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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「ここはももんじゃの巣なんです。私も何度か蹴られましたが、人間は近づかないほうがいい」
 男はルヴァの背についた土汚れを丁寧に払いながらそう口にした。
「お気遣いありがとうございます。ももんじゃというのは、あの四匹ですか」
「ええ。この辺りではよく見かける魔物ですが────」
 言い淀み、青い口髭を片手でさすった男の背後で少年が叫ぶ。
「お父さん、見て!」
 少年の指差す先を目で辿ると、ポピーがももんじゃの群れの前に屈み込み話を聞いていた。
「ごめんね、もうおうちを壊したりしないから。気を付けるね」
 巣を乱され憤慨していたももんじゃたちに謝るポピーの姿、そしておとなしく去っていくももんじゃたちにも驚き、少年が思わず言葉を漏らす。
「あの人、魔物と話してる……」
 ポピーの横にはティミーが立ち、二人の背後にはスラリンとバトラーが静かに控えている。
 少年の視線はちらちらと動き回り、最終的にティミーのところで止まった。
「……やっぱりソロさんじゃないよ。きっと勇者を騙った偽物だ」
 少年の呟きにルヴァは僅かに目を見開く。さん付けで名を呼ぶほどの知り合いと見て、新たな情報を得られるかとにじり寄る。
「勇者をご存じなんですか? この近くに生まれ故郷があると聞きましたが────」
 少年ははっとした顔で父親の顔を見上げ、二人は明らかに警戒した様子でじりじりとルヴァから離れていく。
 ルヴァはそれを引き留めるでもなく、振り返って双子を手招いた。
「二人ともこちらへいらっしゃい。この方たち、あなたがたのご先祖様を知ってるようですよー」
 ルヴァに呼ばれたポピーがティミーを掴んですぐに駆け寄ってくる。
「えっ、ほんとですかー!? お兄ちゃん、早く!」
「んー分かった分かった、引っ張るなって」
 天空の装備に身を包んだティミーを前に、親子はその姿を上から下まで凝視して、息子がぽつりと呟く。
「偽物の癖に、かっこいいな……」
「……誰が偽物だって? えっ、ぼく?」
 自分の顔を指差して、ティミーは上ずった声を出した。
「そうだよ、この辺りでは勇者の偽物が沢山出てる。あんたもその一人なんだろ、白々しいな!」
 吐き捨てるような声音にも怯まず、ティミーは静かに問いかける。
「その勇者ってさ、エスタークとデスピサロ倒した人だよね? 仲間と一緒に」
 仲間と言った辺りで息子がぷっと吹き出して、顔には呆れが浮かぶ。
「……成りすますんならちゃんと下調べくらいしなよ。ね、お父さん」
 きらきらした瞳で見上げられ、弱り果てた父親が眉根を下げて窘める。
「ポポロ、やめなさい。うちの息子が大変失礼しました……皆さんご無事のようですから、私たちはこれで」
 そそくさと立ち去ろうとする親子の前にバトラーがぬうっと立ち塞がり、親子を見下ろす。
「偽物呼ばわりするとは無礼千万……ティミー様はまことの勇者。オレを倒した勇者の末裔だぞ」
 父親はバトラーを見て緊張に充ちた表情に変わったが、叫ぶでも逃げるでもなく、息子を背後に隠して毅然と立っている。
 息子が怪訝な表情でバトラーから父親へと視線を動かし、小声で問いかけた。
「……お父さん、知ってる?」
「うーん……私は馬車の中にいることが多かったからなぁ……」
 ひそひそと会話する親子に向かって、バトラーがすうと目を細める。
「おまえたち、ブランカ城からずっと後を付けてきていたな。何が目的だ」
 不穏な空気が流れかけた矢先、何かに気付いたらしいルヴァの能天気な声が場の空気を一気に壊す。
「ああー! それで、間に合わなかったとかやっぱり違うって言っていたんですねえ。気になっていたんですが至極納得です、うんうん」
 一人納得して頷いていたが、周囲はきょとんと呆けてしまっている。
 わざとなのか天然なのかも分からなかったが、ティミーが肩を震わせて笑い出す。
「ふ……ふっ、ルヴァ様……ふくく……」
 笑いが止まらなくなっている兄を無視して、ポピーが親子に問う。
「わたしたちに何か用があったんですか?」
 困ったように目配せをし合う親子へ、オスカーが軽く睨みを利かせた。
「言っておくが、俺たちは誰かに危害を加えるつもりも、騙す気もないからな。人を探しているだけだ」
 笑みもなく落ち着いた声でそう話すと、オスカーはそれきり口を閉ざした。声よりも遥かに冷ややかな視線に少年の肩が僅かに揺れたが、キッと睨み上げて言い返す。
「魔物連れてるくらいだし、本当は魔族なんじゃないの!」
 息子の失言に父親が慌てて口を押さえる。
「こらポポロ、言い過ぎだよ」
 早く父を探しに行きたいのにと焦燥感を内に秘めたティミーが、ガリガリと後頭部を掻き唇を突き出す。
「あー……じゃあ本物って分かればいいのかな。バトラー、ちょっとぼくの相手して」
 実際に戦ってみれば分かるだろう────と態度で示したティミーに、バトラーは頬を上げる。
「御意」
 二人は少し離れた場所へ移動して、ティミーが天空の剣を静かに構えた。
「そっちからでいいよ」
「そうですか……では────マホカンタ!」
 相手の呪文を弾き返す呪文マホカンタを唱えたバトラーの前に光の壁が円を描いて現れ、ティミーが思い切り吹き出している。
「いきなりそれかよ! ったくもう……それでいいけどね!」
 天空の剣を掲げるとすぐに剣の先から凍てつく波動が迸り、マホカンタを打ち消していく。
 呪文の効果を消されたバトラーはすぐに次の呪文を唱えた。
「メラゾーマ!」
 バトラーの頭上に現れた巨大な火球がティミー目掛けて落下するものの、それを予測済みだったらしいティミーは一足早くマホカンタの効果を持つ天空の盾を掲げていた。
 光の壁に弾かれた火球はそのままバトラーの体を包み、辺りには体毛の燃えた匂いが漂う。
 そしてもうもうと黒煙が上がる中から、灼熱の炎がティミーを襲った。
 正面に盾を構え、竜のようにうねり襲い掛かってくる劫火を真っ向から受け止めたものの、勢いに流されるまま後方へ押しやられた。
 ティミーは慌てて熱を持った盾から手を放して叫ぶ。
「あっっっっつ!!!!! やったな、この!」
「まだまだ余裕がおありのようですからな。オレに遠慮は要らん、全力で来い!」
 ただの人間が聞いたなら怯えて縮み上がる声で告げると、腰を深く落とした。彼の狙いに気付いたティミーが口を引き結ぶと、体からばちりと火花が弾け出す。
 それを見たバトラーがニイと歪に笑う。今まさに発動を待つ呪文こそが禁忌と言われた結果であり、人間の中では唯一無二の存在だと知らしめるものだからだ。
 爆ぜる火花は次第に数を増し、高く掲げた剣の先からも溢れ出る。
「ギガデイン!!!」
 激しい雷は迸る輝きを纏い、降り注ぐ矢の如くバトラーの体を突き抜け、轟音と共に地面に突き刺さった。
 見ていた者たちの鼓膜を震わす轟きに、束の間しんと静まり返る。
 身体中からぶすぶすと煙が上がり、火傷だらけになったバトラーが険しい表情を緩めた。
「────お見事」
「はー……無茶ブリしてくれるね。そういうのお父さんにだけやってよ、剣と盾使うだけでいいのにさー」