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独伊?(お題チャレンジ…)

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しかし、分かっていることなどそう多くは無く、自然イタリアの想像は空回りしてしまう。
空回りですめばまだよいが、時には暴走し、あらぬことまで考えてしまうのだ。
こうしてベッドに入る前にドイツに昨夜の夢の話をされてからも、イタリアの豊かな想像力は果てしなく広がり続け、今や目は開いていてもその視界に現実は写らず、
脳裏に浮かべた世界が色も鮮やかに展開されているのだった。
(神聖ローマ…)
青く光る闇の中に一人佇む子供の姿を思ってイタリアはひどく落ち着かない気分になり、ころりと寝返りをうった。
「ん…」
その微かな振動に反応したのか、隣で眠るドイツが小さな声を上げた。
起こしてしまったか、と潜り込んだ胸元からこっそり顔を覗き込むが、静かな寝顔は再び安らかな寝息を立てていた。
ほっと息をつきながら、イタリアはその端正な顔から目が離せなくなっていた。
目を開いている時には分かりにくいが、目を伏せたり、こうして閉じたりしていると金の睫が驚くほど長く繊細であることがわかる。
いつもはきゅっと寄せられている眉が、流石に眠っているときには開かれて、無防備に緩められた口元と相まって普段より五つは若く、いや幼く見える。
その生真面目さの証とでもいうように常に上げられた前髪が白い額を覆っているのも、昼間とは違う、柔らかな印象を与えている。
(やっぱり、似てる…)
いつも訓練場や、会議の場で目にするのとは異なる、幼い寝顔を見るたびにそう思う。
(こんなに似てるのに…)
ぺたり、とイタリアはドイツの闇の中に薄く光るような白い頬に触れる。
(こんなに似てるのに、お前はあの子じゃない)
イタリアは、何度も何度も想像を巡らし、時にはドイツ自身に試すようなことも繰り返した末に得た結論を再び己に言い聞かせるように頭の中で呟いた。
(あの子はいない。もう、どこにも)
例えドイツと神聖ローマがその肉体を共有しているのだとしても、ここにいるのはドイツであって、神聖ローマでは無い。
神聖ローマの記憶は喪失されている。
いや、もしかしたら、その魂自体が。
(だって彼は死んでしまった。死んでしまったんだから)
脳内に、今朝ドイツが話してくれた夢の中の少年が蘇る。
夢の中に現れた彼は、神聖ローマの魂だろうか。彼の魂は、未だこの地に縛り付けられ、さ迷っているのだろうか。
そうであってもおかしくはない。彼は志半ばで倒れたのだから。
彼の無念の中に、自分の存在はあるだろうか。
彼が果たせなかった後悔の中に、自分との約束も含まれているのだろうか。
考えても詮の無いことなのに、眠れない夜、イタリアはメビウスの輪のようにいつまでも終わらない思考の輪に囚われて抜け出せなくなってしまう。
もし、ドイツが神聖ローマならば、彼が神聖ローマだった頃の記憶を失っているだけならば、いつかは答えが得られるのかもしれない。
けれど、きっとそんな日は来ないだろう。
何度も何度もこんな風に思い出と思考の輪の中に囚われて眠れぬ夜を過ごしながら、イタリアは決めたはずだった。
ドイツが何者であろうと、今自分が抱いている気持ちだけが真実なのだと。ドイツを好きだというこの気持ちに変わりは無いのだと。
(それなのに)
ドイツの白い頬に、触れるか触れないかの柔らかさでそろそろと指先を滑らせながら、イタリアは歯噛みした。
(それなのにおれは、やっぱり、まだ諦め切れてない…)
ドイツの中に神聖ローマの影を見つけるたびに、心臓が跳ねてしまう。
それはドイツに対する裏切りなのでは無いか、実際プロイセンもオーストリアも、
ドイツと神聖ローマを重ねて見ることを快く思わないために自分には何も話さずにいるんだろうと思うのに、
神聖ローマの思い出や約束は、もはや信仰のようにイタリアの中に根付いていて、どれだけ真摯に決別を誓っても、思いがけなく立ち現れては心をかき乱す。
(…違う)
信仰なんて、綺麗な言葉で片付けていいものじゃない。
イタリアはそれを本当は自覚している。
己の内部に深く根付いて決して離れないもの、この思いの名前。それはきっと「執着」
ドイツは神聖ローマを化け物と呼んだ。彼を化け物にしたのは、彼に化け物と呼ばせたのは、きっとおれの醜い執着心だ。
眠るドイツの頬を撫でていた指を、ぎゅっと己の手の内に握りこんでイタリアは身体も小さく丸めた。
すっぽりと全身をシーツの中に覆い隠して、己の内に潜むモノをも包み込もうとする。
ああ、そうだ。どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。
ドイツの夢に現れた化け物が神聖ローマであるはずがない。
例え彼が未だこの世をさ迷っていたのだとしても、ドイツの中で眠っているのだとしても、「化け物」などと呼ばれる存在に成り果てるはずが無いのだ。
彼は只管に綺麗な、純粋な、少年のまま逝ってしまったのだから。
醜い、汚い、卑怯な、そんな感情とは無縁のまま、逝ってしまったのだから。
「化け物」
イタリアは圧迫された喉の奥からくぐもった声を上げた。
ドイツの夢に現れた化け物。それはきっとおれの醜い、汚らしい執着心。
神聖ローマに執着しているように見せかけて、本当はただ自分の美しい思い出を守りたいだけの、利己的な気持ち。
ずっと守り続けていた神聖ローマとの思い出が、彼への気持ちが、ドイツに奪われていくことをよしと出来なかった、過去に執着するおれの心が、
きっとおぞましい化け物となってドイツの夢に現れたんだ。
ああ、なんてことだろう。
ドイツを愛しているのに、掛け替えの無い大事な人だと、思っているのに。決して離れたくない、離したくない。これは本当の気持ちなのに。
それでも、神聖ローマへの執着もまた、捨てきれない。
結局いつも二人を比べてどちらかを選ぼうとしている。
「化け物はおれだ」
吐き捨てるように呟いたイタリアの耳に、低い唸り声が響いた。
同時に、静かに上下していたドイツの胸がどくどくと高鳴り始め、触れ合う肌がしっとりと汗ばんできていた。
慌てて身体を起こし、唸り声を上げ続けるドイツを覗き込むと、眉根をぎりりと寄せて苦悶の表情を浮かべていた。
悪夢を見ているのだ。
揺り起こそうかとイタリアの手がドイツの肩に触れたとき、ドイツの唇が、唸り声ではない言葉を紡いだ。
「イタリアと一緒にいたいんだ…」
あまりにはっきりと発音されたその言葉に、目が覚めているのかと思ったが、瞳は閉じたまま開かれる様子は無い。
(寝言だったのか)
(寝言)
(寝言に返事をしてはいけないって言うよね。どうしてだっけ…)
(…ああ、そうだ。寝言に返事を返したら返されたほうは二度と目が覚めなくなってしまうんだ)
(夢の中から、帰ってこれなくなってしまうんだ)
(今の寝言は、一体誰の…)
ぞくり、と背筋を冷たい指でなぞられたかのような感覚が脳髄を犯す。
いけないと分かっているのに、止められない。
禁忌の果実に伸ばす手を止められない。
(もし、返事をしたら)
(帰ってくるのは、誰?)
(目を覚まして、おれの名を呼ぶのは誰?)
(おれを愛してくれるのは、誰?)
小さく吸った息が、喉で高い音を立てる。
ドイツの鼓動と同じリズムで、己の心臓も跳ねているのが分かった。