こらぼでほすと 秋刀魚3
みんな、与太話で盛り上がっている隙に、ニールは髪の毛に取り掛かられている。結い上げはしなくてもカンザシをさすために左右を三つ編みにしてまとめている。首元にもサンゴの大きなネックレスが飾られていくので、大きく息を吐いた。お父さんは本気だ。いくら高級品に疎いニールでもアクセサリーがなんちゃってでないことぐらいはわかる。これ、総額とんでもねぇーんだろーなーと思ったのだ。
「うわぁーママ、素敵ですっっ。」
着替えが終わったレイも顔を出した。大喜びだ。シンに写真を撮ってくれ、と、叫んでいる。いつもならレイも女装組だが、今回はホールの手伝いだから男装だ。髪は後ろで束ねていて、なかなか精悍な官僚様になっている。
「レイは格好良いな。」
「ありがとう、ママ。何か飲みませんか? それと軽いものを召し上がってほしいです。」
「じゃあ飲むくらいで。ポカリとかないか? 」
接待は三時間弱の予定なので、少し腹にも入れてもらいたいとレイは勧めるが、そこまでは無理だ。飲むくらいでいい。そうすると紅が果物を運んできた。これぐらいは食わせろ、と、爾燕からの指令だ。
「ニール。マンゴーだ。食え。」
「え? 紅、これ、客用じゃないのか? 」
「大丈夫だ。うちのスタッフ用の分だから。スタッフ用の軽食は事務室にあるから各人で摘まんでくれ。」
マンゴーは高級品。そう思うとリジェネとかレイたちに食わせたくなるのがママというもので、フォークでさして、レイの口に投げ込む。リジェネのほうはポカリを手にして戻ってきたから、そこにも一口。そこで紅にフォークを取り上げられた。
「ニール? 」
「え、いや、だって、これ、高級品・・・紅も味見しろよ。」
そして、レイはニールの両手を掴んで、「紅、すまないがママの口に放り込んでくれ。」 と、指示する。食わないのは、いつものことだから、無理矢理が正しいニールの取説だ。はいはい、と、紅のほうもニールの口に投げ込む。
「あのさ、俺らはホールだから適当に事務室で食えるんだ。あんたは常時、接客だろ? だから食えって言ってるんだよ。・・・はい・・・はい・・・リジェネ、ポカリ。」
「そうだよ、ママ。・・ハイ、飲んで・・・」
ある意味、これってイジメじゃね? と、ニールは内心でツッコミしているが、スタッフは微笑ましいものとして鑑賞している。トダカも様子見にアマギとやってきて、微笑んでいる。
「ああ、可愛くなったねぇーうちの娘さん。」
「アマギさん、あの皇帝と皇女セット、どっからの調達品なんだ? 本気度が、お素敵すぎてるぞ。」
「鷹さんには敵わないなあ。あれは、カガリ様から、一式、お借りしたんだ。あれ以上のものはないだろうなあ。」
「うわぁー本気どころか、本物の衣装か。そりゃきらびやかなはずだ。」
「あれならキラ様とニールのサイズに、お直しもできるんで合わせてもらったのさ。」
確かにキラは男性としては小柄だし、ニールは女性としては大柄だ。そこいらの衣装の調整もさせるとなると個人所有のものでないと難しい。カガリもキラとニールが着るのだと言ったら、一発オーケーだった。もちろん謝礼として、ふたりの写真は所望した。カガリは、琉装が民族衣装の地域ではないが、各地域ごとの衣装も用意しているし、それなりに種類も保存している。オーヴでも各地域の公式行事に出席する場合は、衣装も合わせる必要があるからだ。そして、アマギも琉装だ。トダカーずラブは接待する側として参加してもらうことになっている。
「予定三十分前です。そろそろ、打ち合わせをさせてください、トダカさん。」
アスランも男装でやってきた。アマギたちも手伝ってくれるので、ホールのスタッフも数は足りているが、注意事項やらの説明は必要になる。食わされ終わったニールも、やでやでと立ち上がる。両側にはレイとリジェネがひっついている。
「すまないが頼むよ? 娘さん。それと、これもつけてくれるかい? 」
トダカは懐から布に包まれたものを取り出して、ニールの指につける。指輪だ。これもサイズを調節してある。
「お父さん、これ。」
「うん、自慢の娘を披露するんだから、これぐらいはしなくちゃねぇ。ははははは。」
カガリから指輪も借りてサイズを調整させた。本気が過ぎるが、トダカには、いいイベントであるらしい。ものすごく楽しそうなので、ニールも笑っておくことにした。大きな珊瑚玉のついた指輪は、ニールの指にぴったりになっている。
「玄関前でのチェックはダコスタ。エントランスでの出迎えは、鷹さんとハイネ。ホールで、お客様が揃うのを待って、VIP組の案内はトダカさんとニールでお願いします。リジェネ、案内まではママニールの傍にいてくれ。」
「挨拶なしか? アスラン。」
「全員が揃ったら、キラとトダカさんに挨拶してもらう。あとはホールは無礼講だから、適当に飲み物の配達を、お願いします。トダカーズラブのみなさんも、適当に召し上がってください。ホスト役ですが、召し上がられる方の相手ですから、一緒に召し上がっていただくほうが自然です。それから二階のVIPルームへの出入りは制限するから、お客様が勝手に行かれそうだったら阻止してくれ。」
「まあ、辿り着いたら俺が放り投げるけどな。」
「悟浄さん、ケガはさせないでくださいね。」
「わかってるよ、アスラン。」
「食事のほうは適度に、厨房から運ぶので手伝い頼む。VIPのほうは俺と紅で行く。」
「シン、レイ、厨房で待機して食事の運搬してくれるか? 」
「了解っす、アスラン。お酒のほうは、どーすんの? 」
「俺が適当にやる。野郎ばっかだからビールとか泡盛とかで済むと思う。VIPのほうは悟浄が担当してくれ。」
「はいよ。こっちも強い酒になるだろうから、適当に運んでおく。」
「悟浄さん、俺のママにはウーロン茶をお願いします。」
「はいはい、わかってるって。トダカさんがいて、ママにゃん、酔わせようとするバカはいないと思うけど、一応、監視はしておく。」
アスラン、シン、レイは、オーヴでも、そこそこ顔が知られているので、あまり派手には動かない方向だ。なるべく、ホールでも動かないほうが安全なので、バックヤードの担当をやる。
「悟空、僕も着替えたらホールの手伝いするから。」
「ああ、じゃあ、俺と動こうぜ、キラ。」
逆に、キラは有名人なので周囲へのプレッシャーのために露出多めになる。ボディガード役に最強の悟空がついていれば、問題はない。
「写真と盗聴については、セキュリティーで判明したら、そのお客様はタコ殴り。」
「わーった。俺が担当な。」
「悟空、骨折させちゃダメですよ? 打撲程度にしてください。機械は完全に破壊してくださいね。」
「りょーかいっっ。」
「そんな輩は半殺しでもいいんだけどねぇ。」
「トットダカさん? 」
「だって、そんな基本の決まり事すら破るのはバカだからさ。悟空くん、遠慮はいらないよ。あと、うちの娘さんを口説くバカは八割殺しで。」
「トダカさん、そんな人はいませんよ。ほぼ、俺の姿は、お化けですから。」
「わかっちゃいないねぇー娘さん。きみ、攻略対象キャラ扱いになってただろ? 気を付けないとね。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚3 作家名:篠義