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第二部27(100) エピローグ3

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おまけ~朝の歌~




アレクセイが楽しそうだと、ぼくも嬉しい…。





ー チュン、チュン…ポン…ポン…

カーテンの隙間から差し込む朝日と、鳥たちの声に混じって時折聴こえてくるヴァイオリンの微かなピチカートの音で、ぼくは目を覚ました。

ー アレクセイ?

隣に寝ている筈の夫のスペースは既にヒンヤリとしていて、音のする方へ顔を向けると、そこには長い時を経て戻って来たストリディヴァリを愛おしげに抱きながらつま弾いている夫の姿があった。

まるでクリスマスの翌朝にプレゼントの包みを開いている子供のような瞳の輝きに、堪らなく愛おしさがこみ上げ、十数年ぶりの愛器との語らいに夢中になっている夫にそっと近づくと、後ろから抱きしめ亜麻色の頭の天辺に頬を寄せた。

「おはよ…。アリョーシャ」

「…おう」
ぼくに見られていた事に少しの照れ臭さを覚えたのか、少し決まり悪そうに挨拶とも言えない挨拶を返す。

「ふふ…」

「何だよ…」

照れ隠しにわざとぶっきらぼうに言ったアレクセイの腕に収まったストラディヴァリにそっと手を伸ばし、艶やかな表板を指で撫でる。

「おまえ…。ありがとうね。また、アレクセイの元に戻って来てくれて」

アレクセイの片方の手が、楽器を撫でるぼくの手の上に重ねられる。

「…そうだな。こいつも…長い旅を経て、ここへ戻って来てくれた。そうして俺は今、最愛の妻と楽器の両方をこうして手にしている。…なぁ、こいつ、俺の手から離れた後も大切にされていたんだろうな。…アナスタシアからイザーク、そしてダーヴィト。奇遇にも俺の大切な友人たちの手を経て、大切にされてこうして俺の元へと戻って来た。人の世の縁って…不思議だよな」

この楽器は、当時はクラウスと名乗っていたアレクセイが、レーゲンスブルグを去った日にやむなく列車に置いてきたために(まあ…色々あって…。今にして思うとあのときはぼくも、そしてクラウスも…随分と無茶をしたものだ)、その後流転の運命を辿ることとなった。
だけど、楽器自体もこの魅力溢れる持ち主とはなれがたかったのだろう。
アレクセイと離れた後も、彼に近しい人間を、まるで自らの意思で選ぶかのように、アナスタシア、イザーク、そしてダーヴィトと、三人の所有者の手を経て、再び戻るべく場所に戻って来た。

ー ゴメンね。そしてありがとう。

あの日クラウスがぼくを選んでくれたために、流転の運命を辿ったこの夫の愛器を、もう一度万感の思いを込めてそっと指で撫でる。

「おい、せっかくだからちょっと付き合え!」

夫を背中から抱きしめる形で腕を伸ばし、楽器を撫でていたぼくの手をアレクセイが握りしめ、ぼくたちは寝間着のまま寝室を出て行った。

「え?えー?」

左手に楽器、そして右手でぼくの手を引き、アレクセイが向かった先は、音楽室だった。