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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ごうごうと炎が渦を巻いている。
 古城を覆い尽くす数多の炎蛇は時折爆ぜながら生き物のように蠢き、熱波は無遠慮に私の肌を焼く。熱い。熱い。
 燃え盛る城壁の前に立っていた男がゆっくりと振り向いて、私と視線がかち合った。
 不用意に声をかければたちまち斬り捨てられそうなほどに明確な殺意のこもる瞳は、ただじっとこちらを見据えている。
 赤々と燃える城を背に立ち、深い紫色の外套を風に任せた彼の側へ、大小様々な魔物たちが集まっていく。
 足のある魔物は男の前で一斉に跪き、男は立ったまま何かを話しかけているようだった。
 それにしても熱い。ふと己の服に視線を落とせば、そこにも炎が移り始めていた────

「…………っ!」
 跳ね起きた体は寝汗でべっとりと濡れ、額からも玉のような汗が溢れ出た。
「夢か…………」
 サントハイム王は幾年ぶりかで見た不吉な夢にぞっと身を竦ませ、震える手で額の汗を拭った。

 時はリュカたちがアネイル滞在中の頃に戻って、サントハイム城────
 王女アリーナと魔法使いブライ、そして神官クリフトの三名が王の間に集まっていた。
 勇者と共に平和を取り戻してからごく最近まで、元の温厚で穏やかな表情に戻っていたサントハイム王。今はその顔に陰鬱さを漂わせていて、アリーナは声を奪われた日を思い出す。
「お父様、大事な話って何かしら」
 三人を呼び出してもなお一向に口を開こうとしない父に痺れを切らし、王女アリーナが口火を切る。
「……アリーナよ、エンドールでは近々武術大会が開催されるそうだな」
 重々しく口を開いた王であったが、言葉の中身にアリーナが美しく整えられた眉をくいと持ち上げる。
「まさか行くなって言うんじゃないわよね。今更監禁したって無駄よ」
 どうせ蹴破るしと言外に臭わせてみても、王はくすりとも笑わない。
「優勝を狙っているのか」
「あったりまえでしょ! 今年も連覇してやるわ」
 ブライとクリフトは話の中身と王の表情とのちぐはぐさに違和感を覚えつつも、二人の会話をじっと聞いていた。
「それならば話は早い……少し気になる夢を見たのでな。どんな些細なことでも異変がないか、ついでに調べて欲しいのだ」
 もしや予知夢か────そう感じ取ったアリーナは、薔薇色の瞳をすいと細めて尋ねる。
「……どういうこと?」
「進化の秘法の災禍は、いまだ途絶えていないのかも知れぬ」
 王の言葉に、三人の顔つきが一気に険しくなった。
 ブライはサントハイム領地内で起きていた幾つかの事件の他、地獄の帝王やデスピサロとそれにまつわる進化の秘法についても王に余すことなく語っていた。国難に備えて情報の共有は随時行うべきと考えていたからだ。
「あーもう、もったいぶらないで知ってること全部言ってよ! 情報の小出し禁止!」
 すんなりと進まない会話にアリーナは癇癪を起こし、両腕を組んで唇を突き出している。愛娘の短気に、王はようやく表情を緩めて話を続ける。
「なに、どうという話ではない。魔物を跪かせた男が夢に出てきただけだ……人の形はしておったが、何しろ恐ろしい形相をしていて気になってな……」
 異形の者たちに囲まれた男は、酷く怒りに満ちた形相だった────豊かに蓄えた口ひげをさすったまま物思いに沈んだ王へ、今度はブライが口を開く。
「ピサロのような魔族の再来、とお考えですかな」
 王の間には先程とは違った緊張感が張り詰めて、沈黙が痛いほどに鼓膜を圧迫する。
「何も確証はない。そうかも知れぬ、というだけだ」
「……分かったわ。こっちでちゃんと調べてみるから、お父様は心配しないで」
 こっちで、と言いつつアリーナの視線はしっかりとクリフトへ注がれていた。丸投げの気配にクリフトは己を指差し、とほほと肩を落とした。
 そうして王から更に男についての詳細を訊き、アリーナたちはすぐに旅の支度を整えてその日のうちにエンドールへと向かった。

 現在の時間軸に戻り、リュカ一行────
 朝一番にミントスの街を出ても現代へ戻れず、リュカたちはひとまずルーラでコナンベリーへと戻ってきた。
 どこかで食事をしようかと歩き出して間もなく、宿屋の前でチラシを配っていた男が近づいてくる。
「参加締め切り間近! 挑戦者募集中です!」
 リュカは男から受け取ったチラシに目を落とし、ん、と小さく声を上げた。
「……ホイミン、君が言ってた武術大会ってこれのこと?」
 ホイミンに渡して質問を投げかけると、それを確認したホイミンがこくりと頷く。
「はい。参加締め切りは明日いっぱいですね……試合開始は明後日、午前からだそうです。応募資格はどなたでも可、連勝中のアリーナ姫を倒せたら、エンドール王より賞金一万ゴールド……」
「よし、参加しよう。まずは旅の資金作りだ!」
 ホイミンの説明に、リュカはこぶしを掲げて即決した。

 コナンベリーからの直行便で都市国家エンドールへと到着したリュカは、行き交う人々の装いまで変わったことに驚きながら、活気ある城下町を見渡した。
 ここまでは近郊に作られた発着場から看板を頼りに徒歩だったため、体は少しの疲労感を覚えていた。
 色々な人間が行き交う城下町らしく、人々の多くが大型スライムのディディやプックルを見ても多少驚いた顔で通り過ぎていく。敵視はされなかったため、ひとまずそのまま全員で街をぶらついた。
「おっきい城下町だねー、皆なんかオシャレだなぁ」
 リュカの言葉に頷きながら、ピエールもぐるりと視線を巡らせる。
「そうですね、道も広々としていて歩きやすいですし」
 ホイミンが預かっていたチラシに目を通し、城を指差した。
「受付は……城内コロシアムですから、あの正門脇から入れば行けますね」
 正門の両脇に扉があり、ホイミンの説明では左右どちらから入ってもいいらしいと聞き、リュカが口角を上げた。
「ありがとう。時代が違うからか、文字もちょっと読みにくくてさ……ホイミンが来てくれて助かったよ」
 リュカは明るい表情でそう話し、ちらりとホイミンを流し見た。ホイミンは照れ隠しに竪琴をきゅっと持ち直してはにかんでいる。
「実は私も、一度見てみたかったんです。当日は皆でリュカさんの応援してますね」
「任せて。絶対賞金獲ってやる!」
 楽しそうなホイミンへ、リュカは得意気にふふんと笑った。

 そして試合当日、優勝候補のアリーナは早々に五戦を勝ち抜き決勝進出を決め、父の言葉通り異変がないかと観戦に出た────というのは名目上で、決勝に上がってくる猛者はいないかと探しに来たのだった。
 アリーナは頭の後ろで両手を組みながら、形のいい唇を尖らせている。
「なーんか今年もつまらないわね。もっと腕に自信のある人いないかなぁ」
 平和を取り戻した後もエンドール王の思い付きによりこうして毎年武術大会が開かれているが、力自慢の参加者は年々減る一方だという。
 傭兵の必要性がなくなれば転職を余儀なくされる。王宮勤めの兵士でもない限り、生きていくために武器防具を捨てる者は少なくないのだ。
 つまらないと連呼するアリーナの背後から、ブライがいつものように窘める。
「全く姫様はこれだから……城でおとなしくしてくだされば良いものを」