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14の病

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 見事確保した目標物を、俺は羽交い絞めにした。予想以上に軽い。いや、イギリスも軽かったけどね。(このあいだ、どさくさに紛れて持ち上げてみたんだ。びっくりしたよ)けど捕まえたものの重さはそれの比じゃなかった。
 しかも、かなり小さい。捕まえる時に、的を絞り損ねそうになったくらいだ。
 間近で見ても、真っ黒なのには驚いたけど、それが何でか確かめる前にそいつは激しく暴れだした。
「おっと…っと、こら!」
 胸に抱きこむようにして、なんとか動きを止めようとするけど、おかまいなしだ。
「っ! …っ……っ!」
 狂ったように手足をばたつかせて、どうにか逃げ出そうともがくそいつと、俺はしばらく格闘してたけど、その間もずっと声を出さない相手に、ふと思った。
 この大きさは、シーランドよりも小さな、いいとこ5歳くらいの子供だろう。それが夜の庭で、見知らぬ大人に羽交い絞めにされたんだ。たとえ悪戯を仕掛けてたのが自分だとしても、驚いて声もでないのかもしれない。
「大丈夫。何もしやしないさ」
 なるべく穏やかな声で語りかけると、子供の抵抗が少し弱まる。
「………」
 いけるかな?
 手ごたえを感じつつ、俺は更に言い募る。
「安心するんだ。俺はヒーローだぞ!」
「………っ!! っっ!!」
なんでまた暴れだすんだ!
 あーもう、と途方に暮れかけたところで、鋭い痛みが走った。
「いてっ……わっ!」
 俺の手に噛み付いた子供は、同時にみぞおちの辺りを蹴りを入れ、思わず緩んだ腕の中からするりと抜け出す。
「あっ、こら待て!」
 静止の声を聞くはずもない。すばしっこく逃げ出した子供は、俺がさっき登っていた木に飛びつくと、太い幹をまるで猿みたいにするすると登りだした。みるみる内に、上までいくと俺が登ってこれないような細い枝のところで止まり、ふーふーと威嚇する猫みたいな息を吐きながら立ち上がる。
 そこでようやく、そいつが真っ黒だった理由がわかった。
 頭から、足首までも覆うような真っ黒なシーツを被ってたんだ。ハロウィンのオバケのブラックバージョンみたいな格好だ。
 そして、格好に見合った年頃の子供が、なんだってここにいるんだ?
浮かんできた疑問を、俺が声に出すより先に、黒いオバケもどきが動いた。
 小さな体を覆う黒いシーツが揺れて、そこから出てきたこれまた小さな手が、どこかを指差す。
 方向からして、多分あの紙屑の落ちている場所だ。あれを見ろと言いたいんだろう。
 だけど、今はそれより先に、
「おーい」
 呼びかけた俺に、返事は無い。しかたなく、もう一度。
「君は、イギリスの知り合いかい?」
 質問も兼ねたそれに、やっぱり返事はなく小さなオバケは早くしろとでも言うように、何度も指差す動きを繰り返す。うーん。
あの人にこんな小さな知り合いがいるなんて、聞いた事ない。この子が勝手に忍び込んで遊んでるにしても、今は夜だ。子供が出歩く時間じゃないだろう。
それかもしかして、この子の親がオカルトアイテム業者かなにかで、お得意様なイギリスのために、家族ぐるみで協力してたりするんだろうか?
それでも一応と、俺は注意を促してみる。
「こんな時間に、こんな陰気なところにいたら危ないぞ! この家、眉毛オバケが住んでるんだ」
 すると、いつまでたっても自分の指示に従わない相手に焦れたのか、小さなオバケが乱暴に足元の枝を踏み鳴らす。
 地団太を踏むような動きは、危なっかしいけど、子供は足を踏み外したりはしなかった。
木登りが得意なのかな? 男の子(だよね?)だったら、なかなか誇っていい特技だ。
 でも、普段と違う服装をしてる時は、得意なことでも十分に注意するべきだってことは、頭になかったみたいだ。
 地団太がエスカレートして、軽く飛び上がるみたいな動きをし始めた小さなオバケの足に、そいつがかぶっている黒いシーツが巻きついた。
 そのままよろめいて、あっと思った時には、枝の上のオバケの体が後ろ向きに大きく体が揺らいだ。
 ひらりと、月明かりに黒いシーツが翻って、木の上から転がり落ちる。
「っ!!!」
「危ない!」
 息遣いだけの悲鳴と、俺の声が重なった。
一拍遅れて、ぼすんっという音が響き俺の腕に衝撃が走る。
「っと、……はぁ」
 無事受け止めることの出来たことに安堵しつつ、腕の中の黒い塊を覗き込んだ。
「大丈夫かい?」
「………」
 今度は暴れださない子供は、驚いているのか、それとも、得意な木登りで失敗したことにショックを受けてるのか。
 どちらにせよ、両親が教えてないなら言っておく必要があるだろうと判断した俺は、ヒーローらしく注意を促す。
「泳ぎと同じで、得意なことでもいつもと違う服装をしてるなら、注意しなきゃだめだぞ」そして説教ばかりじゃ聞く気になれないだろうと、「本当にピンチならヒーローの俺が助けてあげるけどね」とウィンク付きで続けたけれど、相手は微動だにしない。
 シーツのせいでよくわからないせいもあるけど、もしかして後頭部に話しかけてたりしたんだろうか? と不安になって、よくよく黒い布地を見つめてみると、二つ、ちいさな穴が開いているのがわかった。
内側から薄い布でも貼り付けてあるのか、子供の顔までは見えなかったけど、これはどうやら目の部分らしい。その下には、口が白っぽいペンキかなにかで、描かれていた。
それが傑作でさ、怒った獣みたいに牙をむき出しにした口なんだ。
描いたのは、そのシーツの中身本人だろうと思わせる子供っぽいそれと、さっきの暴れようが妙に似合っていて、俺は思わず声を上げて笑ってしまった。
 すると、抱えたまんまの子供がびくりと体を揺らして、俺は慌てて笑いを引っ込める。
「いや…っくく…絵が上手なんだね」
 これは嘘じゃない。最初のはしごの絵だって、イギリスが描いたと思ってたからヘタクソだって言ったけど、このくらいの年の子が描いたんだったらうまい方だ。はしごだってわかるからね。
 笑って、何だか気が抜けた俺だったけど、小さなオバケもさっきのように暴れだしはしなかった。少しは警戒が解けたんだろう。それでも、まだ布の内側からじっとこちらを窺っている様子のするその子の背中を、俺は安心させるようにぽんぽんと軽く叩いて言う。
「自分で立てるかい?」
「………」
 しばらくの間の後、もそりと頭の部分が縦に揺れたのを確認してから、俺は小さなオバケを地面に下ろす。
 そして、そのまま自分も片膝をついて、相手の視線……といっても見えないけれど。目の穴の部分に向かい合うくらいの位置まで視線を落として向かい合あった。
 何度見ても笑える口元を眺めながら少し考える。
 これくらいの小さな子に、わざわざ人の名前の方を使う必要はないだろう。さっきも、散々イギリスって言っちゃったしね。
「……さっきは乱暴にして悪かったね。俺はアメリカっていうんだ。君は?」
「………」
 相変らず返事はない。
 もしかしたら、本当に口のきけない子なんだろうか? そんな疑いすら持ち始めた俺の前で、もぞもぞと黒いシーツが動く。
 やがて出てきた小さな手は、どこかを指差した。さっきと同じ方向だ。
「…わかったよ」
 とにかく、あの紙を見てからでないと話す気もないんだろう。
作品名:14の病 作家名:さんせい