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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 いつものように始まった小言に、笑いを堪えたクリフトがやんわりと止めに入った。
「まあまあ、ブライ様。こんなにお強くて頼れる姫君など、世界中どこを探してもいませんよ〜」
 この若き神官が姫のやることなすこと全て好意的に解釈して甘やかすせいで、とブライは忌々し気に睨む。
「そこらの兵士より遥かに強い姫君など聞いたことがないわ! 王妃様はとても品の良い方でいらしたのに……はぁ」
 老魔法使いが発したため息混じりのぼやきに、アリーナはしれっと言い返す。
「そう言うブライだって、旅に出たから強い呪文も使えるようになったんじゃない。初級魔法しか覚えてなかった癖に偉そうに」
 淡々と反論された老魔法使いは、ぐうと唸って黙り込んだ。
 悔しそうなブライに苦笑いを浮かべていたクリフトが、目の前で急に立ち止まったアリーナに思い切りぶつかった。
 どんと当たった際に朱色の髪から甘い香りが漂い、クリフトは瞬時に顔を赤らめて後ずさる。
「わ、わあっ! 申し訳ありませんっ!」
 脇見を謝る神官には目もくれず、アリーナは開催中の試合に視線を縫い止めている。
「……ねえ、あれ……」
 アリーナのうわ言のような呟きを聞き付けて二人は彼女の視線を辿り、そしてぴりぴりと張り詰めた緊張感を顔に貼り付ける。
 眼下では魔物ベロリンマンと対峙する、一人の男へと注目が集まっていた。
「何あの派手な格好……」
 アリーナの言葉に、二人は小さく頷く。
 男は見たことのない真紅のマントに同じ配色の冠、金色に輝く丸い盾を身に着け、緑色の杖を持っている。
 勇者と共にあちこちを旅して回ったが、どこの街にもあんな装備品は売っていなかった────と、三人は怪訝な表情を見せた。
 まるでどこかの王族のような余りにも仰々しい姿に、会場から失笑も起きている。アリーナは人を貶めるその笑いにも不愉快そうに眉をひそめ、おもむろに口を開いた。
「装備は保守的なのに体はかなりしっかりしてるわ……それも実戦でついた筋肉に見える。なのにあの格好って、戦士なのか何なのかよく分かんない人ね」
 アリーナは強ければどんな相手でも構わないと思っているが、できれば自分と同じ武道寄りか戦士型との対戦を好む。そんな彼女にとっては待ち望んだ筋肉の持ち主と言えた。
 目を輝かせて見入るアリーナをクリフトはジト目で見つめ、どうせひ弱ですよと彼女に聞こえない声量で呟いてから、通常の声で話し出す。
「後ろの連れの方たち……あれはスライムですよね。色がちょっとおかしいですが」
 クリフトの指摘にブライが頷き、顎髭をさすった。
「随分と大きく育ったスライムじゃの。上の騎士は魔物か……?」
 彼の背後には大きなトラのような生き物と大きなスライムに乗った鎧の騎士、竪琴を持った詩人が並び、そんな初めて見かける生き物の存在も相まって、三人にはどこか不気味に思えていた。
 じっと彼らに注目している内に、クリフトは詩人の姿に引っ掛かりを覚えた。
「あの詩人……どこかで見たような気がしますよ。どこだったかな」
 言われて視力の良いアリーナも目を向け、暫く観察した後にあっと声を上げた。
「……あの人、キングレオ城にいなかった? ライアンと知り合いっぽかった、なんか残念な名前の!」
 アリーナがばっと振り返り、クリフトと視線を合わせて同時に頷く。
 キングレオ戦では勇者ソロを筆頭に、因縁があると志願したモンバーバラの姉妹とアリーナでチームを組んでおり、他の仲間は城の外で待機していた。後に馬車の中でマーニャがその話を持ち出していたが、クリフトは詩人が立ち去る間際に見せた、どこか名残惜しそうな足取りが記憶に残っていた。
「確か……伝言を頼んでいなくなったそうですよね」
 馬車はそう遠くないところにあり、ライアンに用があるなら呼びに行ける距離だったのに何故────と、当時クリフトは不思議に思っていたのだった。
「……ちょっと気になるから、試合見ていきましょ!」
 観戦に俄然熱の入った姫をよそに、老魔法使いブライはじっと目を眇め、男の身なりや周辺を観察する。
(後ろで一つ束ねの黒髪───王の夢に出てきた男と、髪色と髪型は合致する……服装も、紫の外套に変えれば酷似しているか……)
 和気藹々と会話しながら試合を観戦している二人の隣で、ブライはひっそりと警戒心を張り巡らせて、些細な違和感すらも見つけ出そうと気を引き締めていた。

 四戦をあっさりと勝ち抜いたリュカへ、背後で見守っていたピエールが声援を飛ばす。
「リュカ様、五勝まであとちょっとです! 頑張ってください!」
 会場から沸き起こった笑いにも負けないピエールの応援の声に、リュカはほんの少し振り返ってドラゴンの杖をちょいと持ち上げて見せた。
 何故主が笑われているのか分からなかったが、こちらの世界では奇抜な恰好に見えているらしい────と、ピエールは方々から漏れ聞こえた会話で判断した。
 プックルはふんふんと匂いを嗅ぎ、長い尻尾をぶんと横に振ってピエールへ話しかけた。
「しっかし何だあいつ、イエティだよな? なんか、イエッタとは違う匂いだぞ」
「見た感じではイエティのようですけどね……あっ、プックル見てください!」
 一体だった体が四つに分身していく様子に、ピエールは思わず驚愕の声を上げた。

 前後左右、リュカを取り囲むように分身したベロリンマンを前に、リュカがニイと片頬を吊り上げる。
「……へえ、分身か。面白い技だね」
 まずは正面のベロリンマンに様子見の一撃を与えたものの、杖は何の手応えもなく空を切り、右の一体を残して霧散していく。
 ベェと舌を出したユーモラスな姿に、リュカは思わず吹き出した。
「あはは、かーわいい! おいで、次は君の番だよ」
 杖を持ったまま、人差し指でチョイチョイと煽る。余裕たっぷりにおちょくられたことに気付いたのか、ベロリンマンは身体中を真っ赤に変化させて火の玉を吐き出してきた。
 真っ直ぐ向かってくる火の玉に盾を構えることもなく、マントで軽くはたき落とした。
 武術大会の参加者の中でもベロリンマンは厄介な部類に入る。打撃や呪文単体では彼を上回る使い手は大勢いるが、この分身術のお陰で長期戦となり、持久力のない者が軒並み脱落していくのだ。
 そんな多くの脱落者を見てきた観戦客たちは、素早いベロリンマンよりも先に攻撃をし、更に火の玉にすらダメージを受けていない男に驚きを隠せず、場内は次第にどよめき出す。
 その後もリュカは分身する姿をしげしげと観察し、笑みを浮かべたままベロリンマンの攻撃をやり過ごした。
 その戦いを見ていたホイミンがほうと溜め息をついた。
「まだまだ余裕がありますね、リュカさん」
 ホイミンの言葉にピエールとプックルも頷きを返す。
「どうやら遊んでおられるようですが……」
「あれはわざと外してやがるな、リュカの野郎」
 城で魔物たちとじゃれ合っているときと同じ様子にプックルは呆れ顔になり、叫んだ。
「おいリュカ、とっととケリつけろ! ちんたら遊んでる場合か!」
 プックルの咆哮に、観客席から小さな悲鳴が上がった。
 苛つきを隠さないプックルへちらと視線を向けたリュカが肩を竦めた。