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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 そんな会話が繰り広げられる中、すたすたと入ってきた子供を店員が止めている。
「坊や、一人でこんなところに来てはいけないよ」
 主とお揃いの紫のターバンに、緑のチュニック姿のピエールだ。
「えっ」
「ほら帰った帰った!」
「ちょっ、まっ……!」
 背を押されて店外へ出されそうになり慌てて振り返ると、騒動に気付いたらしいリュカが店員へ声をかけた。
「すみませーん、うちの子ですー」
 背後から聞こえた声に振り返った店員がリュカのターバンと髪色に視線を止め、それからピエールを見て表情を緩めた。
「ああそうでしたか、それは失礼いたしました。ごゆっくりどうぞ」
 ピエールをひょいと抱っこして席に戻る途中、リュカが呟く。
「こんなときこそ大きな声でお父さんって呼んでよー、もー」
「……いやですよ」
 席に戻るなり、好奇心丸出しのマーニャがピエールの顔を覗き込む。
「えーちょっとぉ、何この子! 見てよミネア、将来有望の美少年〜」
 姉に言われるがままピエールを見たミネアが、表情を変えずにリュカに問う。
「お子さんなんですか」
 店員が椅子を持ってくるまでリュカの膝の上に座らされたピエールは、所在無げに店内のあちこちに視線を飛ばす。
 リュカがぐっと身を寄せて、ピエールと顔を並べてみせる。
「こうしてると、ぼくたち結構似てません?」
 ミネアの問いにそう答えると、リュカはピエールのターバンをそっとめくり上げ、魔族やエルフ特有の尖り耳を露わにした。
「リュカ様、何を────」
 突然の行動にピエールは狼狽えた声で主を見上げたものの、当のリュカは穏やかな表情のままだ。
「さっき、スライムと一緒に鎧の騎士がいたでしょう。彼ですよ」
 小声で親子ではないと示されたミネアが僅かに目を丸くさせ、椅子を運んできた店員に目立たないよう、小さく頷いた。
 ピエールはリュカの膝から滑り降りて用意された椅子に飛び乗り、姿勢を正して頭を下げる。
「スライムナイトのピエールと申します」
 生真面目な顔に作り笑いを浮かべたピエールだったが、女性陣からは口々に可愛いと言う声が上がっている。
 その様子をにこにこと見ていたホイミンが、隣のライアンへと視線を移して話し出した。
「ライアンさん、リュカさんは凄いんですよ。魔物の言葉が分かるんです」
「ほお、そうなのか」
 ライアンは好奇心を隠しもせず、リュカの顔を食い入るように見る。
 真っ直ぐな視線に少々こそばゆさを感じたリュカは、頬をぽりぽりと掻きながら口を開いた。
「ある程度分かるってだけですよ。うちの娘なんかは動物の言葉も理解してるようですけど」
 リュカの話に驚いたアリーナが薔薇色の瞳を見開く。
「えっ、娘さんいるの!?」
 意外そうな声音にリュカは頷き、答えを返す。
「息子もいますよー」
 ぽかんと口を開けたアリーナが呟きを漏らした。
「まさかの子持ち……」
 アリーナに続いてマーニャも淡々と突っ込みを入れる。
「そんな風には見えないんだけどなぁ……」
 横でミネアまでが頷く中、散々な反応に苦笑いを浮かべたリュカは無言のまま小さく肩を竦めた。

 やがて続々と料理が運ばれ始め、カウンターに出向いて酒を貰ってきたライアンが席に戻るなりホイミンに手渡そうとする。
「ホイミン、おまえも一杯どうだ」
「あ……ごめんなさい、ライアンさん。お酒は飲めなくて……」
 そう言って肩を落とすホイミンに、断られたことを気にも留めないライアンは湯気を立てている料理を取り分けて勧め出す。
「そうか。ならこっちを食べてみるといい、美味いぞ」
「はい。いただきます」
「まだまだあるぞ。細いんだからしっかり食え」
 次から次へとお勧めの食べ物を山盛りに取り分けていくライアンを横目に、食べきれるだろうかと困惑気味のホイミンへ、リュカが小声で話しかける。
「食べられそうかい? 無理そうならこっちに寄越していいからね」
 リュカの提案に少し申し訳なさそうな顔をしつつも頷きを返し、それから嬉しそうに料理を口へ運んだ。
 目を閉じてゆっくりと咀嚼している内に、視線を感じたホイミンがふと目を開けた。
 ライアンが親しみを感じさせる柔和な表情でホイミンの様子を見つめ、髭についたエールの泡を拭って一言問いかけてくる。
「……美味いか?」
「はい。ちょっと熱いのもありますけど、美味しいです」
「なんだ、猫舌は変わってないのか。まあゆっくり食べなさい」
 二人のまるで親子のようなやりとりに、マーニャがからかい始める。
「ライアンってば過保護ー」
「む……そうかな」
「お兄さんも大人なんだし、取り分けぐらい自分でできるでしょ?」
「うむ……それもそうか……」
 マーニャに指摘されたライアンは、そこでようやくこんもりと盛り付ける手を止めた。
 マーニャの横ではミネアがくすくすと笑いながらツッコミを入れる。
「姉さんだって子供の頃は似たようなものだったわよ。世話焼きで」
「え〜そうだっけ〜?」
 皆が和やかに会話と食事を堪能している最中、マイペースに食べていたホイミンが急に口元を押さえて青ざめはじめた。
 様子がおかしいといち早く気づいたリュカが声をかける。
「どうしたの」
「……っ、そ、と」
 ホイミンは震える手で出口を指差す。
「そと? 外に出たいの?」
 頷くやいなやリュカはがたがたと震えているホイミンを抱え上げ、何事かと驚いている他の面々に言葉を投げた。
「すみません、ちょっと席外します!」
 そのすぐ後を、ピエールとプックルが追いかけていく。
 リュカは店を出て裏側へ回り、ホイミンをそっと下ろした。
 ずるりとその場にへたり込んだホイミンの背をさすり、少し考え込んでから口を開く。
「何か合わなかったのかも知れない。吐いた方がいいよ」
 ぜいぜいと荒く息を吐きながら、リュカの言葉に瞳を揺らがせて固まっている。
「吐き方分かるか?」
 小さく頭を振るホイミンの顎を持ち上げた。
「口開けててね」
 リュカはそう言ってホイミンの口の中に指を突っ込み、舌の奥をぐっと押す。生理的な反応で胃の内容物が逆流し口から溢れ出した。げほげほと咳き込むホイミンの背を再びさすり、リュカはピエールを手招いて指示を出す。
「お水貰ってきて」
 ピエールは一つ頷いて颯爽と駆け出していく。
 一通り吐き出したところで、紙のごとく白んだ顔色にようやく色が戻ってきた。目を閉じてぐったりと力を失い、頭から吐瀉物の上に倒れ込みそうになるのをリュカが慌てて止めた。回復呪文をかけても、ホイミンは目を閉じたまま動かない。
「あれっ、気絶してるのか……困ったなぁ」
 前足でホイミンをつついていたプックルが、ふいに顔をリュカの後方へと向けた。
 ピエールの後ろにはライアンがついてきており、ホイミンの様子を見るなり血相を変えて走ってくる。
「ホイミン!? どうしたんだ!」
「ちょっと具合悪くしたみたいです」
 リュカの簡単な説明に理解を示し、心配そうな顔でホイミンを見つめた。
「大丈夫だろうか…………んん?」
 ホイミンの体が淡く光を放ち、元のホイミスライムに姿を変えた。
「ホイミンがホイミンになったぞ……!?」
「言葉がおかしいですけど、そうですね」