二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|108ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

「ホイミスライムはほとんど水だよう、ライアンさん」
 にかっと笑って告げた口調に、そのあどけない表情に、ライアンはかつて共に旅をした友だと確信を持てた。
「わははは、違いない!」
 整然と並ぶ白い歯を見せて快活に笑うと目の潤みを誤魔化すようにホイミンをぎゅうと抱き締め、それから日に焼けた手でとんとんと背を叩く。
 優しい力加減に労りの思いが伝わるせいか、単純に苦しかったからか、それとも別の感情か……ホイミンは息が詰まって言葉が一向に出てこない。
「また会えて嬉しいぞ。それもこんな美男子になって……おまえはもっと子供だと思っていたのになあ」
 ライアンが両肩を掴んでそっと引き離す。少しの名残惜しさを感じながらも、ホイミンは嬉しそうにライアンの顔に視線を縫い止める。
「選べなかったんです。変ですか?」
 かつてと変わらぬライアンの優しいまなざしに、喜びに満ちた体はふわふわと浮かんでしまいそうになる。
「いいや。見た目などどうだっていいんだよ、ホイミンはホイミンなんだからな」
「えへへ、やっぱりライアンさんだ!」

 リュカたちは無事に再会を果たしたホイミンを見守り、彼の幸せそうな満面の笑みにほっと胸を撫で下ろした。
 ピエールがリュカの服をちょいと引き、次の行動を促す。
「リュカ様、用も済みましたし私たちはそろそろ行きましょう」
「そうだね、行こうか……ではぼくたちはこれで」
 ホイミンを残して去ろうとするリュカ一行を、アリーナが引き留めた。
「あっ、ねえ! どうせなら皆でご飯食べに行きましょうよ、クリフトも戻ってきたし……おっそいクリフト! 駆け足ーッ!!」
「は、はいっ!!」
 アリーナの大声にしゃきっと背を正したクリフトが慌てて駆け戻ってくる。
 試合の一部始終を観戦していたマーニャは何かを察知したのか口元をにやつかせ、ミネアに肘でつつかれていた。
 食事時であれば騎士の顔も見られるだろうと考えたブライがアリーナの言葉に乗っかる。
「そうですな。これもひとつの縁、ご一緒に如何ですかな」
 ブライに問われたリュカが、ピエールにちらと視線を向けた。主が決めることであればと頷くと、リュカは口角を上げて答える。
「お邪魔でないのなら……ぜひ」
 そこで腰に手を宛がい立っていたマーニャがアリーナの腕を取って口を開いた。
「じゃあアリーナ以外は先に行ってて。いつもの酒場でいいわよね?」
「えっ、私は?」
 なんでと問うまなざしを受け止めて、マーニャはくいと片眉を上げる。
「アリーナはその恰好じゃだめよ、着替え買いに行かなきゃ」
 例年通りなら大した汚れもつかぬままあっさり優勝しているため、このまま酒場で食事を摂りながら互いの近況を喋り倒して解散していた。だが今のアリーナは魔物と激戦を重ねていた頃のようなボロボロの酷い格好である。
「えー? 別にこれくらい平気だけど」
「あり得ないから! お姫様なんだからちゃんとしなさい!」
 マーニャは身嗜みに関してはなかなかに煩い姉貴分である。
 父王を始めブライやクリフトでも男性ゆえ行き届かない面を、母や姉妹のような立ち位置でマーニャとミネアがうまくカバーしていた。
 これにはブライも安心するのか、いつもの険しい顔はどこへやらといった様相だ。
「マーニャ殿に任せておけば安心ですな。面倒をかけるが宜しく頼みます」
「任せて。もうちょっと綺麗にして連れて行くわ」
 マーニャはぞろぞろと移動を始めた一行を見送る。最後にミネアが振り返った。
「二人とも早く来てね。先に行ってるわね」
「はーい」
 アリーナとマーニャが同時に返事を返すと、にこりと微笑んだミネアが一行の後を追っていった。

 酒場のある建物が視界に入ったところで、ピエールがリュカを呼んだ。
「リュカ様」
 ピエールに呼び止められたリュカが耳を寄せる。
「先に着替えてまいります。ディディも外で待機させますので」
 人間の食事を必要としない大型スライムが店内に居座るのは邪魔になるだろうと判断したピエールへ、リュカが快諾する。
「分かった、何か聞かれたらぼくがうまく言っておくよ」
「宜しくお願いします」
 ピエールは言うなりさっとディディに乗り、集団から離れていく。
 あっという間に遠ざかる騎士を横目で流し見たブライが、リュカに問いかけた。
「……随分と大きなスライムですが、あの騎士殿が飼い慣らしているのですかな」
 老魔法使いの言葉選びに些細な不快感を覚えたリュカは、ゆっくりと瞬きながら慎重に口を開いた。
「飼ってる……って言うんですかね。馬と同じ扱いなんだそうですけど、相棒であり友だと聞いています」
「ほう……」
 カボチ村の一件以降、人間の魔物たちへの態度については常々思うところのあったリュカは、少し苦笑気味に告げた。
「すぐ戻ってきますから、何かお知りになりたいのであれば彼に直接訊いてください」
 魔物を友と呼ぶライアンとは根本的に考え方が違っているように感じ、勇者と共に世界を救った面々相手でも緊張の糸を張り巡らせる。
 プックルがリュカの顔を見上げて小さく唸った。
「リュカ、おれは一緒に入っても大丈夫か」
「あー、どうだろうね。だめって言われたら外にいてくれる?」
「分かった。おれ肉食いたい」
「ここんとこそればっかりだな。野菜も食べなきゃだめだぞ、人参あげるよ」
「おまえが嫌いなだけだろ」
「バレたか〜」
 当人たち以外には動物と顔を見合わせて会話しているように見え、皆不思議そうにその光景を眺めた。
 きょとんと見ていたクリフトが、思ったことを口に出した。
「……言葉が分かるんですか?」
「長い付き合いなんで、大体は」
 短くそう言って誤魔化すと、愛想良く頬を上げて見せた。

 一行が酒場に到着して間もなく、簡素なワンピース姿のアリーナを連れたマーニャが戻ってきた。
 ぼさついた髪もしっかり手直しされ、こめかみの位置から緩く編み込まれたハーフアップ姿になっている。
「急いできたわよ。ブラーイ、こんな感じでどーお?」
 すぐに席を立ったクリフトがアリーナの椅子を引き、アリーナもまた当然のようにしなやかな動きで座った。
 マーニャの声にブライが片眉を持ち上げて答える。
「む……肌の露出は少々品がない気もするが、先程の姿よりは大分マトモじゃな」
 予想外のケチがつき、マーニャのこめかみがぴくりと動く。スカートの丈は膝が少し出る程度だったが、マーニャとしてはもっと短めでも良いのではと思ったほどだ。
「お爺ちゃん、あんまりヤなこと言ってると少ない頭髪燃やすよー? クリフト〜、アリーナ可愛いよね! 私の見立てなんだけど!」
 クリフトはえっへんと胸を張るマーニャへは一瞬ちらりと視線を向けただけで、端正な顔を緩ませてアリーナを見つめている。
「そうですね。さすが姫様、素晴らしい着こなしです」
「ちょっとは私も褒めなさいよ、ったくどいつもこいつも!」
 まなじりを吊り上げてボヤくマーニャのもとへ、ライアンがエールを一つ手にしてやってきた。
「まあまあ、マーニャ殿。まずは一杯」
 ライアンの顔ほどもある大きなジョッキを渡されるとぐびぐびと豪快に呷り、口の周りの泡を舌先で拭った。
「ありがと。はー、おいしー」