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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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第六章 潜む闇


 ドラゴンオーブで絵画から過去へとやってきたルヴァたち一行は、地図上ではブランカ城の南西、ブランカとエンドールを繋ぐ洞窟との中間地点に降り立っていた。
 周囲に広がる足首丈の草原を乾いた風が撫でていき、先程までいた土地との違いを知らしめる。
 真っ先にルヴァがきょろきょろと辺りを見回し、口を開いた。
「どうやら移動そのものはできているようですが……バトラー、この辺りに見覚えはありませんか?」
 確認の意味を含めてルヴァに話しかけられたバトラーが、眉尻を下げて答える。
「いや……オレは闇の世界にいたからな。人間の住む土地なぞ知らんのだ」
「そうですかー、困りましたねえ。あなたと会話ができてますし、これでは過去へ渡れたのか分かりにくいですねぇ」
 実際のところバトラーは元々人の言葉を話せる種族であったが、口数の少ないバトラーがそれを語ることはなかった。
 ルヴァの声に、ティミーが視線を遠くに飛ばしながら答える。
「ルヴァ様。向こうにお城っぽいのが見えるし、ひとまずそっちに向かってみませんか」
 晴天の下では天空の鎧が陽光を弾き、白銀に照り返す。
 初めて会った頃はまだ幼かった彼の堂々たる立ち姿を眩しく見つめて、ルヴァは口角を上げて見せた。
「そうですね、外をうろつくよりは安全でしょう」
 そうして彼らは城を目指し、進路を北東に向かい歩き始めた。

 やがて魔物に遭遇することもなくブランカ城下町に辿り着き、バトラーとスラリンは念のため城から離れた場所で待機という形を取った。
 王城と市街地はぐるりと高い城壁に囲まれ、規模の大きなグランバニア城のようでもある。
 だがポピーはそんな景色には目もくれず、鞄から道具を一つ取り出す。
 黄銅色の丸い金属台座にはめ込まれた円盤には細かな目盛りが刻まれており、その中央には銀色の矢印がチラチラと揺れ動く。台座と同じ金属の針金が縦横十字のドーム状につけられているが、よく見るとミル打ちを施された極細の平板になっており大変美しい。
 手のひらに乗ったそのアイテムに即座に反応を示したのは、勿論知識と知恵を司る守護聖ルヴァである。
「おや、それは……方位磁石ですか?」
「はい。チゾットの名産品のコンパスなんですけど、町の名前や位置情報が分かるんです。こっちの世界で使えたらいいなって思って」
 ポピーは話しながら近くの塀の上にコンパスを置く。位置を合わせて矢印の揺れが止まると、円盤の上にぼんやりと文字が浮かび上がった。
「あっ良かった、出てきました……ええと、ここは『ブランカ城下町一階』だそうです」
 無事に使えて安堵したポピーが浮かび上がった地名を読み上げると、ティミーが片眉をひょいと持ち上げた。
「ブランカ? 聞いたことないね」
 他の守護聖たちも代わる代わる覗き込むものの、独特の文字の形で読むことはできずすぐに興味を失っていく。
 そこで何かを思いついた様子のルヴァがにっこりと笑った。
「ふむ……ではオロバスにも訊ねてみましょうか」
 起こされたオロバスがふわりと浮かび上がり、ルヴァの前で頁を開いた。
「おはよー」
 律儀に挨拶をするオロバスに優しい視線を向けながら、ルヴァは問いかける。
「おはようございます。あー、オロバス。ブランカという城や町について何か情報がないですかねえ」
「ブランカ……ブランカ、ええと……これかな。『城郭都市ブランカ……勇者の生まれ故郷が近いと噂され、デスピサロ討伐後は冒険者たちの聖地となった。主な冒険者たちは西のエンドール側から洞窟を通って訪れる。北にはバトランド城があるが岩山に阻まれ、直通ルートはない』」
 オロバスの説明を聞いたティミーが唇の下に人差し指を宛がい、おもむろに口を開いた。
「……勇者とデスピサロが出てきたってことは、過去の時代のどこかには来たってことだよね」
 遡ってはいるがリュカがいる時代とは限らない────その点に気付いたティミーの言葉に、ルヴァは大きく頷く。
「そう考えられますね。西から人が流入しているようですし、エンドール……でしたか、そちらに出向いたほうが情報は得られそ……」
 ルヴァが言葉を止めて視線を動かした。
 いつの間にかオスカーとオリヴィエが離れていたらしく、筒状に丸めた紙のようなもので肩を叩きながら戻ってきていた。
 ルヴァやティミーの不思議そうな顔を見て、オスカーは片頬を持ち上げて筒を手渡してきた。
「そこの店で地図を売ってたぞ、ほら」
 受け取ったルヴァが地図を広げて現在地を確認し始める中、ティミーが首を傾げた。
「売ってたって……オスカー様ゴールド持ってましたっけ」
「いいや、持ってない……から、こいつを連れて行ったのさ」
 オスカーの指が隣のオリヴィエを指し示し、憮然とした顔のオリヴィエに視線が集まる。
「私のネックレスが犠牲になったんだよ! 信じらんない、お気に入りだったのに!」
「聖地に戻ったらもっといいのを渡す条件でな」
 店子が女性で良かったとオスカーは満足気に口の端を上げた。地図との交換を希望して熱い視線を送ってみたら、思惑通りすんなりと交換して貰えたからだ。
 他にもじゃらじゃらとアクセサリーを身に着けているオリヴィエへ、ルヴァがのほほんと声をかけた。
「あー、それならまだまだ手持ちがありますから、安心できますねえ。流石オリヴィエ」
 オリヴィエの鋭い視線がぎろりと突き刺さる。
「冗談じゃないよルヴァ! 絶ッ対売らないから!!」
「はあ、そうですか? それよりも現在地なんですがね」
 さらりと話を戻して地図を指差すルヴァに、幾人かが笑いを堪えながらも彼の指差す個所を覗き込んだ。
「私たちは今ここです。そしてエンドールがこちら────」
 地図には勇者ソロ一行が訪れたリバーサイドは記載されていたのだが、魔神像とデスパレスについては記載がなかった。
 このときもし記載があったなら、後に非業の死を遂げ歴史に名を遺した人物はいなかったのかも知れぬことを、ルヴァは旅の終わりに回想することになる────

 話し合いを経て、一行はエンドールへの洞窟へ向けて歩き始めた。
 守護聖たちは特段旅慣れているわけではなかったが、万が一に備えリュカを早めに連れ戻そうという意識が先走り、苦情を口にする者は誰もいなかった。
 黙々と歩き続けて一時間が過ぎた頃、守護聖たちの疲労を感じ取ったティミーが話を切り出した。
「そろそろ休憩しましょう。そこの岩の間が涼しそうなんで」
 そう言って大きな岩が二つ斜めに支え合う形になっている場所へと駆け寄り、魔物の姿がないかを確認したティミーが手で大きく丸を作った。
 わらや小枝が敷き詰められた場所を陣取ったルヴァが、服の胸元をぱたぱたと扇いで風を送りながら話し出す。
「確かに少し暑くなってきましたねえ。立ち止まるとそれが良く分かります」
 ルヴァの向かいに立ったリュミエールは、足元に愛用の竪琴を置くと僅かに表情を緩めた。
「そうですね。元の時代よりも少々気温は低いようですが、歩くとそれなりに……クラヴィス様はお加減いかがですか」
「ああ……心配は無用だ」