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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「あーあ、怒られちゃった。仕方ない、悪いけどそろそろ終わりにさせて貰うね」
 そう言って杖と盾を無造作に放り投げ、空いた両手を胸の前で組み合わせてぱきぱきと関節を鳴らす。
 試合中に突然武器と防具を手放すという異様な行動に、人々のどよめきは興奮を孕み更に騒々しさを増した。
 腰を落として身構えたリュカの顔に笑みはなく、ただ正面のベロリンマンだけを見据えて攻撃を待った。
 やや時を置いて、左のベロリンマンが襲い掛かってくる。
 リュカはすぐに体の向きを変え、両手で挟み潰そうとしてきたベロリンマンの右腕を左腕で防御してから掴み、右腕で脇の下をぐっと抱え込むとそのまま勢いに乗せて一本背負いを掛けた。
 派手な音を立てて地面に打ち付けられたベロリンマンは、そこでぐたりと動かなくなった。
 審判も兼ねた兵士がリュカの勝利を告げる。
「リュカ様、五人勝ち抜き!」
 リュカが満面の笑みで高々と拳を突き上げて見せると、わっと歓声が上がる。
 兵士たちが気絶しているベロリンマンを運び出そうと駆け寄ってきたが、リュカが片手でそれを制した。
「すみません、ちょっと待ってください」
 そう言ってベホマを唱え、ぺちぺちと頬を叩いてベロリンマンを起こす。
「おーい、起きろよ」
 実は先の戦いでも敗者に回復呪文を唱えては健闘を称えてきたため、兵士たちは頷いてすぐに下がっていく。珍しい行動だと思ってはいたが、兵士たちにとっては力仕事が減り、楽をさせてもらったと言わんばかりである。
 目を覚ましたベロリンマンはむっくりと起き上がり、不思議そうにリュカを見た。
「う……?」
「お疲れ。面白かったよ」
「うぉーん、今年もアリーナと遊びたかったのになぁ……」
 心底がっかりした様子のベロリンマンの手を取り、ぽんぽんと優しく慰める。
「ごめんなー、今回だけぼくに譲ってくれ」
 どうしても賞金が欲しいから、とは言わずにおいた。
「うん、いーよ。また遊ぼうね」
「いつかまた会えたらお手合わせ願うよ。元気でね」
 ぎゅうとハグをして、お互いの背中を軽く叩き合った。
「バイバイ。リュカ強いから、アリーナ喜ぶ。がんばって」
 無邪気に手を振って退場していくベロリンマンを見送る。
 にこにこと可愛らしい魔物だったなと思いながら、リュカはようやく辿り着いた決勝戦へ向けて意識を切り替えた。

 以前は連戦だったが、ここ数年は参加者の減少もあり、決勝戦前には小休憩が挟まれるようになった。休憩中には対戦者同士の諍いが起きぬよう、監視役の兵士が立っている。
 リュカたちは一旦控え室に戻り、兵士が呼びに来るのを待つ間、談笑に花を咲かせていた。

 リュカとベロリンマンの戦いに、アリーナは強敵が出現したと胸を高鳴らせていた。
「闘い甲斐のある男ね。あのベロリンマンと遊ぶ余裕があるなんて、結構やるじゃない!」
 アリーナの見解にクリフトが目を丸くさせる。
「え、あれ遊んでいたんですか?」
「割と動きを見切ってた感じがしたわ。本当はあいつより素早く動けるんだと思う、鮮やかな技の掛け方だったし」
 ぎらぎらと闘志を漲らせていたアリーナだったが、ブライは別の意味で期待に胸躍らせていた。
「回復呪文の使い手のようでしたな。姫様には少々分が悪い相手かと……」
 おてんばと呼ぶにはとっくのとうに度を越した姫君である。できることなら他国の姫君と同様にしおらしくして欲しいと願うあまり、たまには真っ向からねじ伏せられて鼻っ柱を折られてしまえとほくそ笑むブライであった。
 言葉の割ににやついているブライを見て、クリフトは彼が心で思っていることにうっすらと気づくものの、敢えて指摘はせずに違うことを口にした。
「対戦相手にまで回復を施すなんて、なかなか素晴らしい御仁のようですね」
 神職のクリフトから見ても模範的と言わざるを得ない行動を、素直に褒め称える。
「でしょ、そういうところも堂々としてていいじゃない。倒し甲斐があるってもんよ!」
 憧れの姫君が手放しで褒める点については面白くなかったクリフトだが、ここ数年はずっとアリーナの圧勝で終わってしまっていて、この楽しそうな笑顔が見られるだけでも幸福だと考え直す。

 リュカたちが和やかに談笑する中、早々に決勝戦進出を決めたアリーナ一行が遅れて控え室に入ってきた。
 視線がかち合いぺこりと頭を下げたリュカの元へ、アリーナがつかつかと歩み寄ってきた。
「次は私とあなたの一騎打ちね。負けないけどよろしくね!」
 身長差があるため自然と上目遣いになっていたアリーナだったが、形のいい唇を綺麗に持ち上げて笑う。
 リュカは差し出された手を取り、笑顔で握手を交わした。
「こちらこそよろしく。お姫様だと聞いていましたが、こんな可愛らしい方だとは想定外でした。どうぞお手柔らかに」
 リュカの言葉を聞いた瞬間小首を傾げたアリーナが、ほんの少し目を細めた。
「……ふうん、そういうことも言っちゃうんだ。見た目で判断すると痛い目見るわよ、覚えておいて」
 痛い目、と言った辺りで握っていた手に思いきり力が込められ、リュカはくっきりとした太眉を八の字にして、アリーナの勝気な瞳を覗き込む。
「あー、すみません。あなたを見くびっていたわけじゃなくて……可愛いと思ったのは本当なんで」
 アリーナはふっと鼻で笑い飛ばし、踵を返した。
「私が勝った後でも同じことが言えたら、信じてあげる。じゃあね!」
 言うだけ言って颯爽と立ち去る背中を見送る間際、彼女の背後に控えていたクリフトがリュカを睨んでいく。ブライのほうは見向きもせずにさっさと行ってしまった。
 リュカはやれやれと肩を竦め、ピエールへと視線を投げた。
「……なんか怒らせちゃったみたい」
 ピエールも唖然とした様子で口を開いた。
「褒めて怒られるって珍しいですね……」
 それから気を取り直して道具や装備品のチェックをしている間、ピエールが小さな声でリュカを呼ぶ。
「リュカ様、これを……」
 おずおずと差し出されたのはエルフのお守り────ミルドラース戦まではリュカも欠かさず身に着けていたが、今回の旅ではうっかり外していたのだった。
「戦いの場では何があるか分かりません。願掛け程度ではありますが、どうぞお持ちください」
 リュカは兜の奥の青い目を真顔でじっと見つめ、それからくしゃりと表情を崩して受け取る。
「ありがとう……借りるよ」
 その後控え室に入ってきた兵士に促され、リュカたちは再び会場内へと赴いた。

 試合開始の宣誓が行われている間、プックルがピエールに話しかける。
「ピエール、あのお姫様は呪文使わないってホイミンが言ってただろ。お守りなんかいらねーぞ?」
「……リュカ様はああ見えて勝つためには手段を択ばない方です。私の読みが正しければ、きっと必要になるでしょう」
 不可解だと言いたげに、プックルの尻尾が下向きに揺れた。
 対峙する二人を見つめながら、ピエールは喉の奥で微かに笑う。
「……ただの願掛けです」
 戦況が不利になればなるほどリュカの五感は研ぎ澄まされ、何としてでも勝てる方法を探し出すことを、ピエールは彼の右腕として熟知していた。