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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 詠唱の声を聞き取ったピエールがリュカへと視線を走らせる────既に普段の温厚な主ではなく、戦人として時折見せてきた酷く狂人めいた表情に、主が大きな賭けに出たことを知る。
 行動自体は彼の予想通りではあったが、勝利をほぼ得られたところでの無謀な賭けに理解が追い付かず、ピエールは固唾を飲んで見守るしかなかった。
「ふ、いいぞ……来い来い、来ぉい!」
 リュカの言葉で狙いに気付いたアリーナがクリフトに何かを伝えようとしたそのとき、ぎゅうと首が締まった。
「……ッ、……!」
「ちょっと黙っててね」
 この男は頭がおかしい────ひゅうひゅうと息だけが漏れていく中で、子供のように屈託なく笑うリュカに、アリーナは声なき声でそう言っていた。

 神官クリフトが詠唱を終えた。彼の得意とする死の呪文、ザキが発動する。
 彼の指先がはっきりと対象者を指し示すと、道連れを求める禍々しい死者の魂が紫の光となり襲い掛かった。
 リュカは左手でマントを手前に掲げ、アリーナごと包み隠す。
「これで勝敗が決まる」
 アリーナの頬にくっついていたため彼女からは見えなかったが、瞳を閉じて淡々と話す顔は穏やかで、狂人めいた笑みは鳴りを潜めていた。
 コロコロと変わる雰囲気に危うい不安定さを感じて、アリーナは刹那、デスピサロを思い出す。
 異様な雰囲気に飲まれた観客は誰も彼もが口を閉ざし、成り行きを見守る。
 紫の光は王者のマントに触れたかと思うとゆっくりと消え去っていった。エルフのお守りが効いたのか、死に捕らわれることはなかった。
 マントに覆われたアリーナは背中から伝わる早い心音、そしてむっと立ち込める汗の匂いに、リュカがそれなりに緊張していたと察した。
「…………ぼくの勝ち」
 微かに震える声の後で右腕が緩み、アリーナは息苦しさから解放された。

 兵士たちが集まり、審議の結果が発表された。
「反則行為につきアリーナ様失格、リュカ様の優勝決定です!」
 一対一の勝負である以上相手の息の根を止めることは反則にならないが、仲間からの援護や妨害行為は禁止と言うことをリュカは試合前のルール説明で聞いており、それをうまく利用した形である。
 割れんばかりの歓声に包まれる中、リュカは穏やかな表情でアリーナの手を取り、回復呪文を唱えて立ち上がらせる。
「膝、何度もごめんね」
 戦いから逃げるにせよ隙を突くにせよ有利になるため、無意識で相手の膝を狙う癖を謝罪する。
 彼女からすれば大いに不服のある結末ゆえ、むっすりと不愉快そうな顔でリュカに文句を言い始めた。
「そっちは別にいいけど……こんなやり方は納得いかないわ。あのまま失神させてくれれば良かっただけなのに」
 言葉の続きは声という形にならないまでも、どうしてあんなことをと言外に問う強い視線に、リュカはひとつ頷いて説明を始めた。
「いいかい、アリーナ。君はとても強いけど、自分の性別が女の子だってことを、忘れたらいけないよ」
「忘れてないわよ。何が言いたいの?」
 試合終了を受けて、双方の仲間が集まってくる。リュカの話は続けられた。
「ほとんどの男が君に適わなくても、もし集団だったら? 呪文に長けていたら? その可能性があるって、君は王族としていつだって自覚しておくべきだと思ってね」
 敬意と謝罪の意味を込め、リュカがアリーナの指先に口付ける。
 気障ったらしいとアリーナは思いながらも、僅かに険を解いた。
「……それ言いたかっただけじゃないでしょうね」
「んーまあ、半分くらいは。後は純粋に、神官くんが煽ったら面白そうだったから」
「やっぱり貴方、頭おかしいわ」
 アリーナの頬には理解不能と書かれており、分かりやすい表情を面白がったリュカがくつくつと笑った。
「そう? 楽しくなかった?」
「反則負けなんて楽しいわけないじゃない! もーっ、クリフトのバカ!! 余計なことして!!」
 いつもならば申し訳ありませんと謝ってくるクリフトが、アリーナの癇癪をスルーしている。
「私は間違ったことをしたとは思っていません」
 毅然と言い返すクリフトに、アリーナはキッとまなじりを吊り上げた。
「何ですってーっ!?」

 無事に賞金を獲得したリュカたち。控え室に戻ってきたところで、リュカはクリフトに呼び止められた。
「お話があります。少しお時間いいですか」
 一人呼び出され通路まで出ると、余程頭に来ていたらしいクリフトがリュカの胸倉を掴んだ。
「……あれは一体どういうおつもりで?」
 クリフトは一国の王女を公衆の面前で辱めたことを咎めている。
 リュカからすれば男として許せないのだろうと思っていたが、クリフト当人は神官と言う立場から考えているかのような口振りだった。
「そんなに大事なら、黙って見てないで足掻けってこと。試して悪かったよ、お詫びにこれあげるから許して」
 ぽんと手渡されたものにクリフトは訝しみ、視線を落とした。
「何ですかこれ……、ッ!!?」
 喋る途中で正体に気付いたクリフトが赤面し、目が泳いだ。
「こ、こんなものすぐに処分しなくては」
 そう言いながらポケットに慌てて詰め込んでいるのは、先程リュカが破り取ったタイツの切れ端である。
「そうだねぇ、ぼくが持ってても仕方ないしそっちで処分しておいて。あっ、お手洗いは向こうね」
 リュカが笑顔で言い放つと、赤らんだ顔は首まで紅潮し、動きが一気にぎこちなくなった。
「……おおおおおてっ、お手洗いってっ」
 クリフトの肩に手を置いて、リュカは彼の耳元にそっと口を寄せた。
「捨てる前にどうしようと……、ぼくには一切与り知らない話なんでね。まぁ頑張って」
 何が、なんで、と呟いて混乱しているクリフトへ微笑みかけ、丸みを帯びた声で口を開いた。
「気持ちの強さだけは、誰にも何にも揺るがされない、鍛える必要もない唯一の武器だからね。さっきの君はかっこ良かったよ」
 肩に置いた手をぽんと弾ませて、振り返らずに控え室へと戻っていくリュカの背中を、クリフトは複雑な顔で見送った。

 リュカを連れ退室したクリフトがなかなか戻らず、アリーナが仁王立ちで腕を組む。
「クリフト遅いわねー、なんか機嫌悪かったし」
 ブライが同じくリュカの戻りを待つピエールたちを横目で盗み見て、小声で問いかけた。
「……姫様、あの男と戦ってみて如何でしたか」
 ブライは声を潜めていたが、その会話はピエールにははっきりと聞こえており、兜の下では白い頬がぴくりと動いた。
「ん? うーん……なんかね、お父様の言ってた人とは違うんじゃないかな。特徴は一緒だし戦い方も変わってたけど、そんな悪人じゃなかったわよ」
「そうですか。姫様が特に気にならないのであれば、今はそう問題ないのでしょうな」
 今は問題ない────その言い方に多少の引っ掛かりを覚えつつ、アリーナは控え室に入ってきた面々に表情を緩ませた。
 褐色肌の美人姉妹マーニャとミネア、マーニャに引っ張られてきた王宮戦士ライアンだ。
「マーニャ、ミネア! ライアンも久し振りね! どうしたの皆!?」
 アリーナの嬉々とした声音が告げた名に、ピエールは視線をホイミンへと向けた。