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14の病

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3


こう永く生きていると、日々は何かと単調になりがちだ。
でも、その方が都合のいい場合もある。自分のペースが保てるし、予定も立てやすい。
だが、俺の単調だが暮らし易い生活に、ある日突然、二つの変化が訪れた。
そいつを順に、説明していこう。


まず一つ目───俺は、どうやら病気なんだそうだ。




「どうだい? 俺んちの映画面白かっただろ!」
 DVDを取り出しながら、アメリカが得意気な顔を向けてきた。
 対して俺は、ふんっと鼻で笑い、さんざんな酷評を投げつけてやる。それでも、一応はヒットした映画だ。見るべきところもあった。
「ヒーローが、自分の女に嫉妬させたいが為に、他の女に手だしたり、親友に嘘ついたり、敵対したら顔半分ぶっとばしたりするのは、まあ……悪くはねぇな。人間らしくて」
 そういう、等身大な汚らしさっていうのは、嫌いじゃない。と俺なりの、見所を褒めてみせたつもりだったが、どうやら相手には伝わらなかったらしい。
 口を尖らせたアメリカが、反論をはじめる。
「そこもいいけど、もっと他にあっただろう? クライマックスの、敵対してた二人が、協力して戦うところなんか、最高じゃないか!」
 アメリカの言う、背中合わせでの空中戦は、確かに物語的にも盛り上がっただろう。こいつの好きそうな、派手なシーンだ。
 でも、大体が派手でスケールがでかけりゃいいってもんじゃない。敵が倒されるか、迷宮から間一髪で脱出したところで何かが爆発して、それをバックに男女がラブシーン繰り広げて終るとかな、そういうのはもうやめとけ。
「それは偏見だぞ! 最近はハリウッドも不況で………ああ、もういいよ! じゃあ、次はこれだぞ!」
 言いながら、アメリカが持って来た自分のバックの中から、また新たなDVDを取り出した。論より証拠とでも言いたいのか、自信満々な様子でパッケージを見せびらかすそいつを、俺は内心複雑な思いで眺める。
 
 少し前、あれは俺の家で国際会議があった直後だった。
 会議自体は、それなりに滞りなく終わり、ホスト国としての責任も果たし、面子も保てた。問題はその後だ。
 会議が終了た、翌日の早朝にそれは起こった。
 その日俺は、会議で出た議案の内容見直しなんかの雑多な事柄を、さっさと片付けちまおうと、早くから仕事の予定をいれ、自宅で準備をしていた。
 そこへ、ひょっこりと現れたのは、もう本国に帰ったと思っていたアメリカだ。
 予告も連絡もなくこいつが来るのは、まあたまにある事で、それ自体にはそこまで驚かなかった。驚いたのは、その時言われた内容だ。
 アメリカ曰く、
「君は、病気なんだぞ!」
 というわけだった。正直、訳がわからない。
さらに、病名は『中二病』だという。そんな病気聞いた事もねぇ。
 だが、国が病気ってのは穏やかじゃない。経済状況の良し悪しで、体調が左右されるのもそうだが、簡単には死なない分、おかしな事になったりもする。
 他にも、俺達国すらあずかり知らぬところで、上司がかわってたなんて話も、昔はざらだった。
 嫌な予感を覚えつつ、俺は話を聞いて──────結果、予感はある意味的中した。
 その中二病とやらは思うに、おおよそ精神病か、若しくは子供にありがちなごっこ遊びの行き過ぎたものだ。勿論、俺が罹ってるわけもなく、強く否定した。が、そもそも、こいつはフェアリー達が見えず、魔法も信じてもいない。それ絡みの俺の行動を、常々怪しんでいたくらいだ。
 結局、病気だ、違うで口論になった。
「だから何度も言わせんな! 俺は病気じゃねぇ! だいたいな、お前それ誰に吹き込まれたんだよ」
「日本だぞ!」
「え?」
 大方フランスの悪ふざけか、(その場合ころす)何かを勘違いしたイタリアあたりが騒いでいたのを勘違いしたのだと思っていた俺は、意外すぎる情報源に一瞬固まった。そこへ、アメリカが言い募る。
「日本は、高確率で自分は中二病じゃないと言い張るって言ってたんだ!」
「……日本が?」
 俺の脳裏に、あのもの静かな極東の友人の顔がよぎった。
 ……まあ、その。俺の数少ない友人であり、親切で、気の回るとてもいいやつだ。
 真っ黒な瞳は、いつも、凪いだ夜の海のよ「イギリス! 君、また何かおかしなこと考えてるだろ!!」
 怒鳴り声が、俺の思考を断ち切った。
 はっと我に返ると、いつのまにか距離をつめていたアメリカが、俺の両手を物凄い勢いで掴んできた。
 俺の手を自分それで挟み込むようにして、体の前で纏めたアメリカは、さらにぐっと顔を近づけてきた。青い目の奥に、何か決意を秘めたような光がある。
 こ、これは…。かわ……───そこまで考えたところで、「イギリス!」とまた大きく名前を呼ばれた。
「な、なんだよっ! べ、別に俺は、かわいいとか思ってないんだからなっ!」
 また途中で断ち切られた思考を、誤魔化すように声を荒げた俺に、アメリカは「は?」と微かに首をかしげる。だがすぐに、意味不明に頷いた。
「……うん、そっか……いや、いいんだ。ヒーローがきたからには、もう大丈夫だぞ」
 再びきらめきを取り戻した瞳で、ヒーローが俺の手を握る手に力を込める。そして、強く宣言した。
「俺が、きちんと君の病気を治療してみせるからさ!」

 ……というわけで、だ。

 その治療法ってのが、『日常生活を充実したものにする』というものらしい。
リアルを忙しく、もしくは夢中になるものがあれば、そちらに気も時間もとられ、変な妄想もせず幻覚も見なくなる────とは、これもまた日本が教えられたという。
 結果として、どうなったか。冒頭のアメリカとの会話を思い出してもらえれば、すぐにわかるだろう。
 ここ数週間というもの、週末、もしくは時間の空いた時に、アメリカは俺の家へと現れるようになった。何だかんだと理由をつけて、泊まっていくこともあったな。
 それで何をするかというと、治療と称して外に連れ出される事もあったし、今日のように家で何かをする場合もある。
 ようは、こいつが何かしらの遊びなりなんなりで、俺の生活を充実させてやろうと、そういうわけだ。
 

 さて、そうして時間は現在に戻り、今俺の目の前では、アメリカが新しいDVDのパッケージを開いたところだ。

「君も、早くブルーレイにしなよ。わざわざDVDを捜して持ってくるの、面倒臭いからさ」
 デイスクをセットしながらぼやいたアメリカへ、俺はつい、条件反射でいつものごとく言い返す。
「べ、別に、誰も頼んでねぇだろ!」
「頼んでなくても、来るぞ!」
 間髪いれず強く言い切られ、その内容に俺は咄嗟に言葉がでてこなかった。
 そして吐き出せなかった感情が、自分の胸のあたりで風船のように急速に膨らんでいく。息苦しい程に膨らんだそれの色は、黄色か赤か、オレンジか。どちらにせよ、気恥ずかしいが、暖かいものだ。
 たとえ、治療の一環だとしても、独立以来、どこか邪険にされていた俺からすれば、今の状況は踊りだしそうな程嬉しい。
作品名:14の病 作家名:さんせい