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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 全体的に黒いクラヴィスなので陽射しの熱を一身に集めているのでは────と密かに心配されていたものの、それは杞憂に終わった。
 岩の間を吹き抜ける風が心地よく、一行は好きな姿勢で寛ぎ出した。手頃な石に腰掛ける者、岩を背にもたれて座る者と様々だ。
 ポピーが大きな鞄の中から布の包みと瓶を幾つか、そして木製のカップを取り出して全員に配り出す。
「ちょっと早いですけど、軽食と飲み物がありますんで……カップとパンだけ先に」
 空のカップの上に平べったいパンを載せて手渡していく。
 受け取ったオリヴィエの口角がきゅっと上がる。
「ありがと、気が利くねー」
 オスカーはポピーの鞄にちらと視線を走らせ、守護聖たちの分まで持参していたことに目を瞠る。
「いただこう。俺たちの分も持ってきたのか……気付かなくて悪かった。次は俺が運ぼう」
 アイスブルーの瞳にじっと見つめられたポピーは、慌てて両手をかざして首を横に振った。
「あっ、いえ、お気持ちだけで。そんなに重いものはありませんし……」
 オスカーの視線に耐え切れず恥ずかし気に俯く妹を横目に、むっすりと渋面を作ったティミーがオスカーを睨む。
「……ぼくが持ちますんでお構いなく」
 刺々しいティミーの言葉に、皮肉気な笑みを片頬に浮かべたオスカーがやれやれと肩を竦めた。
 些か辺りの空気が冷える中、ポピーは小瓶の蓋を開けスプーンを挿している。
「左からソレルのジャム、コールドベリーのジャム、鹿肉のペースト、兎肉のペーストです。お好きなのをパンにつけて召し上がって下さいね」
 ポピーの説明の間にティミーが背の高い瓶の栓を抜き、カップに飲み物を注いで回った。
 マルセルが薄く焼かれた平パンをそのまま一口ちぎって放り込む。
「ふふ……懐かしいなあ、フラットブレッド。よくお姉ちゃんが焼いてくれたんだけどね、発酵させなくていいから早く作れるんだ」
 すみれ色の瞳は追懐に充ち、何もつけずにもう一口噛み締める。
「これは燕麦なのかな……うちでは緑肥に使ってたからちょっとだけ収穫して使ってたけど、それに似てる」
 ティミーとポピーがへえーと感嘆の声を上げたが、りょくひってなあにと囁き合っているのが聞こえ、マルセルが説明を始めた。
「土に混ぜ込む植物肥料のことだよ。同じ土で作物を作ってると栄養がなくなってくるから、病害を受けやすいんだ」
 マルセルがコールドベリーのジャムを載せて食べている間、双子は顔を見合わせている。
「凄い。ルヴァ様以外にも物知りがいたね!」
「緑の守護聖様だからなのかなぁ、植物の情報に詳しいよね」
 ティミーとポピーの称賛にマルセルは柔らかくはにかみ、頭を振った。
「ぼくなんか知識と知恵のルヴァ様には足元にも及ばないよ、親が農園やってただけだもの。ってわけで後はルヴァ様にパスします!」
「うぇっ、わ、私ですか!? あー、燕麦というと、カラス麦やオーツ麦とも言われてますねー。冷涼で痩せた土地でも育てやすい植物だそうですが」
 ルヴァがいきなりの丸投げにもめげず補足の説明をしている隙に、全員が一斉に平パンを食べ進める。
 オスカーが鹿肉のペーストに加えコールドベリーのジャムを少量乗せながら、おもむろに口を開いた。
「馬の飼料で聞いたことはあるが、人も食べられるんだな」
 そう言ったオスカーは丸めた平パンにかぶりつくがたった二口で食べ終わり、ポピーに礼を言うと背後の岩にもたれて更に寛ぎ出す。
 マルセルは口の端についたジャムを中指で拭い、オスカーの話題を広げる。
「うちでは小麦と合わせてパンを焼いたり、潰してオートミールにしてましたけど、動物さんたちにもあげてましたよ」
 日頃から美容に気を遣っているオリヴィエがうんうんと相槌を打つ。
「私はグラノーラもオートミールも好きだよ。ん、美味しい! マルセルちゃーん、そっちのジャム取ってくれる?」
 楽しそうにソレルのジャムを乗せ、こちらも間もなく完食した。
 賑やかな声を聞きながら黙々と食べていたクラヴィスとリュミエールもすぐに完食し、ポピーが片付けようとし始めたときに事件は起こった。

 この岩間は通り抜けができ、一同は岩の中間辺りに集まっていた。
 反対側の出口から、グワ、グワ、とアヒルのような鳴き声が複数近づいてきて、僅かな寛ぎの時間は断たれる。
 ティミーとポピーに加え、守護聖ではオスカーとルヴァがさっと警戒の表情に切り替わった。
 じっと様子を窺うと、白い体毛に覆われ長い尻尾を持つ見慣れない生き物が四匹ほど、背の高い草の陰からひょこひょこと顔を覗かせてこちらを見ている。
 一匹は隠れ切れずに全身が見えており、アヒルのような鳴き声に見合った緩やかなカーブを描くくちばしにつぶらな丸い瞳、尾の先と額から背にかけて流れる青いたてがみ────動物好きのマルセルがたちまち目を輝かせる。
「わ……可愛い!」
 良く見ようと身を乗り出したマルセルを、リュミエールが押し止める。
「マルセル、いけません。危険ですから下がりましょう」
 愛剣にそろりと手を添え、攻撃の準備を整えたオスカーも頷く。
「獰猛なやつかも知れん、まだ近づくなよ」
 四匹はトコトコと一同の前に出て来て、今度は一斉にキー、キャーといった猿のような鳴き声を上げ始めた。
 彼らの様子にポピーが目を丸くして、話を聞き出そうと近づくと鳴き声は更に騒がしくなった。
 マルセルがリュミエールとクラヴィスの隙間からポピーに話しかける。
「ねえポピー、その子たちなんか怒ってない?」
「はい……なんか言ってるんですけど、ちょっと聞き取れなくて……」
 その間に様子を窺っていたルヴァがそろりと立ち上がり、一歩後ずさる。
 その拍子に足元の小枝をぱきりと踏み、音を聞き付けより一層グワグワと騒がしくなった四匹が、ルヴァを一気に取り囲む。
「えっ、わっ!?」
 理力の杖を構える前に彼らに次々と体当たりを食らい、仰向けに転倒した。
「ちょっ、ちょっと! わ、私は敵じゃありませんよ、やめてくださいぃぃ!」
 派手に転倒したルヴァの手足をそれぞれ好き勝手に持ち上げ、ズルズルと引き摺っていく。
「ああぁぁぁああ何をするんですかぁぁぁぁああ!!!! いっ痛い痛い!!!」
 示し合わせたように出口へ一直線に向かう彼らに引き摺られ、叫びながらも自らの鞄は死守している。
 岩間から少し離れたところで解放されヨロリと身を起こした瞬間、背中を強く蹴られて顔から突っ伏しそうになり、なんとか四つん這いになったところでダメ押しのように尻を蹴られた。
 ルヴァを放り出して背と尻を容赦なく蹴とばした四匹は、グワッグワッと小さく鳴きながら見向きもせずに戻っていく。
「なっ、何だったんですか、今のは……?」
 何か起きたのかと呆然としていたところで、バタバタと駆け寄ってきた恰幅のいい男と少年がルヴァの視界に入ってくる。
 男は白地に青の縦縞模様のゆったりした服に身を包み、縞模様と同じ青色の髪をしていた。少年は栗毛色の長い髪を後ろで一つ束ねにしており、出会ったばかりの頃のティミーと同じくらいに見える。
「ああ、間に合わなかったか! 旅の人、大丈夫でしたか」
 男にそう声をかけられ、ルヴァは戸惑いながら頷いて見せる。