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intermezzo ~パッサウ再会篇6

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「ぼくはね、あの1904年の晩秋、街を去り、ロシアへと旅立つクラウスー、アレクセイを追いかけたんだ。

ミュンヘン手前で、彼と再会して…、彼に連れられて、アジトにしていた屋敷へ行った。…その屋敷は、嘗ての名門貴族、フォン・ベーリンガー家の屋敷だったんだ。屋敷の壁に…先生にそっくりの…夫人の肖像画が掛かってたよ。」

ユリウスの独白に、ヘルマンが「…そうか」とだけ短く答える。ユリウスが先を続ける。

「あの屋敷で、初めてぼくは、アレクセイのヴァイオリンに合わせてピアノを弾いたんだ。…嬉しかった。彼の前で女の子として存在する事が許されないぼくにとって、音楽で…互いの弦と弦が重なり合い相和す事は、あの時のぼくの望みだったから…。
望みが叶って、あゝ、神様ありがとう…と幸せを噛み締めていたぼくに、更なる驚きと…幸せが待っていた。

クラウス…アレクセイは、ぼくが女の子だという事、そして女の子のぼくが彼に抱いていた気持ちまでも知っていたんだ。

驚いた…。その事実に呆然としているぼくをアレクセイはギュッと抱きしめてくれた。
彼の腕の中でぼくは…、涙を流しながら彼の名前を呼び続けることしかできなかった。
そんなぼくを、彼は、女性として優しく抱きしめてくれて、熱いキスをくれた。

もう…彼の腕の中で…このまま溶けて無くなってしまってもいい!とさえ思った。

彼の唇は、抱きしめられて頰に感じる彼の鼓動は、ぼくの理性を一瞬にして蕩かせた。

そして…ぼくは彼の腕の中で、「自分をロシアへ連れて行って欲しい」そう懇願したんだ」

当時を思い出しながら、ユリウスが「ね?」と言うようにアレクセイに視線を向けた。

ユリウスの視線を受けて、その後をアレクセイが継いだ。

「いよいよあの街を去り、アレクセイ・ミハイロフに戻ってロシアへ戻るその日、俺の心に唯一つ未練があったのはー、あの学び舎で俺の心を捉えた金髪のエウリディケの存在だった。
音楽や学友と過ごした素晴らしい青春のひと時への未練を何とか断ち切り、ゼバスを、あの街を去る俺の心を捕らえて離さない不滅の恋人の姿を、最後に今一度、そして永遠に心に焼き付けて、街を去った。

ミュンヘン行きの列車に乗って、最後に目の奥に焼き付けたユリウスの面影を噛み締めていた俺の耳が、微かな声を拾った。
それは俺の名を呼ぶ、こいつの叫び声だった。

まさか!と思ったよ。これはあいつに思慕を残して去って行く俺の未練が成せる幻聴だと。

だけど確かに、何度も俺の名を呼ぶ、こいつの必死な叫び声が繰り返し俺の耳に入って来る。

これは幻聴なんかじゃない!

窓を開けて外を確かめた俺の目に、とんでもない映像が飛び込んで来た。

何とこいつは、俺の乗った列車を馬で追って来たんだ。

何て無茶をする!
金の髪を秋風に靡かせて、俺の名を呼びながら必死に列車を追いかけるこいつの姿に、かつてないほどの愛おしさと激情が胸に湧き上がった。

その列車には…実は革命勢力を抹殺する使命を負ったファシストギャング共が乗っていたんだ。このまま追って来るユリウスを無視して…予定通りミュンヘンで奴らを撒こうと頭をよぎった。

その瞬間、俺を追いかけていたユリウスを乗せた馬が、とうとう足に来て、背中に乗せたユリウスごと倒れるのが目に入った。

その瞬間俺はー、俺の心は決まった。
あいつの元へ行こう と。

それで俺はー、フライジング駅手前の、カーブの陸橋から、川へ飛び降りた。

命の次に大切なー、兄の形見のストラディヴァリを列車に残して」

そこまで話してアレクセイはテーブルの下でユリウスの白い手をギュッと握りしめた。

「何とか川から上がって辺りを見回すと、項垂れて馬を引きながらトボトボ歩くこいつの金の頭が目に飛び込んで来た。

声を掛けた俺に気づいたこいつは…碧の瞳に涙をいっぱい溜めて、びしょ濡れの俺の胸に飛び込んで来た。

涙に暮れるこいつを胸に抱きとめ、枯葉の上で…初めてキスをした。
こいつの唇は…柔らかくて、涙の味がした。

枯葉の匂いとこいつの柔らかな肌の感触、腕の中に感じる鼓動、夕日を浴びて目に痛いほど眩い金の髪の輝き。

ああ、俺が求めて止まなかったものはこれだった…とその瞬間感じた。

あの瞬間もう…俺は、こいつと離れる事は、こいつを手離す事が出来なくなった。

そのまま辻馬車を捕まえて、俺はこいつを連れてミュンヘンのアジトへ行った。

俺が連れて来たユリウスの姿を見て、アルラウネはびっくりしたような表情を見せたが、こいつを追い返すことも、俺を咎める事もせずに、迎えてくれた。

そこで俺たちは初めて一緒に音楽を、ロマンスを奏で、そして…俺はこいつに、こいつがひた隠しにしていた事ー、こいつが本当は女の子だという事を知っていたと告げた。

こいつはそのことに、酷く驚いて、動揺しているようだった。

そんなこいつをもう一度抱きしめて、キスした。

こいつも俺の激情を受け入れてくれて、俺の腕の中で…、「自分をロシアへ連れて行け」と言った。

その時のユリウスの懇願は、実のところ気持ちの昂りから出た言葉だったかもしれない。

だけど、そのユリウスの言葉を俺は否定して、彼女を宥め、思い留めさせる事がどうしても俺には出来なかった。
実は…今だから言うけれど、あの時俺はアルラウネに睡眠薬を手渡されていたんだ。こいつを説得出来ない俺に、こいつを眠らせてその間にこの場所を発つ為の…。

でも俺は…それさえも…出来なかった。

なぜならば、俺自身がもうこいつを手離し難いと感じていたから…。
例え連れて行って、その結果彼女を不幸にしてしまうとしても…どうしてもこいつを置いて行く事が出来なかった。

ひどい…男だよな」

アレクセイの最後のその言葉に、ユリウスは握りしめた手に力を入れて、アレクセイに首を横に振って見せた。

「俺は、こいつをロシアへ連れて行く決心をして、それをアルラウネに伝えた。

アルラウネは、そんな俺に酷く驚いて、何とか思いとどまらせようと考えを巡らせているようだったが…結局は俺の懇願に折れてくれて、こいつを連れて行く事を認めてくれた」

再びその後をユリウスが語る。