こらぼでほすと 秋刀魚2
リジェネの言葉に、シンは大声で宣言する。血の繋がりなんてものはないが、それでも家族だ。ちゃんと、みんな、繋がっているから、わいわいと騒げるのだ。
「当たり前だ。リジェネくんも家族だから一緒に写真に写るんだよ。ニールが、私の娘なんだから、きみは私の孫ということになるからね。」
「それでいうと、悟空も刹那たちも家族になるから大家族ですね? トダカさん。」
「はははは…本当にねぇーアマギ。あの独占欲の強い婿殿も家族だよ。・・・・まあ、今回は、ここにいるのだけにするさ。本当は悟空くんも誘いたいんだけど、あの婿殿も誘わないといけなくなるんでねぇ。」
大笑いしてトダカは決定する。プラントで撮ったのも、衣装が不満だった。ちゃんとしたものを用意したいと思うのは、親バカだからのことらしい。
食事が終わってコーヒーを用意する。ただし、トダカ家のサーバーは小さいので全員分は用意できないから、トダカだけカップ満杯にして、他は半分くらいをコーヒーカップに注ぐ。はい、どうぞ、と、ニールがテーブルに置くと、いい匂いがする。トダカが代表して、こくっと口に含むと、さっぱりし味と香ばしい匂いが広がる。虎特選のコーヒー豆ともなると技術が、どうとかではなく美味しいものだが、それが娘が淹れてくれたところが、お父さんにはとっては、ものすごくポイントが跳ね上がる。
「うん、美味しい。娘さん、上手だ。」
「ああ、よかった。」
「高級感満載だなあ、ニール。確かに、これは美味い。」
アマギも相伴して、うんうんと頷いている。レイはブラックで、シンは砂糖のみ、リジェネは砂糖ミルクたっぷりだが、うんうんと頷いて飲んでいる。まあ、よほどの失敗をしない限り、この豆なら問題はない、と、虎も言っていたから、ニールも、ほっとする。
「これ、婿殿にも試作してやったのかい? 」
「いえ、うちのほうでは淹れてません。三蔵さんは、里で飲めと言うんで。」
「はははは・・・いいねぇー娘に淹れてもらって飲めるなんて至福の時だ。」
「この豆、虎さんの一品で、ものすごく高いんでしょうねぇ。あと二回分くらいしかありません。」
「あの人、コーヒー豆への拘りは半端じゃないからなあ。なくなったら、また私が探しておくさ。」
「次は、もうちょっと安いのにしてくださいね? トダカさん。俺、こーいうのはビビります。」
「私の好みのを用意するよ。」
私はブルマンよりモカのほうが好きなんだ、と、おっしゃる。コーヒー豆は各人の拘りがあるらしい。ニールは、ネスカフェの少し薄目あたりが好きだが、どこいらに該当するのかは、さっぱりだ。
「これは美味しいのはわかりますが、豆の種類は、さっぱりです。」
「俺も、そういうのわかんねぇー。ねーさんは、どーなの? 」
「俺も、さっぱりだ。すっぱいとか苦いとかはわかるんだけど、どれも美味しいとは思うんだよなあ。」
「僕は、ママのココアが一番だなあ。」
トダカとアマギ以外は、まだまだ、味わうレベルではない。やれやれ、と、ふたりして溜息をついている。たぶん、この豆は、コーヒー一杯でビールケース一つよりも、はるかに高いはずだが、それを言うと、飲まなくなるので黙っておくことにした。嗜好品というのは年齢とともに拘りが出てくるもので、若者には、そこまでのものはない。イザークやアスランのように幼少のころから、高級品を味わっていれば、それなりに味はわかるようになるのだが、ここにいる人間は全員が庶民派だった。
「トダカさん、ウヅミーズラブの方たちって、何か会話に気を付けることはありますか? 」
「いいや、ただのおじさんたちだから気にしなくていい。きみに、難しいことを言ったら、私が雷を落とすさ。」
「というかさ、とーさん。ねーさんの素性って大丈夫なのか? 」
ニールの素性は『吉祥富貴』では知れ渡っているが、オーヴでは知られていない。そこいらの質問はされても困るだろうとシンが質問する。
「そんなことを言うバカはいないねぇ、シン。いろいろと知っていたとしても、そういうものは言わないのが礼儀だ。・・・だから、娘さん。気にしなくていいから。」
「あーご存じでしょうねぇ。あの時も、何もおっしゃいませんでしたし・・・」
以前、ヘブンズビーチで顔を合わせた時も、ニールは言葉を濁して礼を言ったが、ちゃんと相手も言葉は濁して返してくれた。ニールの素性は知っているはずだ。だが、公にするマズいから言質にしないようにしてくれていた。そこいらは、さすがウヅミーズラブ一桁組というところだろう。
「まあ、カガリ様の陰の部分を牛耳る奴らだから、そこいらは承知しているさ。」
「そういうものなんですか? トダカさん。」
「ああ、そういうものだよ、レイ。飲み会の席で、そんなディープな話はしないものだ。キラ様だって、公式にはカガリ様の知り合いというこになってるしねぇ。姉弟だと知っていても、それに言及するのはバカのすることさ。」
「そういうことならいいんだ。俺とレイは顔を出さないつもりだけど、それでいいよな? とーさん。」
「別に顔は出してくれてもいいよ、シン。VIPルームのほうじゃなくてホールのほうを頼むことになると思うが。」
「なら、アスランに確認しとくよ。あと、ねーさん、絶対に酒は飲まされるなよっっ。危ないからな。」
「あははは・・・トダカさんがいるから大丈夫だよ、シン。八戒さんとハイネもいるから飲むほうは、みんなが担当する。」
「大丈夫だ、シン。そんなことをしてみろ、トダカさんが怒る。危険なのは、みなさん、重々承知しておられる。」
トダカがキレると、とんでもないことはウヅミーズラブ一桁組は、よーく知っているし身に染みている。けっしてニールに飲酒なんてさせないだろうと、アマギが苦笑する。年齢とともに堪忍袋の緒は長くなってはいるが切れたら、恐ろしいのは実体験している面々だ。
「そこまでなのか? 俺、とーさんがキレたのなんか見たことないぜ。」
「俺もです。」
「おまえたちでは私を怒らせるクラスのことなんて、できないさ。」
「俺、たぶんキレられてますよね? 笑ってるけど怖い時がありました。」
「ああ、あれは娘さんが無茶するからさ。・・・・もう、ほんとうに何度、怒鳴ろうかと思ったか・・・・でも、悲しい顔をされると私の胸が痛いからさ。」
「ああ、やっぱり。」
「まだ体調は万全じゃないんだからね? 無理して働くのはやめてくれ。」
「はい、すいません、お父さん。気を付けます。・・・・うーん、というかリジェネが暮らしてからは、無茶してないですよ。こいつ、俺が息が切れただけで泣きますから。」
「だって、苦しそうにされたら怖いんだもんっっ。ママ、休憩してくれないしっっ。」
「うん、ごめんな? 適当に止めてくれて助かってるよ、リジェネ。」
「俺もリジェネには感謝しています。ママが、あまり発熱することもなくなって安心していられる。」
「もう、発熱はしないと思うんだけどなあ。」
「いいえ、そんなことはありません。俺だって怒鳴りたいと思うことが、何度もありました。・・・・だいたい、今日は、この弁当制作だけで重労働のはずです。昼寝はしてもらいます。こんなに作るなら、俺を呼んでください。手伝えるんだから。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚2 作家名:篠義