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しょうきち
しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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 ぎゅっと下唇を噛み、意を決して光の盾を放り投げた。ベロリンマンとの戦いで見せた行動ではあったが、今度はアリーナの攻撃をまともに食らえば、それで勝敗がついてしまうほどの危険行為である。盾越しでも重い蹴りだったが、ここまで来たら視界を遮る盾に頼るよりは、むしろ素手のほうが防御も反撃もしやすいとの判断からだった。
 一気にカタを付けようとアリーナが右上段回し蹴りの姿勢に入った。リュカは盾がなくなり空いた左手で蹴りを受け、同時に剣を持つ右手で彼女の膝へ柄頭をがつりと叩き込む。そうして蹴りの威力を食い止めるとすぐに上体を軽く倒し、アリーナの足を逃さぬよう左手を絡め、脇に挟み込んだ。
 アリーナが反撃に出るより一瞬早くリュカは力任せに強く引き、彼女のバランスを崩して上半身の攻撃を防いでから、一歩深く踏み込み残りの左足を絡め取る。
 足払いを掛けられ、アリーナの背がとうとう地面についた。
 勇者との旅を終えてから参加した大会の中では初の事態に、観客の多くが熱狂し彼女のファンはリュカを口汚く罵っている。
 リュカはそれに気を取られることもなく、好機とばかりに剣を手放してアリーナの鳩尾目掛け片肘を打ち付けた。
 倒れ込む勢いに加えて成人男性の全体重を乗せた肘が鳩尾に決まり、さすがのアリーナも呻き声を上げる。
「ぐぅっ……!」
 会心の一撃を食らったアリーナの顔が痛みに歪む。が、すぐに反撃が始まった。
 背後を取ろうとしたリュカの顎をアリーナは掌底で突き上げ、衝撃に一瞬眩暈を起こしている間に体勢を立て直す。
「クソッ……そう簡単にはいかないかぁ……」
 そこそこ大きなダメージを与えられたが決定打とはならず、リュカは冷静な頭で今後の動きを予測し組み立てる。
 先程までの彼女なら既に次の攻撃をかけてきただろう。動きは明らかに鈍っていて、隙こそ見せないものの体力の限界が近づいているのは確かなようだ────と考え、もう少し弱らせようと地面に突き刺していた剣を再び取った。
 掌底を当てられた際に頬の内側を切ってしまったらしい。血液混じりの唾を吐き捨て、ぞくぞくと肌を走る高揚感をなだめた。
 さほど間を置かずにアリーナが距離を詰め、正拳突きを叩き込んでくる。対してリュカも剣の腹をアリーナの腕に当てて攻撃を受け流し、そのまま刃先を滑らせて上腕に切り傷を与えた。
 次にアリーナは深く腰を落として下段回し蹴りを掛け、リュカの意識はそちらに向いた。その直後にもう一度蹴りの体勢に入ったのが見えた────そこでリュカは微かに口の端を上げる。
 アリーナの中段回し蹴りは綺麗に決まったが、膝を抱え込む前にリュカは素早く左手で剣身を握り、膝目掛けて柄を斧のように振り下ろす。
 ばきりと枝を踏んだような乾いた音が辺りに響き、アリーナは遂に片膝をついた。リュカは彼女の膝を破壊した後も顔色一つ変えず背後に回り込み、右腕を首に回してぎちぎちと締め上げる。
 膝の痛みに意識が行った一瞬の隙を突かれたアリーナがリュカの腕から逃れようと試みるものの、半身分後方に引き摺られながら壊された側の膝を更にダメ押しで殴られ、思わず悲鳴を上げた。
「うあ!!」
 短い悲鳴と共に彼女の顎が上がったお陰で、リュカは幸運にも顎下に腕をねじ込ませることができた。後は左手を添えて本気で絞めてしまえば秒単位で落ちる。だがリュカは息苦しさを感じるギリギリの力加減で絞めながら、アリーナの両足に自らの両足を絡めぴたりと張り付くような体勢を取ると、確実に逃げ道を閉ざした。
 武道を極めて筋肉質だとは言え、リュカからすればアリーナは小柄で華奢なほうである。右腕はアリーナの首を抱き込みながらも余裕でリュカの左肩に届き、がっちりとホールドしている。
「アリーナ」
 アリーナの耳に口を寄せて、リュカが囁く。
「負けましたって言うんだ。君の口で」
「絶対、言わない……っ!」
 怒りの形相を浮かべ両手のキラーピアスで攻撃してみるが、当たる間際に首を強く絞められてうまく力が入れられない。
「……降参しないの?」
「しないっ……!!」
「君、現状分かってるの? 足だってこんななのに、ほら」
 リュカの両足はしっかりと地面についていて、彼は躊躇なくアリーナの足ごと大きく開脚した。
 そして幾度かの斬撃を受け露出している足の切り傷に指を宛がい、ゆっくりとなぞる。
「いっ……!」
 痛いと言いかけた口を戒めるように、アリーナはきつく唇を噛み締めた。
 指先に付着した砂がざりざりと傷を削り、代わりに乾き切らない血液がリュカの指に絡む。ちらと彼女の従者らに視線を向ければ、二人は憎悪に満ちたまなざしでリュカを睨み付けていた。
(当然か。衆人環視の中で一国の姫君を辱めてるんだもんなぁ)
 左手はするすると滑らかな動きでアリーナの腹を往復した。
「ひゃうっ!?」
「綺麗ないい腹筋してるよねー」
 そんな言葉が投げかけられた矢先、リュカの声が更に近づく。
「いいよ、時間あげるから頑張って逃げてみな。ぼくは折角だし好き勝手させて貰うけどね」
 低い声音で言いながらアリーナのタイツを破り取り、あらわな肌を撫で回す。
「ちょっ、と、やだ!」
 慌てて両手でリュカの左手を掴む。女性らしい恥じらいにリュカは楽しげに笑った。
「はは。やっぱりこっちのほうが効いたね、かーわいい……いつでも負けてくれていいよ、そしたらやめてあげる」
「ひ、卑怯だ! しかも変態!!」
 耳と頬をかっと朱に染めて抗議するアリーナの顔を、リュカはどこか冷酷さを伴った瞳で覗き込む。
「なんとでも。この大会って相手を殺した人もいたんでしょ、それならこれだって攻撃としては十分アリだろ? 君が降参するまで続けるよ」
「あれは、例外中の例外だと思……もうっ、触るなー!!」
 キラーピアスを挟んだ拳でザクザク斬りつけてみるも、リュカは平然とした顔で左手を遊ばせている。
「……ところでさ、あの神官くんは君の彼氏? 今にもぼくを殺しに来そうな顔してるんだけど」
 殺しに来そうな顔どころか、背負った剣に手をかけた状態で先程よりもきつく睨んでいる。隣の老人が片手で彼の腹を押さえ、駆け出しそうな体を押し留めていたが。
「……クリフト……」
 弱々しい声と共に、アリーナが急に足を閉じようと力を込めた。その行動で二人の間に何かを感じ取ったリュカが、ニイと頬を歪める。
「ふうん……なんか面白そうだなぁ、あの人」
 リュカはふと、ルヴァを思い出す。彼の恋人をお姫様抱っこしただけで、いつもにこやかだったルヴァがそれは不快そうに眉をひそめ睨んできたことを。
「そうだ。彼にももっと見て貰おうか。大丈夫、傷つけないで善くしてあげるよ」
 そう言ってアリーナの耳を舐った。
 ぬるりと生暖かい舌の感触と聞き慣れない音に肌が粟立ち、首の可動範囲ギリギリまで背けたものの、今度は首筋を強く吸われ赤く痣がついた────リュカの目はクリフトを強く見据えたままで。
「やっ、きもちわるい!!!」
 その切実な声はクリフトにもはっきりと聞こえた。
 わざと見せつけるようなリュカの視線に彼の中でぷつんと何かが切れる音が聞こえ、剣を掴んだままぶつぶつと詠唱を始めた。