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14の病

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7




トラウマハウス────ね。

ようや電話がつながったかと思えば、飛び出した言葉がこれだ。
しかも、それを口にしたやつにしては珍しく、苦りきった声に、俺は内心やっぱりな、という感想を持った。
でも、あくまでそれは内心で、表面上はなにげない調子で相槌をうつ。
「ふーん……」
更に、まあ頑張れ、と続けて素敵なエールを飛ばすと、相手はむっとしていたようだったが、(お兄さんが応援してやったのに。失礼な)特に口に出しては何も言ってこなかった。
電話に出た時からやけにイライラしてたが、人と話して随分気分はマシになったんだろ。お兄さんの美声には、癒し効果があるからな。
 しかし、かわりにこっちの気分は急降下なわけですけども。
 もっとも、イギリスが玄関で倒れてたあたりから、もう嫌な予感しかしてなかったけど、現場は予想を上回るろくでもなさみたいだな。こりゃ。
 ────窓から乗り込んだ部屋で、いったい何を見たのやら。
 顎を撫でながら、内心で唸る。
 アメリカが『悪趣味な罠』で済ませたそいつを、わざわざ想像したくもないが、ホラーの上書きにトラウマなんて言葉をもってくるくらいだ。普通に、オカルト大国の本気(霊的なものの召喚とか)を見てびびったわけじゃないだろう。
 つーか、アメリカに見えてるってことがそもそも問題だ。こいつは誰より、心霊現象その他、ファンタジー属性がないからな。
 どうなってんだと、俺は密かな溜息を吐き散らしつつ、視線を宙にやる。本当は窓から見える、美しいパリの夜景だけを見つめていたい……。
 俺がそうして憂いのある表情で外を眺めている間、相手もまた黙ったままだ。だが僅かな沈黙は、やがて思案気な呟きで破られる。
『………いや、無理か』
 明らかなる独りごとに続いて、微かに紙の擦れるような音がした。
「どうした?」
 一応律儀に訊ねてみると『いや、ちょっとさっき拾い物をしてね』という答えがかえってきた。
「拾い物?」
『本だよ。イギリスをおびき出すのに使えないかと思ったんだけど…ちょっと無理みたいだ』
 本?
「………参考までに聞いとくけど。それって、どこにあったどんな本だ?」
 望み薄だが一応聞いてみた俺に、アメリカは『さっき入った部屋にあったんだ』と切り出した。
 そして曰く、入り込んだゲストルームに、ハードカバーの本が二冊置いてあった。書庫も書斎もあるのに、なんでわざわざそこで読書する必要があるのか。しかも、前々日その部屋に泊まった時にはなかったらしい。
こりゃもしかしたら当りか? 何かのヒントかもしれない。聞いた限りじゃ、あいつはまだ悪魔的なものに、やられきってなかったみたいだからな。
「で、内容は? 何の本だ?」
『何って…』
 食いつく俺に、アメリカは訝しげな様子で、
『暗いし、よく見えないぞ。だいたい今それどころじゃ……あ』
「どうした?」
『片方に、しおりが挟んである…』
これはもしかすると、もしかするかもしれない。
というわけで、その後アメリカに携帯のライトを使わせて確認したところ。本の片方は、世界で広く知られた物語で、もう片方───こっちにしおりは挟まっていたらしい───はアングラかつ持ち主が好きそうな分野の専門書だった。
 最後にしおりが挟まっていたページの内容を聞き、俺は確信する。
これはマジで当りだ。いや、流石はお兄さん。かっこいい!! キャー!
 改めて自分の素晴らしさに感動を覚えつつ、俺は自慢のサラサラヘアーをかきあげた。しかし、受話口の向こうにいるやつには意味がわからなかったんだろう。不満気そうな声が聞こえてくる。
『……いったいこの本がなんだっていうんだい?』
 この質問に、さて、どう答えたものか。
 なんて思いつつも、俺はそのままを口に出した。
「トラウマハウス攻略のヒント」
『は? ………なにか暗号でも仕込まれてたかい?』
「まあな」
 曖昧に肯定したが、提示されたヒントは暗号でもなんでもない。イギリスが今やりあっている、悪魔的なものの正体だった。
 しかし、だ。
それをこいつに言ったとしても、信じるどころかこっちまで例の病気扱いされる。
 だからして、お兄さんは黙っている。その口を噤ぐむ様は、美しく色づく蕾。あるいは、熟す寸前の果実のような、瑞々しい芳香を漂わせている。
そんな感じだってのに────、
『…………ふーん。そう』
 ヒーローはお気に召さないと。
 受話口から聞こえた声も、言葉も、そっけない。明らかに臍を曲げている雰囲気がひしひしと伝わってくる。
 どうせ、いつもの自分にわからないとこでお兄さんと、あのエセ紳士が分かり合ってると思ってるんだろう。だけど、おいおいちょっと待て。
「あのなお前、暗号解読はお兄さんの、優れた洞察力によるところだと思わない?」
『思わない』
 即答かよ。
『思わないけど………どんなのだい? 一応聞いておくよ』
 そんな偉そうな態度で聞かれても、お兄さん答えたくありません。その上、さっきの理由もあって俺はまた沈黙の花となる。その花びらは、可憐。
でもまあ、ここで聞いてくるってことは、ヒーロー大作戦の立案もかなり行き詰まってるんだろう。
まあ、お兄さん的には? さっきのヒントをイギリスの上司に流せば話は終わりだ。オカルト大好き国家らしく、恐らく話も通じるだろうしな。
あとの問題は、この負けず嫌いのヒーローがどうするかだ。こいつは仮に、作戦とやらが思いつかなくても、帰る気なんてさらさらないだろうからな。
 その結果、悪魔退治にかけつけた連中と、面倒事を起こすのは目に見えてる。お兄さんの立場からいって、それは何としても避けたい事態だ。誰が悪魔にとり憑かれた暗黒帝国の隣にいたいって思うよ?
 じゃあ回避方法は? と俺は少し考え、やがて切り出した。
「………………あのな。イギリスのやつ、よく幻覚みてるだろ?」
 フェアリーとか、幽霊とか、あとはユニコーン見えるってお前清らかな乙女なの? やめろ笑い死ぬっていう。
『ああ、そうだけど。それがどうかしたのかい?』
突然の話題転換に、アメリカは訝しげな様子だ。
あー…これ言うとまた後で別の騒ぎが起きる気もするけど、今はこの手でいくしかないしなー…。
うだうだと、でも結局は覚悟を決めて俺は言い切った。
「あれはな、ああいう体質なんだよ」
 一瞬の間が空く。
『……え?』
「だから、幻覚見ちゃう体質なの」
わかるか? と訊ねた声に、返事はなかった。混乱しているらしい。まあ、そりゃそうか。
 でもお兄さんは、嘘は言ってない。
幻覚───悪魔だか、妖精だかのオカルトな何かを、あいつが見てるのは確かだ。世の中には信じられないような事も、確かに存在する。
真面目に聞いたら笑い話か、からかいのネタだろうが、実際俺が今まで眉毛絡みで巻き込まれたホラーで理不尽な事件の数々を思うと、笑うに笑えない。結構悲惨だぞあれは。
 とまあ、その辺の笑えない昔話と、ファンタジーな生き物が実在するかも? という部分は伏せておいて(どうせ信じないだろ)俺は話を続ける。
「で、そのお前の持ち出した本な。あー…しおりが挟まってた方のやつ」
作品名:14の病 作家名:さんせい