こらぼでほすと 秋刀魚2
「いいや、酒のアテだと、もう少し辛い目のほうがいいってだけだ。ごはんなら、これでいいよ、娘さん。」
「ねーさん、酒飲みのことは気にすんな。きんぴらは、これでいいって。」
「ニラを巻いたのはおいしいですね、ママ。これ、好きだなあ。」
「暑いときのメニューだな。彩り良くなって野菜巻きはいいよ。勝手に野菜も摂れるしさ。なあ、リジェネ? 」
「ニンジンって、変な味なんだもんっっ。僕、食べてるよっっ、ママ。」
「でも、これなら気にならないんだろ? 」
子供メニューのリジェネに野菜を摂取せるとなると、こういうものが有効で、いろいろと試してみた。これなら豚肉で誤魔化されて、野菜も食べてくれるからだ。「吉祥富貴」のスタッフは、それほど好き嫌いはしないので気にならなかったが、リジェネは食べたことがないものが多くて、好き嫌いが多い。それを克服させるために開発されたらしい。
「あははは・・・なるほど。軍に入ると好き嫌いはしてられなくなるからなあ。」
「決められたものしかありませんからねぇ、アマギさん。」
レイたちはアカデミーから寮生活だから食事も決められたものしかなかった。だから、好き嫌いしていては食べられるものがなくなるから、そういうことで困ったことはない。
「ねーさんは、どうなんだ? 好き嫌い。」
「うーん、これといってはないかなあ。ゲテモノは困るけど、それ以外なら。」
「まあ、きみも、ある意味、軍生活に近いだろうからなあ。」
「ゲテモノとなると・・・・イラブーあたりは該当するかな? アマギ。」
「あれは調理されていれば、わかりません。オーヴに出向いた時に食べさせなかったんですか? トダカさん。」
「イラブーはなかったと思うよ。ヤギは食べさせた。」
なんだか不穏なブツがあるらしい。ニールが視線でシンに尋ねると、「ウミヘビの干物。」 と、返事が来た。
「ウミヘビ? 食べられるんですか? 」
「郷土食だよ、娘さん。最近は、大々的に食べているわけじゃないけどさ。もちろん陸のヘビも食べるし。あれはスタミナ食という意味合いが強いかな。」
「心配しなくても、お祝い事とかの料理で、普段は食わないって、ねーさん。俺も、そんなに食ったことねぇーから。」
現地人のシンですら、それほど食べていないなら食べることはないんだろう、と、ニールも笑っておくことにした。そうでないからカガリからの差し入れに、そのブツも混入されていただろう。
「食べたいかい? 」
「いえ、いずれでいいです。」
「特区では、オーヴ料理の店ならあるんだけどね。」
「わざわざはいいです、お父さん。」
「欧州だって、いろいろと食べるだろ? きみのところは羊さんとかウサギさんは定番メニューじゃないか。」
「確かに哺乳類なら、特区より肉の種類は多いですが、両生類まではありません。・・・うーん、うちのほうはヘビとか両生類って食べないなあ。」
「気候の問題だろうね。きみらのところは寒いから両生類は、さほどいないんだろう。」
「あーなるほど。温帯気候だと両生類は繁殖しやすいってことか・・・」
「なあ、その話題、やめてくんねぇ? なんか生々しい。」
「ごめんごめん、シン。」
食事時の話題ではなくなってきたので、話題は変える。レイは、ニールの口に肉巻きを投げ入れているし、シンも、おにぎりを取り皿に置いている。
「せっかく作ったんだから、ちゃんと食え、ねーさん。」
「ママ、ママも野菜摂取してださい。」
「はいはい。」
相変わらず、ニールは食わないので、そこいらはシン、レイ、リジェネが強制的に食わせている。ニールの体調は安定しているのだが、体重が増えない。そこいらが、年少組の今後の課題となっている。
「シンは琉装はあるのかい? 」
「いいや、持ってない。ちょっ、とーさん、俺、着ることないからいらないぞっっ。」
「でも、公式行事では着ることもあるだろ? 」
「軍服があるから着ないよ。衣装を作りたいなら、ねーさんのを作ればいいだろ? 」
「それは作ろうと思うんだけど、ついでに、おまえたちのも用意しようかと思ってね。」
「はい? 」
「だって、娘さんのサイズとなると、いいものはないからさ。」
「いやいや、トダカさん? 今回の接待だけですよね? また借りればいいですよ。」
「ちゃんとした紅型の衣装って、もっと綺麗なものなんだ。それを作りたいなあ、と、お父さんは思うのさ。きみだってリジェネくんには、着せたみたいだろ? 」
「作るほどとは思ってませんよ、俺は。だいたい、あれ、女物でしょ? 外で着られない。」
「男物も用意する。」
「いりませんっ。もったいない。俺は公式行事には縁がないんだから貸衣装で十分です。」
「アマギ、うちの娘さんが反抗期だ。」
「違いますっっ。」
「トダカさん、オーヴから本物を借り出してきましょう。それで写真を撮られたらいかがですか? あちらなら、ちゃんとしたものもサイズもありますから。」
妥協案をアマギは提案する。要は、子供たちと揃って正装で写真なんか撮りたいってことだから作らなくてもなんとかなるのだ。本国で用意させれば、衣装も本物があるし、サイズも豊富だ。トダカーずラブは本国にもいるから、そちらで手配させれば、すぐになんとかなる。オーナーの衣装部から外注して取り寄せた琉装は、紅型ではあったが生地からして安いものでトダカは、そこいらが不満だ。オーヴは島国国家で地域ごとに民族衣装も違っている。トダカやシンは、琉装の地域の人間だから、公式の正装となると、それになるのだ。
「それでもいいな。頼んでいいかい? アマギ。」
「はい、承ります。・・・・・ということなんで、きみたち、トダカさんと家族写真を撮るように。」
「家族写真か・・・それはいいな。そういうことなら、俺も賛成。アマギさん、リジェネの分も。」
「わかってるよ。何着か用意させる。」
「俺、ママの男女両方の衣装と一緒に撮ってほしいです、アマギさん。」
「はいはい、そのつもりだ。大使館なら髪も結えるし、そこでやってもらおう。」
「俺、レイにも男女の衣装着てほしいなあ。おまえ、絶対に綺麗だぞ。」
「俺は、なんでも受け付けるぞ、レイ。」
なんだか、トントン拍子に話が進んでいく。そういや家族写真なんてものを昔、撮ったことがあるなあ、と、ニールも思い出していた。確かに家族で正装して写真を撮っていた。年齢ごとに毎年のように撮っていたから、ニールも懐かしいと思う。今は、あの当時の写真は捨ててしまったからない。全部切り捨てるために家に置いて出たのだ。
「ママ、僕も家族でいいの? 」
こそっとリジェネが耳打ちしてきた。リジェネにとって、ニールはママだが、トダカの言う家族というものには該当していないように思ったらしい。
「もちろん、リジェネも家族だ。俺は、おまえのママなんだろ? 俺の保護者はトダカさんなんだから、家族という括りに該当してるんだ。寺も、そうだろ? 」
「・・・う・・うん・・・」
「もちろん、リジェネも家族だぜ。俺にとって、ねーさんだし、レイにとってはママなんだから。なあ、とーさん。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚2 作家名:篠義