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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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 腰掛けから落下の危険と合わせて、元の姿に戻れば素っ裸である。ピエールの進言でそこに気づいたライアンがすぐに立ち上がった。
「む、そう言われてみればその通りだな。客用の部屋があるからそちらへ寝かせておこう。着替えは……私のでは大きいが、仕方がないな」
 ライアンが立ち上がったのと同時に、リュカは慌てて袋の中からホイミンの服や竪琴を取り出す。ライアンはそれらを片手に持ち、にこりと口角を上げた。
「この服は洗ったほうがいいな……竪琴は一緒に置いておこう。ありがとう」
 ライアンの後をプックルがのそのそとついていく。
 ライアンが扉を開けたところで、プックルは前足でちょいちょいとライアンの足をつつく。
「なんだ、入りたいのか」
 ふにゃおと鳴いたプックルに、思わずライアンの目尻が下がる。
「ではすまないが、ホイミンの側についていてくれると助かる」
 プックルは言われた通り、しなやかな動きで寝台の脇に座った。それを横目で確認しながら、客用の寝台にホイミンをそうっと横たえて部屋を出た。

 茶の一つも出さずにすまないと謝ったライアンが茶を淹れて一行をもてなす。
 家の周辺にも繁っていたどくだみのお茶を前に、リュカが口を開く。
「ホイミンは最初から人の言葉を使ってたんですか」
「うん? そうだな。私の前にも何人かの兵士に声をかけたらしいが、断られたとも言っていた」
「ライアンさんはなぜ一緒に旅を? ぼくの時代でも、断った兵士たち側の人間が殆どですよ」
「理由、か……あまり深く考えたことはなかったなぁ。悪いやつではなさそうだったし、意思の疎通を図れたので特に問題はなかった。見た目も……見慣れればなかなか可愛いもんだ。わははは!」
 豪快な笑いが次第に弱まり、ライアンは口元を真一文字に引き結ぶ。
 それから束の間の沈黙を経てゆっくりと言葉が紡ぎ出された。
「……魔物か人かなど、そんな線引きが何になると言うのだろう。ホイミンよりも醜悪な人間はごまんといた。命に優劣があるのなら、私はあのような者たちこそ滅びればいいとさえ思ったよ」
 絞り出すような声でそう語ったライアンの瞳の奥に、仄暗い光が見える。これは業を見た者の眼だ、とリュカは心で思う。人が必ずしも善の存在ではないことを、リュカも肌身に感じた一人である。
 ライアンは茶を飲み干し、緩く息を吐いてから言葉を続けた。
「こんな考えですらホイミンは怒るのだろう。あの子はいつだって私の背を正すから」
「背を?」
「そう。正しく在れと言われている気がしていたんだよ、いつも……離れてからも、思い出すのは真っ直ぐな瞳ばかりだった……」
 優しさの滲み出る一言一言に、リュカは無垢という言葉があれほど当てはまる存在も珍しい────と思いながら茶を口に含む。
 それから暫しの雑談を経て、奥の部屋から漏れ聞こえた話し声にいち早く気づいたピエールが振り返り、すぐに廊下を駆けていく。プックルと共にホイミンが部屋から出てきたところに話しかけた。
「お目覚めですか」
 エンドールの酒場にいたときと同じ恰好のピエールを見て、ホイミンが恥ずかしそうな顔で頷く。
 ホイミンはぶかぶかのチュニックを腰帯で絞め、袖口やズボンの裾を折り曲げた状態で出てきた。
 他人の服が落ち着かないのか頬を真っ赤に染めて俯くホイミンへ、ライアンは声をかけた。
「ホイミン、体は大丈夫か」
「は、はい。ご心配をお掛けしました」
 人の姿を取り戻したことで安堵した様子のライアンが座るよう勧め、ホイミンの分の茶を注ぎ入れる。
「私の家だから安心して過ごしなさい。部屋も空いているから好きに使うといい」
 その間リュカはぐるりと室内を見回して、ほうと溜め息をついている。
「この家、一人で暮らすには結構広いですよね」
 質素ながらも夫婦と幼い子供一人二人くらいを想定した間取り。それはリュカの中で知る限り、懐かしいサンタローズの住居を思い起こさせた。
 対してライアンは少し困ったような曖昧な笑みを浮かべ、カイゼル髭をわしわしと乱暴に撫でて話し出す。
「ああ、戦いが終わった後で王から直々に賜った。そろそろ家庭を持って落ち着けと言うことらしいが、今のところは仲間たちが遊びに来るだけだなぁ」
 都市部以外では木造家屋が一般的だったのと比べると、一介の兵士が持つには上等と言える。勇者と共に平和をもたらした彼の功績がはっきりと認められた形だ。
「仲間と言うと……さっきのあの人たちも、勇者ソロと共に戦ったんですか?」
 リュカの口から出た勇者の名に、ライアンは雷に打たれたように目を大きく開いた。
「ライアンさん、あの……リュカさんは」
 焦った様子で話しかけたホイミンをリュカは視線で止め、小さく頷いて見せる。
「待って、ぼくから話すよ。さっきの話の続きですけど、改めてお話します」
 そうしてリュカが自己紹介と共にここへ来るまでの経緯をかいつまんで説明すると、険しい顔で聞いていたライアンの肩からようやくはっきりと力が抜けた。
「帰れないとは困ったものだな……そういう事情なら君も空いている部屋を使うといい。宿屋に何泊もしていては資金が尽きてしまうぞ」
「え、いいんですか」
 ぽかんと口を開けたリュカへ、ライアンは人のいい笑みを浮かべて首を縦に振った。
「構わん。ここは少し不便だが、城へも近い。そう悪い条件でもないだろう」
「助かります。今まで立ち寄った場所にはルーラで行けますし」
 すね目掛けて頭をごつりと押し当ててきたプックルを撫でながら、ライアンは優しげな笑みを漏らす。
「それなら尚更問題ないな。その内マーニャ殿が様子を見に来るだろうから、ルーラで行ける場所を教えて貰えばいい」
「あの……思ったんですけど、マーニャさんと仲が良さそうでしたね」
「う、んん……」
 ライアンは歯切れの悪い返事をして、気まずそうに頭を掻いた。
「一緒にいても楽らしいが…………」
 そう言って視線を明後日の方角へ逸らして口髭をさすり、黙ってしまった。代わりにリュカが思いついたことを言葉に出す。
「がっついた男ばかり寄ってきて嫌だったんでしょうね。うちの奥さんも似たようなこと言ってたし」
 ライアンの足にまとわりついていたプックルが今度はリュカの足にまとわりつき、首の周りを掻いて貰いゴロゴロと喉を鳴らす。
「私にはそれの何が気に入らないのか、さっぱり理解できないが……女心とは難しいものだ」
「寄ってくるのはいい人ばかりじゃないですからね。煩わしいんだと思いますよ」
 二人の会話をそれまで静かに聞いていたホイミンが、ゆっくりと席を立つ。
「……」
 戸口へ向かうホイミンを見るなり、ライアンがすぐに声をかけた。
「ホイミン、どこへ行く」
「……ちょっとだけお散歩してきます。こっちに来るのも久し振りだし」
「そうか。もうすぐ夕刻だぞ、暗くなる前に戻ってきなさい」
 ホイミンは小さく笑って頷くと、扉を開けて出て行ってしまった。
 続いてピエールも椅子からぴょこんと飛び降りる。
「……リュカ様、私も少し見て回ってきます。ディディ、おいで」
 小さな足音が遠ざかり、室内にはライアンとリュカ、プックルが残された。