こらぼでほすと 秋刀魚9
それは実弟からも言われているし刹那からも宣言されている。なんせ、黒子猫は実際に大気圏降下をやらかしたことがあるのだ。実弟も黒子猫も、ニールが害されるなら地球を容赦なく攻撃する、とか言い放っているのでヤバいこと、この上もない。
「うーん、そう考えると三蔵で亭主は決まりだな。誰も敵わないんだからさ。」
「でも、カガリ、悟空なら、なんとかなりそーですよ? 」
「でも、悟空の希望は、おかんだろ? だから、三蔵の女房ってことになるじゃないか。」
「ああ、そうですね。」
「理想的な夫夫なんだよなあ。腹立たしいとこが多々あるんだけどさ。」
宇宙一高名な歌姫様と国家元首様が、しみじみと語っているとタイムアップしてしまったらしくオーヴ組の人間は、すごすごと引き返した。
「私もママとゴールしたかったんですけど、虎さんでした。」
「私なんか、悟浄だぞ? 解釈どころじゃなかった。しょーがない、とりあえず、おかんとお茶でも飲むか? ラクス。」
「よろしいですわね、カガリ。片腕ずつで? 」
「おう、それでいい。アイスティーがいいなあ。」
「よろしいですわね。」
背後にある軽食コーナーのタープへ両腕を確保されたニールは引き摺られていく。競技は、まだ続いているので、他は、そちらの観覧だ。何事かとんでもない解釈をつけたものが飛び込んで来たら、容赦なく拒否する。
「あれ? ママは? 」
「ちょっと奥でティータイムだ。」
リジェネが戻って来て、ニールの許へ素っ飛んで行く。人探しの紙は、まだあるらしく二回三回と若いものは走っている。とうとう、トダカも指名の紙が出て来た。持って来たのは八戒だった。
「すいません、トダカさん。一緒に、お願いできますか? 」
「ああ、いいよ。まだ、あるんだねぇ、八戒さん。」
「ええ、オーヴ組の方がトダカさんが出るまで続けさせてほしいということでしたので、たぶん、これで終わります。」
「おや? 娘さんは? 」
「ハイネが引いて破棄しました。あまり走らせてもダメだろうと。」
解釈できるとニールを選ぼうとするので、当人の指名分は抜いたらしい。さすがに走らなくても往復していれば疲れるからのことだ。それならいいさ、と、トダカも歩き出す。さっき、とんでもないのが来たよ、と、説明すると、「死にたいんですかね? 」 と、八戒はコロコロと鈴が鳴るように笑っている。
「うちの娘、人気があって心配だよ。」
「まあ、大丈夫です。三蔵と悟空に敵う人間はおりませんから。」
「そうだねぇ。あの二人に打ち勝てる人間はいないだろう。オーヴのほうは、じじいたちが止めてくれるだろうから大丈夫だろう。」
のろのろと歩いて最後にゴールした。これで、オーヴ組も諦める。結構、時間はかかったが人探しも、これで終わりだ。続いて最後のメインイベントになる。とりあえず二十四対一の騎馬戦となるが、どう考えても勝てそうにはないので、あれこれと考える。
「まずは人海戦で、隙を狙ってママの帽子を奪取する? 」
「まあ、そんなとこですね、キラさん。悟空に飛んでもらうのは有効かな。」
「それなら俺と悟空で空中戦を仕掛けたら、どうだ? 二人が飛べば、どちらかはフリーになるはずだ。」
「それでもいいよ。ただし、僕らの誰がママの帽子を取っても機会は均等になるからね。」
「ていうかさ、別にねーさんの独占なんて希望はねぇーんじゃねぇーの? 」
「私は独占させていただきたいですわ。」
「私も独占が希望だ。」
「じゃあ、カガリとラクスは単独で。僕は連携でいい。」
大将になるものたちが揃って議論しているが、馬役のほうは気楽なものだ。大将役がケガしない程度で接近するつもりだし、本気でやったら怪我人続出になるので安全策をとる。
一騎のほうも気楽なものだ。喧々諤々している相手を眺めて涼しい顔をしている。一気にかかってきたら八戒が軽く気功波を出して馬役を転がすつもりだし、お猿さんと王子様は飛んで来たら殴り倒すつもりもしている。そういう打ち合わせはしなくても、なんとなく通じているので話し合うこともない。
「いいですか、ニール。とにかく、帽子を死守して三蔵にしがみついていてください。走り回りますから、あなたがバランスを崩すのが危険です。」
「了解です。これ、全員を倒すまでなんですかね? 八戒さん。」
「いえ、二十分で終了するそうです。」
「生死を問わないっていうんなら楽勝なんだけどさ。ケガさせないようにっていうのが面倒だな。」
「多少はケガしてもしょうがねぇーだろ。ハリセンはいいんだろうな。」
「いいんじゃねぇーか。一々、殴ったり蹴ったりするのも面倒だ。」
「絶対に崩れるなよ、悟浄。崩れたら即死させてやる。」
「へーへーわかってるよ。・・・・ん? マグナム持って来てんのか? このあほ坊主っっ。」
「護身用だ。」
「それ、みなさんに撃つなよ? 死ぬんだからな。あと、魔界天浄もすんなよっっ。紅と、うちの兄貴が死ぬからな。」
「おまえも死ね。」
「三ちゃん? 俺らが死ぬと馬が崩れるんですけどぉー? 」
「ちっっ。」
日常会話なので気にしてはいけない。すっかり、この会話にニールも慣れたので笑っている。殺伐としているが、いつも、これなのだから慣れる。なんだかんだと言っても、三蔵と悟浄も仲は良いのだ。
「最初に僕が馬の足を止めますから。」
「ああ、気功波ですね。混戦すると危ないですもんねぇ。」
「ええ、それで半数は倒れると思います。あとは悟空と紅の空中戦を抑えれば、なんとか。」
一応、流れは八戒がニールに説明する。そういうわけで動きまくるのでニールが落ちないようにしてもらうためだ。なんだかんだで、すっかり夕方になっている。これが終わったら、別荘で打ち上げをやって、この運動会も終わりだ。
「そろそろ、始めましょうか? 三蔵さん。」
アスランが拡声器で声をかけてきた。おう、と、こちらも馬を組んでニールが乗り込む。赤い体育帽をかぶったら準備オッケーだ。相手も全員が騎馬になる。余っているオーヴ組が拡声器で、「騎馬戦開始っっ。」 と、空砲を撃つ。一斉にオーヴ組の騎馬が迫ってくる。
「三蔵、反転してください。」
迫って来た距離を確認して八戒が声をかけると、三蔵がくるりと背中を向ける。馬役の八戒が前を向く形になる。すいませんねぇーみなさん、と、暢気に声をかけて軽い気功波だ。いきなりのことでオーヴ組の騎馬は馬がつんのめって倒れる。
「うっわぁーーーえげつねぇー。」
キラを乗せているハイネは呟く。まあ、気功波は予測していたので、最初に飛び込まず、様子見していた。先陣を切ったカガリンラブの騎馬たちは綺麗にひっくり返った。
「キラ様。」
「んー? 」
「あれは? 」
「八戒さんがマッサージで使ってる気功波だよ。気を付けてねー。」
一桁組も様子見していたので無事だが、びっくりだ。確かに宴席でマッサージはしてもらったが、あんな威力が出せるもんとは知らなかった。八戒としては、もっと威力は出せるがケガさせるわけにはいかないので、かなり出力は絞ってはいる。
「これで半分くらいになったな。」
「ここからだ。悟空、俺らは側面から行くぜ? 」
「おう、紅、俺はシンの背後から行くけど。」
作品名:こらぼでほすと 秋刀魚9 作家名:篠義