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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 吐瀉物に鼻先を近づけてふんふんと嗅いでいたプックルが、尻尾で地面をはたく。
「リュカ、これ酒入ってんじゃねーかな」
 プックルの考察に、ホイミンの食べていたものを観察したリュカが片手で顎をさする。
 ナッツやドライフルーツのかけらがあちこちに点在しているのを確認し、干した果実を酒に漬けこんだものを使ったのでは────その考えに辿り着き、卓上に並んでいた中から該当する食べ物を一つ一つ思い返して間もなく、指先をぱちりと弾いた。
「あー……確かパンと焼き菓子に入ってたような気がする。それなら酒が抜ければ元に戻るはずだ」
 焼き菓子のほうは後がけの酒の風味がきつく、甘味好きなピエールがせっせと食べていた。
 ライアンがぷよぷよと柔らかい触手の先を両手で包み、眉尻を下げる。
「酒が飲めんと言っていたが……そうまで弱いのか」
 ピエールがライアンの呟きに応える。
「彼の場合は酒の耐性というよりは、元魔物だからだと思われます」
「ふむ……どういうことだ?」
 魔族だと言う彼の幼い顔に視線を止め、話に耳を傾けた。
「魔界には元魔物の人間が暮らす街があります。そこの住人は、酒が入ると元の姿に戻ってしまうと言っていました」
「元魔物の人間が、暮らす街……? 世界中旅をしたが、そんな場所は聞いたことがないぞ」
 ピエールの言葉を呆然と繰り返す声には、大きな戸惑いが含まれていた。
「そうでしょうね。リュカ様の母君が作った新しい街ですから、この時代には存在しません」
 騎士の説明にライアンは困惑しきった表情を浮かべてリュカを見る。それでも心配そうにホイミンの触手を離さない姿をリュカは微笑ましく思いながら、ピエールを諌めた。
「ピエール、もうその辺で。ライアンさんが困ってるよ」
「……理解が足らずすまない。一体君たちはどこから来たんだ」
 リュカは地面に残されたホイミンの衣服と装飾品、そして竪琴を丁寧に袋にしまい、先程脱いだ王者のマントで彼を包んで静かに立ち上がる。
「その説明は後にしませんか。今はホイミンを休ませてあげましょう」
 リュカに続いて立ち上がったライアンが頷く。
「あ、ああ……そうだな。ふーむ、それなら私の家に連れて行こう。マーニャ殿に送って貰うから少し待っていてくれ」
「分かりました。じゃあ後程」

 そうして、突如帰ると言い出したライアンに呆れながらもマーニャがルーラを唱え、一行はバトランドへと到着した。
 ライアンは荷物の多いリュカからホイミンを預かると、マーニャへ向け丁寧なお礼を言い始めた。そんな彼の言葉をマーニャは片手で遮り、鬱陶しそうにしっしと手を振る。
 その猫のような目がちらりとライアンの胸の辺りに止まる。
 急にいなくなった詩人と入れ替わるように、それは大切そうに両腕で抱えている荷物────繋がっているような気がしたのだ。
「早く行きなさいよ。じゃあね」
 日頃はゆったりと構えていることの多い男である。ああまで人を急かすからには、恐らく何かの事情があるのだろうと察したマーニャは、別れの挨拶をも省略した。
 彼女の無言の気遣いを感じたのか、ライアンは穏やかに微笑んで見送る。
「ありがとう、また来てくれ」
「……そっちが来てくれてもいいんだけどね! いつでも!」
 整った柳型の眉毛を持ち上げたマーニャが不服そうにライアンの肩口を思い切り引っ叩き、そのままルーラで帰っていった。
 新しい土地に辿り着きしげしげと城を眺めるリュカへ、ライアンが説明を始めた。
「あそこに見える城が、我が王の治めるバトランドだ。この辺り一帯も全てバトランド統治下にある」
 自宅への道案内をしながらそう言うと、リュカが人懐こい笑みで言葉を紡ぐ。
「へえー、大きなお城ですね。グランバニアはちょっと小ぢんまりしてるからなあ……」
 戻ったらまた増築しようかなどと考えた矢先、リュカの発言にピエールが口を挟む。
「城の規模が何だと言うんです。大切なのは治政、リュカ様以上に素晴らしい主君は早々いません」
 主君と聞いてライアンの顔に驚きが溢れた。
「……今なんと?」
「あーちょっとっ、ピエール! こら!」
 ピエールの暴露を慌てて止めたが、それに抗議するかのように唇を尖らせている。
「マスター。ホイミン殿が信頼を寄せている方ですし、お教えしても大丈夫だと思いますが」
 少しばかり期待をこめた深海色の瞳が真っ直ぐに注がれ、リュカは困ったような顔でがりがりと後頭部を掻きむしる。
「うっ、ここでマスターって呼んでくるの卑怯だなー……まぁいいや、もう」
 リュカとピエールの会話に気まずさを感じ、ライアンは戸惑いながら問いかける。
「私が聞いてもいい話なのか……?」
「それは大丈夫なんですけど、できればホイミンが目を覚ましてから話したいんですよね」
「そうか、では後で聞かせて貰おう。もう少しで着くから」
 厳つい顔立ちの戦士は穏やかにそう言って、ゆるりと安堵の表情に戻った。

 一行はくるぶしが埋まる草丈の草原を抜けてバトランド城北部、山間にほど近い森の中へ入っていく。馬車が通れる幅の道は落石や木の枝、視界を遮る下草などが丁寧に取り除かれ、とても歩き良く整えられている。両脇の木立が枝葉を広げアーチ状に空を抱き、道の所々にレースのような陽射しを落とす。そんな気持ちのいい道を小一時間進むと視界が開け、石造りの小さな一軒家に辿り着いた。
「さあどうぞ、適当に座っていてくれ」
 ライアンがリュカたちを中へ招き入れ、すぐに部屋中の窓を開けて換気を済ませてからホイミンの様子を見に戻る。
「ホイミンはまだ目覚めんか……無事だといいが」
 心配そうにそう呟くと、玄関脇に置かれていた大きな腰掛けを両手で抱え出した。
 それを見たリュカは人目につかぬようホイミンを包んでいたマントをざっくりと丸め、腰掛けの上に敷いてからホイミンを横たえる。
 荷物置きや靴の着脱の際に腰掛けているのだろう、随分と年季の入ったそれは簡素な作りながらもホイミン一人が寝そべるのに丁度いい大きさだった。
「ああ、後で何か布を持ってくるから、それまで貸しておいて欲しい。面倒をかけてすまない」
 リュカへ向け申し訳なさそうに頭を下げたライアンは、力なく垂れ下がるホイミンの触手を持ち上げて、励ますように指先で数回ぷにぷにと押してからゆっくりと手を離す。
 その仕草に、内心気が気ではないのだろうと思ったリュカが頷いてから口を開く。
「結構食べてしまってましたからね。お酒自体ほとんど飲んだことがないんじゃないかな、味を知ってたらあんなに食べないと思う」
「無理に勧め過ぎたかも知れん。可哀想なことをしてしまった」
「そのうち気が付きますって。あなたに会えて余程嬉しかったんでしょう」
 リュカの言葉にふっと笑みを漏らしたライアンが呟く。
「……相変わらず無茶をする子だ」
 その柔らかな声音に、リュカたちの表情も緩む。
 じっとホイミンを見ていたピエールが、はたと何かに気付いた様子でリュカに話しかけた。
「リュカ様……あの、ホイミン殿はあのまま元に戻ったら、落ちてしまうのではないですか」
「あっ……」