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未来のために 2

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シャアに抱かれるアムロを見つめ、安堵の息を漏らす。そして、シャアに抱かれたままのアムロを慌てて受け取ろうとする。
「すみません!大佐、自分が代わります」
「いや、いい。私がこのまま抱いて行こう」
シャアはその申し出をやんわりと断ると、そのままアムロを抱えて歩みを進める。
「大佐、どこへ?」
「また何かあるといけない。このまま私の部屋に連れて行こう。ドクターに私の部屋に来るように伝えてくれ」
「大佐!?」
シャアの意外な言葉にアンディが驚きの声を上げる。
「し、しかし大佐!大佐にそんな事をしてもらう訳には…」
「構わんよ。それに私も少し彼と話をしてみたいんでね。アンディ中尉、ドクターに連絡を頼んだぞ」
「は、はい!」
アンディはその言葉に背筋を伸ばして敬礼すると、そのままシャアの背中を見つめて立ち尽くす。
『大佐にあんな事してもらって良いんだろうか…それにレイと話したいって…』
アンディは一抹の不安を覚えながらも、シャアの指示通り、ドクターの元へと駆け出した。


シャアは自室へとアムロを運ぶと、そっとベッドに寝かせる。
そして、その華奢な身体に小さな溜め息を漏らす。抱き上げた時、あまりの軽さに驚いた。
『私はこんな小柄な子供に負けたのか?』
目の前の少年に視線を向け、じっと見つめる。
すると、アムロが「うっ」と小さく声を上げた。
「アムロ・レイ、気が付いたか?」
「う…ラ…ラ…」
その声に、アムロに触れようとしたシャアの手が止まる。
「ご…め…僕は…取り返しの…う…う…」
アムロの頬を涙が伝う。
シャアはそんなアムロを言葉なく見つめる。
そして、涙を流すアムロの頭を優しく撫ぜる。
すると、アムロの表情が少しだけ緩む。
そんなアムロの表情がララァと重なる。
ララァもこうして頭を撫ぜると、いつも少し警戒した姿勢の表情が緩んだ。
「ララァ…」
と、そこに扉をノックする事が響く。
シャアはハッと我に帰ると、小さくため息を吐き扉を開ける。
そこにはアンディと医師が立っていた。
「大佐、失礼します」
アムロを心配したドクターがシャアに頭を下げて急いで部屋に入る。
「ああ、態々すまないな」
ドクターはアムロの元まで行くと、頬の傷や頭を確認する。
「頭を殴られたのか?」
アムロの様子を確認してドクターが呟く。
「手術箇所には損傷は無いようだが…なんて事を…」
「ドクター!レイは大丈夫なんですか?」
アンディが心配気に覗き込む。
「ああ、頭を打ち付けて脳震盪を起こしただけだ。他も大した怪我はない」
「そうですか…」
アンディがホッと胸をなでおろす。
「しかし、今日はあまり動かさない方がいい」
「その様だな」
シャアが答えると、アンディが焦ってシャアに向き直る。
「しかし大佐、このままレイをここに置いておいてはご迷惑が…」
「構わん、私の部屋は君たちより多少広いしな。何とでもなる」
士官の部屋は当然一人部屋であり広さも倍ほどある。簡易ベッドになるソファもある為、二人でも充分過ごせる。
「それよりもリカルドはまだ勤務中だろう?彼が心配しないように伝えてくれ。今夜はこのままここに泊めるから、明日、彼が落ち着いたら部屋まで送ろう」
「大佐…なぜそこまで?」
シャアの親切すぎる行動にアンディが疑問の声を上げる。
「…そうだな…何故かな…。ただ、彼を…放ってはおけないと思った」
敵として、生身で戦ったあの時、本気で殺そうと剣を交えた。
しかし、相打ちとなったあの瞬間、互いの心が通じ合った。彼の想いが自分に流れ込み、自分の想いが彼に流れ込んだ。
そして、ララァの「ニュータイプは殺し合いの道具ではない」という言葉が二人の胸に強く響いた。
彼女が、我々を結びつけたのだろう…。
だからこそ、あの瞬間、彼を同志にと望み、手を差し出した。
流石に「何を言っているんだ」という彼の表情に、自分でもどうかしていると思ったが、あの時は心からそう思ったのだ。
彼を手元に置き、ニュータイプの力を、人類の革新をこの目で見たいと思った。
結局は彼が爆風で飛ばされてしまい、返事は聞けなかったが…。
しかし、その彼が、どんな運命の悪戯か、記憶を失っているものの、自身の目の前にいる。その彼を手放すという選択肢はシャアには無かった。
だから実は、連邦には何も連絡していない。
このままアムロ・レイがMIAの認定を受けて死亡した事になれば彼を手に入れられる。
ただ、そう思った。

医師が診察と怪我の手当てを終えると、アムロの髪をそっと撫ぜてから立ち上がる。
「大佐…、少しお話があるのですが…」
医師がチラリとアンディに視線を向ける。
どうもシャアと二人だけで話したいらしい。
その視線の意味を感じ取ると、シャアはアンディを退出させて医師に向き直った。
「それで、話とは何だ?ドクター」
医師は意図を察してくれたシャアに感謝の礼をすると、少し思案して重い口を開く。
「大佐…、レイの…この子の事ですが…。血液検査をしたところ、いくつかの薬物が検出されました。それに両腕に複数の注射痕と電極の痕も…。おそらく何らかの実験の被験体になっていたと思われます」
「被験体?」
「はい。以前私はフラナガン機関のある場所の医局に配属されていたのですが、そこに運ばれてくる患者と同じ症状なのです。もしかしたら彼も連邦で同じような実験を受けていたのではと…」
「そうか…」
シャアは医師の言葉に特に動揺する事なく頷く。
連邦で唯一の存在であろうアムロ・レイを、研究者達が放っておくはずは無い。おそらくホワイトベースが地球に降りて補給を受けた時…ジャブローの基地辺りで健康診断か何かの理由をつけて実験を行ったのだろう。
医師が驚く程の注射痕や薬物の残存量を考えると、最前線で戦っていた彼にかなり負担の掛かる実験を行った事は明らかだ。
その事実に、シャアの胸に怒りが込み上げる。
「大佐?」
そのシャアの反応に医師が疑問の声を上げる。
「ドクターは彼がニュータイプだと思うか?」
シャアの問いに医師が少し思案した後コクリと頷く。
「とても…勘の鋭い子である事は確かです。それに…彼の雰囲気はフラナガン機関にいた人ととてもよく似ている。特にララァ・スン少尉という少女にそっくりです」
医師から思いもよらない名前が飛び出し、シャアが驚愕の視線を向ける。
「ララァ・スンを知っているのか?」
「はい…何度か健康診断を受け持った事があります。大佐も彼女を知っておいででしたか」
「…ああ。私の…部下だった…」
「そうでしたか…」
そして、医師は視線を伏せて小さく息を吐くと、意を決した様にシャアへと視線を向ける。
「レイの…身元ですが…」
「彼の身元?」
「はい、リカルド中尉が彼を見つけた時に“ホワイトベース”という言葉を口にしたと言っていたのです。それで、もしやと思ったのですが、連邦のニュータイプでホワイトベースという戦艦に乗艦していたパイロットというと…例の“連邦の白い悪魔”と呼ばれた白いモビルスーツのパイロットではないかと…」
連邦の白い悪魔と言われたパイロットがジオンの赤い彗星と何度も死闘を繰り広げていた事は有名な話だ。
作品名:未来のために 2 作家名:koyuho