Lovin’you after CCA12
「何がおかしい!?」
「いや、普通女はさ、男に守られたいもんだろ?でもあんたは違うんだね」
「それはレズン少尉も同じだろう?」
そうアムロに返されてレズンが目を見開く。
「確かにね。私もあんたと同意見だ。でも、男にはそれが分かんないんだよ。実際、守られたい女の方が圧倒的に多いからね」
レズンがドリンクを手渡しながらアムロの肩を優しく叩く。
「レズン少尉…」
「なんて言うか…大佐とアムロはさ、お互いを失う事に人一倍臆病だよね」
その言葉に、アムロがビクリと肩を揺らす。
確かに、自分たちは…特にシャアは失う事に酷く臆病だ。それは過去に大切な人を多く失ってきた事が原因だろう…。
そして、ララァをこの手にかけてしまった事を思い出す。
あれは…一年戦争終盤、丁度…年末の…同じ頃…。
この時期になると…どこかシャアは落ち着きが無く、そして事あるごとに自分を抱き締めてその存在を確かめる。
アムロは自分の手を見つめ、悲しげな表情を浮かべる。
「アムロ?」
レズンが心配気にアムロに声を掛ける。
「…ごめん……今日は…さ、一年戦争の終結の日でもあるんだ」
「ああ…」
「あの日…私たちは本気で殺し合いをした。互いの機体が沈んだ後も、生身で剣を交えてまで戦った」
「生身で?」
レズンの問いに、アムロが切なげな視線を向けながらコクリと頷く。
「ア・バオア・クーの最深部に甲冑とかが置いてある部屋があって…そこにあった剣で直接戦った。私はあの人にとって愛する人を奪った仇であり、ニュータイプとしての力を間違った方向に覚醒させてしまった危険人物として…生きていてはいけない存在だったんだ」
「間違った方向に覚醒?」
「うん、ニュータイプ能力とは…この宇宙で人類が生き抜くために授かった物の筈なのに…私はその力を戦争の道具として使ってしまったんだ。そして、それは人々にとって驚異となった…」
『研究者にとっては…好奇心の対象と…』
アムロはノーマルスーツの上半分を脱ぐと、右肩の傷跡を露わにする。
「あの時…あの人の剣がここに突き刺さって…私の剣がヘルメットのバイザー越しにあの人の額に突き刺さったあの瞬間…初めてあの人とニュータイプ同士の共感をした…その時、あの人の孤独や苦悩が私の中に流れ込んできた…そして…私達は漸く判り合う事が出来たんだ…」
シャアの額の傷を思い出し、レズンが驚愕する。
『あの傷はアムロが…!』
「あの人の孤独を知ってたのに…心の傷を知ってたのに…私は自分の事ばかり…」
「アムロ…」
「レズン少尉…私…シャアに謝って来るよ…」
そんなアムロにレズンが微笑む。
「そうだね。大佐の奴、今頃きっとヘコんでるからさ、ちゃんとあんたの気持ちを伝えておいで」
「うん」
アムロは制服に着替えると、シャアが居るであろうレウルーラの艦橋へと向かった。
艦橋では、気落ちしながらも事後処理に追われるシャアの姿があった。
アムロはシャアへと歩み寄り、そっとその腕に触れる。
「アムロ?」
「…ごめん…」
掴んだ袖をギュッと握る。
「さっきは…貴方の気持ちも考えずに言い過ぎた…」
「いや、私も伝えない事で逆に君を不安にさせていた事に気付かず…すまなかった。決して君を蔑ろにしているとか、信じていないわけでは…」
「いいよ、分かってる」
「アムロ…」
自分を見つめるシャアに微笑むと、掴んでいた袖を離す。
「それじゃ、私もまだ仕事が残ってるから。また後で」
離れるアムロの身体をグッと引き寄せて腕の中に閉じ込める。
「シャア!?」
「アムロ、愛してる。今夜は君と過ごしたい。待っていてくれ」
耳元で囁かれ、アムロが顔を真っ赤に染める。
そんな二人の様子に騒めく艦橋の空気に恥ずかしさが込み上げて、咄嗟に身体を離す。
そして、自分を切なげに見つめるシャアに向かって、戸惑いながらもコクリと頷く。
「わ、分かったから…!」
アムロのその返事に、シャアが満面の笑みを浮かべて「ありがとう」と答える。
その笑顔に安心しつつも、周りの視線に耐えられず、アムロはカイルとミライに一言だけ声を掛けると、足早に立ち去ってしまった。
そんなアムロと入れ違いに入ってきたレズンが、シャアの表情を見て笑みを浮かべる。
「なんだ、心配する事無かったみたいだね」
クスクス笑うレズンにミライが声を掛ける。
「ありがとう、貴女のお陰ね」
「いや、私は別に…。それより、アムロのニュータイプ能力が間違った方向に覚醒って…」
「アムロがそんな事を?」
「ああ」
ミライは少し思案してから、首をそっと横に振った。
「そうね、生き残る為とはいえ、アムロは戦闘によってニュータイプ能力に覚醒したわ。でもね、あの日…ア・バオア・クーで…おそらくアムロが死を覚悟した時、私たちの…仲間の姿が見えたそうなの。そして、今にも炎に巻かれようとしていた私達に声を届けてくれた…」
「声を?」
「ええ、不思議だけれど、アムロの声がはっきりと聞こえたの。ホワイトベースはもう沈むから…急いで退艦命令を出すようにって、脱出用ランチを出して逃げろって…」
「そんな事があり得るのか?」
レズンの問いにミライが微笑む。
「クルーの一人一人に声を掛けてくれたわ。そして、みんなをランチの所まで導いてくれた。でも、最後にセイラが合流した時…ランチにアムロの姿は無かった。私たちは…炎に包まれて沈むホワイトベースを見ながら…アムロが自分を犠牲にして…みんなを守ってくれたのだと理解した…」
ミライの言葉に艦橋のクルーが騒然とする。
「アムロはどうしたんだ!?」
「子供達が…ホワイトベースに乗っていた子供達がアムロを見つけてくれたの。そして、死を覚悟していたアムロに希望を与えた。アムロは辛うじて動かす事の出来たコアファイターで私たちのところに帰って来てくれた…。燃え盛る要塞からアムロの姿が見えた時の事は…今でも忘れられないわ…」
その時の光景を思い出し、ミライの瞳に涙が滲む。
「私たちを結びつけたあれこそが…ニュータイプ本来の力だと思うの。アムロは間違ってなんかいないわ。彼女はニュータイプ本来の力も併せ持っていたのよ。ただ、あの時の状況が彼女に戦闘を強いてしまっていただけ」
生き残る為、仲間を守る為、その能力を戦闘に使っただけ…ララァという少女同様、彼女もまた、戦争をする人ではなかった。彼女はただ、巻き込まれただけなのだ。
しかしあの時、私達の元に帰ってきたのは彼女にとって正解だったのだろうか…“同志になれ”と言ったシャアの手を取り、共に行っていれば…人体実験の被験体などにならずに済んだのかもしれない…。
ミライの思惟を感じ取ったシャアがミライの肩をそっと叩く。
「過ぎた事だ…。過去を変える事は出来ない。ならば、これからの彼女をこの手で守る事が我々に出来る事だ…」
そう告げるシャアにミライが頷く。
「そうね、それが私たちが彼女に出来る唯一の事ね」
その夜、カウントダウンの声が響き渡り、人々の歓声と共に新しい年を迎えた。
総帥府前の広場には大勢の人々が集まり、互いにその歓びを分かち合っている。
その光景を、シャアとアムロは総帥府の執務室から眺めていた。
「happy new year シャア」
作品名:Lovin’you after CCA12 作家名:koyuho