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14の病

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 かわりに、今出てきたばかりの家を睨みつけた。だけど、そんな事したって意味はない。俺がそこへ入る前と、受ける色の色だけ変えた石造りのレンガの壁が、白々と浮かび上がっているだけだ。俺はそいつを上目遣いに睨みつけ、唇を噛む。
 いったい、なんだっていうんだ。
今日、ここにきてからろくでもない騒ぎのオンパレードで、そいつはもれなく怒りを振りまいていき、今まさにこの有様だ。
 憤りをぶつけたくても、謎を問い質したくても、その本人は閉じこもって出てきやしない。かといって、何の手も無く中に入ればさっきの二の舞だろう。
 じゃあ、うつ手は。そして、どこから入る? もしくはおびき出す? 元ヤンで狡猾なところのあるあの人を、ホームグランドで出し抜くには、力押しだけじゃだめなんだ。いや、力押しはするけど、まずはどこかに突破口を開かなきゃそれもできない。
あれこれ考えるけど、怒りの静まらない頭は、うまく回ってくれない。
 やがて、俺は軽く息を吐き、それを切っ掛けに踵を返した。
 ────少し、頭を冷やそう。
 そして、ちょっとした腹いせにこの本をどこかに隠してやろう。
 と、趣味もここまでくれば、たいしたものを通りすぎて、病的だと思うような手の込んだ庭へと足を向けた。
 春を迎えたそこは、でもまだ芽吹ききっていない花の苗の合間に、虫除けだろう、匂いの強いハーブが幾つか植えられている。これは、料理やお茶にも使うらしい。(料理について、あの腕でってのは禁句というより今更だ)もっと奥へ行くとオークと、背の高い木々が並ぶ。そんな空間に漂う、濃い緑のにおいは腐葉土のそれと混じって、まるで森の中にいるみたいだ。
 今が夜なせいもあるだろう。暗くて、静かなそこは頭を冷やすのにもってこいな場所だと思ったのに、だ。
 小さな森さながらの庭で、一番大きなりんごの木の下まできた時、その静寂は破られた。俺のジャケットのポケットを揺らす、小さな電子機器によって。
 相手が誰だか、だいたい予想がついた。少し前にこれで話をしていたし、途中で突然切ったからね。気になってかけてきたんだろう。
 小さな電子機器───携帯を取り出しフリップを開くと、画面に表示されていたのは、予想どおりの名前だ。それを確認し、俺は通話ボタンを押した。
『おい! あいつ死んだ?』
 途端に飛び出してきた声は、珍しく本気の焦りが滲んでいる。でも質問内容は、発言者がお髭の彼であるゆえに、死亡の確認を取ろうとしているようにも聞こえた。
 いつもは風物詩的な感じで聞き流せるはずのそれが、妙に生々しく感じるのは、さっきの悪趣味な映像に、彼もまた登場していたからだ。背を向けてたせいで、姿は見てないけど、それらしき声が聞こえた。
 一瞬、フラッシュバックのようによぎったそれを、俺は軽く頭を振って押しやってから、口を開いた。
「……いや、ぴんぴんしてるよ。……悪趣味で手の込んだ罠を、仕掛けてまわるくらいね!」
『罠? じゃあ玄関で倒れてたっつーのは…』
「……嵌められたんだよ!」
『はめられた……』
 どこか考え込んでいるような、オウム返しの声に続いたのは、端的に『どういうこった?』というものだ。まあ、そうなるだろうね。それで、俺が手短に説明を始めた。
 玄関に倒れていたイギリスが、手を貸そうとした俺を酷い理由で追い返そうとしたこと。その時、どうにも中二病が悪化しているようだったこと。
 電話の相手───フランスは、無言で聞いてたけど、一人で家に入ってったイギリスを追っかけて玄関に入ったら、真っ黒でドロドロのクリーチャーに出迎えられた時の話に至ると、突然。
『……………………えっ!? み、見えたのか?』
「は? ああ、見たぞ。大きくって、手が生えてくる仕掛けまでついてた」
 あんなの、いったいどうやって作ったんだか。ハリウッドに依頼して作らせたんじゃないかなんて、疑いを持ち始めた俺に対し、フランスは酷く驚いた様子だった。
 イギリスのあまりの悪趣味さに驚いたのかと思ったけど、裸に花一輪もいい勝負だったことを思い出してその考えを打ち消す。じゃあなんで、と俺が聞く前に、相手が話し始めた。
『……まさかその、ドロドロした粘着物が、お前と一つになりたい…とか、せまってきたり…』
「するわけないだろ! あまりに怖……衛生面に問題がありそうだったから、外に出たんだよ。そしたら、鍵をかけられて…」
『締め出された、と』
 最後を引き継ぐように言われた言葉を肯定し、俺は説明を続ける。
「頭にきたし、わけがわからないから窓から家に入ったんだ。そしたら……」
 言いながら、頭によぎったのは、真っ赤な光に照らされた部屋と、子供の叫び声だった。あれを正直に話す気にはなれない。
「……悪趣味な仕掛けがしてあった。扉も開かなかったし、今外に出てきたところだよ」
 結局ごく端的な説明をして、最後に反撃の為の作戦を考えてるんだ、と話を終らせる。相手はしばらく無言のままだった。だけど、やがてぽつりと、
『……それは、もう帰っちゃえばいいんじゃない? ………と、言っても無駄か』
 自分で自分の提案を否定した、フランスに俺は即座に言い返す。
「あたりまえだろ!」
 このまま帰れるはずが無い。聞きたい事も、いってやりたいことも沢山あるんだ! それに───。
「あと……まあ、本当にちょっと体調も悪そうだったしさ」
 中で倒れられてても困る、と言った俺にフランスはまた少し黙り、やがて大きな溜息を吐いた。
『はいはい。で、これからどうすんだ? 作戦とやらは思いついたか? 言っとくけど、本場のホラーハウスは、かなり不条理だぞ』
「…わかってるよ」
 追い返したと思ったら、家に招き入れてあんなもの見せて来たんだ。確かに不条理極まりない。
 でも、あれはホラーというより…───。
 つづきに思い浮かんだ言葉に、俺は大きく息を吐いた。そして、フランスの言葉を多少訂正する。

「トラウマハウスの攻略方法は、今考え中だよ」
 
 ヒーローらしい作戦を立案するには、ここは中も外も、湿っぽすぎるからね。
 少し時間がかかりそうだ。

作品名:14の病 作家名:さんせい