪を狙っていた。こうして、ロシア皇帝の隠し財産の番人であるアーレンスマイヤ家を巡る…、ぼくとマリア・バルバラ、フレンスドルフ校長とヘルマン・ヴィルクリヒ、そしてアネロッテのバトルロワイヤルの火蓋が切って落とされた…という訳さ」

「失踪した当主の後見人として…財産を管理していた私の存在が邪魔だったのでしょうね。アネロッテは…父と母同様に…私も抹殺にかかった。怪我で寝付いた私の薬に…毒を投与して、じっくりと身体を弱らせていったの」

「そうそう、マリア・バルバラが怪我で起き上がれなくなってからは…、マリアと僕との連絡係を…ゲルトルートが献身的に務めてくれんだ。…実際彼女も又、牽制のために命を狙われたが…それにもひるまず最後まで危険な任務を全うしてくれた。…だから、正確にはぼくと、マリアと、ゲルトルートが僕らのチームのプレイヤーだ」

「…実際に、番犬に襲われたり…不当な逮捕で牢屋にも入りましたしね…」
水を向けられたゲルトルートが、往時を回顧してクスリと小さく笑った。

「あの時は…悪かったよ。でも“敵を欺くには味方から”って言うだろ?」

「はいはい。見事に…ダーヴィト様には欺かれました」

「ゲルトルート…。危険な目に遭ったの?」

「ええ。…でも、こうして私は生きて、幸せに暮らしております。…もう、過ぎたことなのですよ、ユリウス様」

「幸い…私の酷い衰弱の様子に不審を抱いたダーヴィトの機転で…毒の件は大事にならずに済んだ」

「だけどここで僕は…僕たちは―、一芝居打って反撃に出たんだ」

「私はそのまま毒を投与され続けているふりをして、重体を装った。そして…アネロッテが動くのを待った」

「マリアの余命宣告で…既に高飛びの青写真を描いていたアネロッテは―、なかなか死に至らない彼女の容態に焦れて…とうとう殺害の…犯行におよんだんだ。その時に彼女が自ら全てを告白んだよ。フォン・ベーリンガー家殺害事件の真相、アルフレートが預かった機密、そして…自分の出生の事…。マリアに囮を務めてもらって、潜入していた警官にアネロッテは逮捕されたが…その直後に、服毒して、結局逮捕逮捕はされたが連行はされなかった」

「姉様…死んだの?」

「…そうね。最終的にはね。…今まで毒で二人の人間を死に追いやり、そして三人目も手にかけようとしていたアネロッテは…結局その毒で最後は自分が苦しむこととなった。…アネロッテはね、その時の服毒で死ぬことが出来ず、身体の自由を奪われ苦しみながら二年の余命を永らえたの」

「!!」

「こうして…アーレンスマイヤ家を巡る陰惨な事件は幕を閉じた。…アーレンスマイヤ家の呪いは全て解決し、ユリウスの傷害容疑とマリア・バルバラへの詐欺容疑で収監取り調べを受けていたフレンスドルフ校長は…結局いずれも証拠不十分で不起訴となり、その後お忍びで身柄を引き取りに来たヴィルクリヒ先生に伴われて、レーゲンスブルグを去った。風の噂では…ヴィルクリヒ先生とお前さんのお母さんの間には子供が…女の子が生まれているそうだぜ」

「母さんが…?女の子…を?…ぼくの…妹?」

「ああ。そういうことになるな。…その話を聞いたのが1905年だから…お前さんたちのミーチャと…同い年という事かな?聞くところによると、お前さんによく似た金髪の綺麗な女の子だったとさ」

「そうなんだ…。母さん…幸せでいるんだね。…会ってみたいなぁ。ぼくの妹」

母と、まだ見ぬ妹への想いを抱きしめるように、胸にそっと手を当てる。

「そうだな…。会えれば…いいな」

アレクセイが優しくそう答えると、ユリウスの肩を優しく抱き寄せた。

「僕たちとも…こうして会えたんだ。お前さん、なかなかそういうヒキが強いよ。…きっと会えるさ」

「ねえ、結局…その、父様が管理していたロシア皇帝の隠し財産は…どうなったの?」

「返したわ。ロシアへ」

ユリウスの質問に事もなげにマリア・バルバラが答える。

「か、返した~?」

思わずアレクセイの声が裏返る。

「この人は…本当に、見た目に似合わずとんでもない無茶をする。そういうところも姉妹でそっくりだ。マリアはね、ロシア側の人間とサシで交渉して、見事その財産が預けられた帝国銀行の金庫の鍵を…返還したんだ」

「交渉の場に現れたのは…父に皇帝の財産を託した人物の子息とかで…背の高い偉丈夫だったわ。私よりもやや年下で…確か軍人で侯爵…と言っていたかしら」

「その…人物の名前は?」
アレクセイの鳶色の瞳の奥底に焔のような感情の塊が揺らめく。

「えっと…。ごめんなさい。何しろ十年以上前の話だし…その人物と接触したのも後にも先にも一度きりだったし…。ロシア人の名前は…馴染みがないので…でも確か…、Jで始まるファミリーネームだった気がしたわ…」

アレクセイのその様相に、マリア・バルバラが困惑したように答える。

「Jか・・・・。ジトコフスキー?ジョコビッチ?」

アレクセイがJで始まるロシアのファミリーネームを挙げてみるが、マリア・バルバラは「違う…気がするわ」と済まなそうにそれらの名前を否定する。

「その男は…軍人で…当時は侯爵だったと!…一体…その莫大な財産を持って…あの国から姿を消した…そいつは誰なんだ!!」

アレクセイが髪をかき上げる。

「アレクセイ?」

そんな夫の様子にユリウスが不安そうに傍らの夫に呼びかける。

「…あの…革命後に接収した貴族たちの屋敷には…そのようなものは見当たらなかった。となると…海外へ持ち出して亡命したのか…?!」

「おい、クラウス?」

「その莫大な財産は…ロシアの人民が汗を流し命を削るようにして働いたものを搾取したものなんだ。あれは…本来ロシアの民のものなんだ!決して皇帝の…貴族たちが好き勝手に使っていいものではない!それだけの財産があれば…この冬何百人…何千人の人民が餓死せず、凍え死にせずに過ごせるのに!!チクショウ!…一体…それをどうやって…どこへ持ち出したんだ?また…どこかの国の金庫にひっそりと眠っているのか?!」

「アレクセイ、やめて!」

ユリウスの悲痛な叫び声に、アレクセイはハッと我に返る。

「クラウス…。お前さんの気持ちは分かるが…、あれは…あの隠し財産は…禁断の果実だ。不吉なパンドラの箱だ…。あの…忌まわしい財産は…あまりにも多くの血を吸い過ぎた。あれは…人の心を、人生を狂わせる。…おまえさんも、もうあの財産の事は、なかったものとしてどうか忘れて欲しい。…なぁに、今は苦しいだろうが、新生ソヴィエトロシアも、まだまだこれからの国だ。あんな前王朝の亡霊のような遺産に頼らずとも、人民の力でこの黎明期を乗り切れよ」

な?

そう言ってダーヴィトは腕を伸ばすと、アレクセイの腕をポンと軽く叩いた。

「さて、と。この甚だ物騒なお宝を巡る話はこれにてジ・エンドだ。なあ、さっき僕らがお前さんたちにサプライズを用意した…といっただろう?」

「あ、ああ。そうだったな」

「じゃあ、今度は僕から、クラウス―、お前さんへのサプライズだ」