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14の病

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 その本。ヒントの片方───アングラな専門書の方だ───はいわゆる悪魔や妖精、精霊なんかの伝説をまとめたものだった。
「そいつを読んでたってことは、その体質が悪化してるんだろうなーって思ったわけ。だからそれ専用のお医者さん達を、向かわせるようあいつの上司に話してみるわ。もしかしたら牧師服きてたり、聖水もってたりするかもしれないけど、それはそいつらの趣味だから。本職はお医者さんだから。気にせず、な!」
 一気に言った内容は、つまり誰か来ても面倒事を起こすなよと、そういうことだ。流石に帰れとまでは言えないどころか、言ってもきかないから苦肉の策のそいつを聞いて、受話口から戸惑った声が上がる。
『……ちょ、ちょっと待ってくれよ』
「なんだ?」
 しれっと答えた俺に、アメリカはごくまっとうな指摘をする。
『え? あの幻覚症状は中二病のせいじゃなかったのかい?』
 そうだ。こいつは主に、幻覚症状あたりの問題で、例の病気だと思っている。
「あー……」
次の言葉を言うのをためらったのは、ここの方向でいくと、色々と辻褄を合わせる必要があるからだ。
でも、悪魔的なものの専門医達の行動を妨げないようにするためには仕方ない。お兄さんは、悪魔帝国の隣なんざまっぴらごめんだ!
「そうそう、ありゃ体質だ。体質」
 腹をくくった俺が更に言葉を重ねると、相手の語調がやや強くなった。
『じゃあ、君はなにを根拠にイギリスが中二病だなんて言ってたんだい? 否定しなかっただろ!』
 やけに食い下がるな、とも思ったが、治療だなんだと張り切っていたこいつからしたら、大問題か。まあ、丁度いい機会だ。
ここらで、アメリカにイギリスが患ってる中二病に対する認識を改めさせておこう。
そう、あいつは中二病だ。そして、そういいきれる症状は、決して魔法だの悪魔だの口走るところじゃない。ま、そのへんは置いておいて。
 今回は何せ騒ぎがでかくなりすぎた。間が悪かったってのもあもあるが、こいつが仕事ほっぽらかしすぎなのも、世界経済的に考えて問題がありすぎる。首謀者の日本にしても、まさかこんな事になるとは思ってなかっただろ。(むしろあいつは、アメリカに働いてもらわないと困る立場だ)
お兄さんも、微妙に煽った自覚があるしな。ちょっとした罪滅ぼも兼ねて、俺は話をはじめた。
「あいつが中二病な根拠は───まず暗い。何かジメジメしてる」
『それ、性格の話じゃないか』
 もっともなつっこみを入れてきたアメリカを俺は、「いいから最後まできけよ」と制して、
「それで、なんで暗いのか? そりゃ、しつこく昔のあれこれを根に持ってるからだ。俗に言うトラウマってやつだな」
 言いながら、アメリカも確かさっきトラウマハウスとか言ってたなと、一瞬言葉を切る。すると受話口から、微かな動揺が伝わってきた。でも、結局無言のままの相手を、深く追求することはせず俺はまた話しだす。
「…お前も知ってるだろ? 酒飲んで昔のこといいながらくだまいたり、突然やけに破滅的だったり、自虐的だったり」
まあそうなっても仕方ないと思うような、ろくでもない目に散々あっていたってことは伏せておく。何世紀も前の話を、今更いってもそれこそ仕方がない。
「お兄さんは、あいつのそういうところが中二病だと思うわけ」
 生まれてきた意味はなんだ…! とかな、あいつが口走ったことはないが、少なくとも、何で俺ばっかりこんな目に…、とは一度くらい思ったことがあるだろう。あいつにはそんな、どこか陰気で、世の中を怨んでいるふしがある。
『ようは、不幸面してるってことかい?』
「…ともいうな」
 もっと他に言い方ないのかと思わないでもなかったが、まあ概ね間違っては無い。でもな、と俺は付け加える。ここが大事なところだ。
「いつも不幸面してるわけじゃない」
 酒飲んで暴れたり、くだもまくし、突然なにかのスイッチが入って欝になったりもする。でも、毎日不幸だ不幸だと喚きまわってるわけでも、それを苦に暴れまわってるわけでも……お前の独立直後は、個人的に荒れちゃいたが、今はそれ程でもない。そもそも、そんな奴が国なんてやってたらやばいだろ。どんな欝国家になんだよそれ。
 奴なりに、楽しく? うーん。……まあ、普通に暮らしてんだろ。
「だから、他人が気にするような病気じゃないってことだ」
 最後にそう締めくくり、俺は話を終えた。
『…………』
 受話口の向こうで黙り込んだやつが、どう思ったかは知らないが、話をまとめると『いつものことだ。気にするな』ってわけだ。そしてこれは同時にこいつの不毛な恋の方向性が、おかしなほうへ向かないための予防線でもある。
 ヒーローの俺が、君を救ってあげるぞ! なんて、上から目線も甚だしい勘違いはしないようにってな。そういう恋愛は、あまりいいものじゃないとお兄さんは思う。

 というわけで────さて。

 黙ったままのアメリカを放っておいて、俺はちらりと部屋の時計に目をやった。
 何だかんだと話していたら、結構時間が経っていた。流石にそろそろ眉毛の上司に、オカルトなお医者さん達の出動要請をいれておきたい。あいつがうっかり悪魔大国になったとして、真っ先に困るのは隣のお兄さんだからな。
 いや、でも伝説の剣とかで、華麗に戦うお兄さんもそれはそれで…と想像しいると、受話口から小さな呟きが聞こえてきた。
『………でも、だったら何であんなもの見せたんだ』
 独りごとめいたそれは、あまりに小さく、「え? なんだ?」と聞き返すが、
『なんでもないぞ!』
 と今度はいつもの調子で言い返された。そうかよ。
「じゃあ、もう切るぞ」
 最後にもう一度、くれぐれも駆けつけたお医者さん達の邪魔はしないよういい含めて、ようやく通話終了となった。
 切り際に、小さく「いてっ」って声が聞こえたような気がしたが、木の根にでもけつまづいたか?
「………まあいいか」
 それより、眉毛の上司に連絡だ。
 終ればあとはワインでものんで、ゆっくりパリの夜景を眺めよう。

 
と、思っていたんですけども。
 再び携帯での通話を終え、俺はうっそりと溜息を吐いた。
 
思えば、オカルト分野なんてのは、だいたい年寄りの独壇場だった。そして、隣の国で、一番の年寄りと言えば、あの海賊紳士にきまってる。
 そいつが手を焼くような相手を、どうにかできる奴は……眉毛の上司の様子からするに、いないっぽい。それでも、数に物をいわせるなりなんなりで、どうにかするとは思うが、そう簡単に事は済まなさそうだ。
 暗雲立ち込める現状に、俺はやや呆然と腰掛けていたソファのクッションに沈み込む。
なんとなく膝を抱えてみながら、マジか…、とひとりごちた時。
 ジリリリリリリ! ジリッ、ジリッジリリ! ジ、ジッ!
 音詰まりがする程、部屋の呼び鈴が連打された。
 夕食時を過ぎたくらいの時間だ。誰かがきても可笑しくはない。けど、あの子やその子は、こんなベルの押し方はしない。
「おーい。遊びにきてやったぜ!」
作品名:14の病 作家名:さんせい