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14の病

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『と、いう夢を見た』


 聞きなれすぎて、そろそろ聞かなくてもいいように手を打とうかと思っている声は、携帯の受話口から聞こえてくる。それを俺は、ソファに腰掛け聞いていた。
場所は見慣れたリビングで、辺りは明るく、窓の外には珍しく晴れた空が広がっている。
『ってことにしろと?』
「ああ、そうだ」
問いに頷きながら、俺は室内に目をやった。
正午の光に照らされたそこは、使い慣れた家具が整然と並び、昨日の騒ぎが嘘のようだ。いや、実際夢か幻だったということにしようとしている。
でも、誰に対して?

『そりゃ、別にいいけどよ』
珍しく反対してこなかった相手は、だが続けてぼやく。『そう上手くいくのかね?』
「上手くいくもなにももう、そういう話になってんだよ」
現に、昨日の騒ぎを目撃した内の一人───プロイセンはそうだと思っている。
ちなみに、それは俺が何か吹き込んだわけじゃない。
あいつ───悪魔が消えた後、玄関ポーチでのびていたプロイセンは、俺の上司がよこしたエクソシストやら牧師達が保護に保護された。
聞いた話じゃ、首に下げてた十字架の加護だとか、強い魔から避けさせようとしたとかって話だが、生憎とそういうのは俺の専門外だ。本当のところは、それこそいらっしゃるなら神のみぞ知る。
それで、その信じるものに気まぐれに優しく、だが加減ってのを知らないらしい神様に窒息死させられかけたプロイセンは病院に運ばれた。だが特に異常もなかったので、そのまま寝かせておいて、そして、ベッドで目覚めたあいつは開口一番。
「…ゆ、夢か」
と呟いたらしい。

「心底ほっとした様子だったから、否定しなかったそうだ」
 で、玄関で転んだとか、それらしい事を言って丸め込んだって話だ。
報告を受けたとおりに言った俺へ、フランスは『……うわー…』と心底呆れた声を漏らす。
『……プロイセンが幽霊苦手でよかったな』
 その言葉に、返事こそしなかったものの俺は内心同意する。
 昨夜の騒ぎは、醜聞に近い。聞いた奴が信じればの話だが。
だが、騒ぎの内容を誰も信じなくとも、俺んちで、他国が面倒事に巻き込まれた。なんて騒がれるのは面倒だ。怪我もなかったし、本人が夢か幻だと思ってるのなら、特にこちらからなにかいう必要もないだろう。
これは俺の上司と、俺自身の意向でもある。藪をつついて蛇を出す気はない。
そんなこちらの実情に、恐らく気付いているんだろうフランスは、
『ま、隣が突然悪魔帝国にならないよう尽力したお兄さんは、なかなか忘れられそうにないけどなあ』
「……何がいいたい」
『いやー? さあ?』
 のらりくらりと明言しない相手に、俺はぴしゃりと言う。
「原因を作った一端は、お前にもある」
 俺が妙な病気だと誤解させたのは誰だ。悪魔の件は偶然だが、アメリカが治療だなんだとやってきていたせいで、結果、騒ぎはでかくなった。
つまり暗に、騒ぎが問題になれば、お前も面倒な目にあうぞとにおわせた俺に、受話口からは『へーへー』とふざけた相槌がかえってきた。
ちなみに、これはプロイセンにも言えることだ。
二人が、玄関から入ってくるまでは、確かに悪魔の力は弱まっていた。それがなぜだかわかったのは、プロイセンがアーサーと言った時だ。
あの悪魔は自分の名前───強引に自分のものにしたという方が正しいが───を忘れかけていた。俺を取り込もうとした時も「わすれる」だのなんだのいってやがったからな。永く生き過ぎたせいか、元々そういう奴なのか、あまり記憶が長く保てる方じゃないんだろう。しかし、だとしたら家主の名を盗むのは、いい手だ。あるいは狙ってやっていたのかもしれない。なんたって、憑いた家の家主の名前なら、どうしたって何度も言う奴がいるだろうからな。忘れようがない。
だが、今回はご生憎だ。
俺の本当の名前は別にあって、この家にくるような奴は、大概そっちで呼ぶ。
結果、すっかり盗んだ名前を忘れちまったあいつは、力を失ってた───んだが、その後は知ってのとおりだ。
まあ、俺も気付かなかったことだし、プロイセンは…まあ、聞くところによると、それなりに心配してきやがったとか……な。だ、だから……いや、でも! か、勘違いすんなよっ! お、俺は別に…。
『はいはいツンデレツンデレ』
「う、うるせぇ! 馬鹿!!」
 腹立たしい声を遮って、俺は怒鳴りつける。だが、相手はそれをものともせずに、さらりと切り返してきた。
『で、もう一人の方はどうすんだ?』
 突然突きつけられた問いかけに、俺は一瞬言葉を失う。続いて、思い切り顔を顰めた。
 こいつのこういう所が、一番気に入らねぇ。お兄さんはお見通しだぜ、みたいな面を想像すると、ご自慢の顔面を叩き割ってやりたくなる。
 ────こっちの気も知らねぇで…。
慣れた殺意を覚えながら、俺は僅かに間を置いて答えた。
「……同じだ」
 言いながら、上を見る。
 見慣れた天井の上にあるのは、ゲストルームだ。そこのベッドには昨日の騒ぎに遭遇したもう一人───あいつが寝かされている。
 あいつは昨夜、ここのところと同じように俺の家へ来て、怖いホラー映画を見て泊っていった。何かおかしな夢をみたかもしれないが、それは全部夢だ。そういうことになっている。
 悪魔に取り込まれかけた家に一晩中いたからか、そういうものに殆ど影響を受けないあいつが、悪魔の消滅の余波で倒れた時は驚いたが、体に異常はないようだし、結果的には良かったのかもしれない。
『そんなに上手くいくかね…』
 フランスが、また同じ呟きを繰り返した。
「……上手くいくに決まってるだろ。あいつがあんなの、信じるわけねぇ」
起きたら、プロイセンと同じようにああ、夢だったのかで終る可能性が高い。
それに、昨日の痕跡は何一つ残さないようにしてある。室内を整えて、あいつの持っていた家の鍵も、銀の銃も銃弾も回収した。庭の葉の連なりや魔方陣は、そもそもフェアリー達に力を借りる為のものだったから、役目を終えた今は消えてなくなっている。
『でも、携帯の履歴は? お兄さん、ばっちりあいつと会話したんだけど』
「夜中に電話かけたけど、無言だったとかしらばっくれろ」
 そしたら、寝ぼけて通話ボタン押したのかな、くらいに思うだろ。
『いや、結構会話時間あるんだって』
「無視されて、心地よかったからつい切れなくなったとか言っとけよ」
『えーお兄さんそういうプレイは気持ちよくないし。実際に踏まれた…』
「うるせぇ! 踏み抜かれて死ね馬鹿!!」
言うが早いか、俺は通話を終了させた。直ぐにまた着信があったが、今度は電源ごと落とす。おぞましい性癖の話なんざ聞きたくもねぇ。
ローテーブルの上に携帯を投げ出すと、手を額にあて俺は大きく息を吐いた
「俺の方が死にたいってんだよ……」
呟やきながら、額にあてた手で、ぐしゃりと前髪をかき混ぜる。
あいつの言ってた台詞からすると、あいつは昨夜、俺のろくでもない記憶を散々見たはずだ。それだけでも、今すぐこの世から消え去りたい気持ちになるってのに、その上───。
「……なんであんな」
 最後までは、口に出せなかった。
 それこそ、俺の方があれは夢だったんじゃないかと思っているくらいだ。
作品名:14の病 作家名:さんせい