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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 褒められて照れ臭そうなティミーが唱えた回復呪文で、すっかり火傷痕の消えたバトラーがおもむろに口を開く。
「ティミー様はご存じないでしょうが、ギガデインを使える魔物が出てきたのはごく最近の話。この時代にはまだ、勇者専用の呪文だったはずだ」
 こいつらがギガデイン自体を知っているかは知らないが────と視線に侮蔑を込めて親子を一瞥すると、背を向けてその場を離れた。
 戦いの一部始終をじっと見ていた父親の顔には、明らかに驚きと混乱が見て取れた。
「ど、どうしてソロさんの呪文を────」
 男の声はティミーの耳にも届いたが、どこか冷めた目をしながら踵を返す。
「……もう行こう。ここで時間かけてられない」
 ポピーは何かを言いたげな親子を気にして、兄を引き留める。
「お兄ちゃん、いいの?」
「うん、いきなり偽物呼ばわりされて腹が立っただけだから。気は済んだ」
「ま、待ってください!」
 呼び止める男の声がティミーの背中に投げかけられ、うんざりとした様子で顔を向けた。
「…………今度は何ですか」
「私は商人なんですが、その天空の装備を鑑定させていただけませんか!? お時間は取らせません!」
「別にいいけど、売れって言われても手放さないよ?」
 そう言って剣と盾を手渡す際に、オスカーとバトラーが武具を奪い取った後で何かしてくるかもと遠巻きに警戒をし始めた中で、男は天空の武具をじっくりと鑑定し小さく唸っている。
「お父さん、どう?」
 息子の声かけにも曖昧な返事をして、更に丁寧に調べた結果を口にする。
「驚いた……確かに天空の剣と盾だよ、ポポロ」
「嘘だ、そしたらうちにあるのが盗まれたってことじゃないの!?」
 まだ言うのか────ティミーはそう言いたげに眉を顰め、無言のまま不愉快そうに首の後ろを掻いている。
 先程から親子の会話に何か引っ掛かりを感じていたルヴァが、父親へと声をかけた。
「お話中すみません。もう一度お尋ねしますが、勇者とお知り合いなんですよね?」
 男は剣と盾をティミーに返し、穏やかな声音でルヴァの質問に答える。
「ああ、はい。ご縁があり一緒に旅をしまして。旅の終わりに、天空の装備一式を譲り受けたんですよ」
「商人で、一緒に旅を……失礼ですが、お名前はなんと仰るんでしょう」
 幾つかのキーワードから予測し得る人物を思い浮かべ、ルヴァのまなざしには熱がこもる。
「私はトルネコ、こっちは息子のポポロです」
 武器商人トルネコ────ルヴァは瞬く間に驚喜に近い表情を顔面に漲らせ、思わず声を漏らした。
「……導かれし者」
 溜め息に乗り紡がれた言葉に、トルネコは照れ臭そうに頬を掻く。
「いやー、そんな大げさな。私なんかは成り行きで同行していただけですけどね」
 バトラーが改めてトルネコをじいっと覗き込む。
「オレを倒したやつらの顔は知っているが、おまえは見たことがないぞ」
「私は馬車にいましたから……あなたたちは一体、どういう繋がりなんです?」
 親子から警戒が解かれたことで、ティミーも素っ気ない態度を改めて答える。
「皆仲間だよ。バトラーはデスピサロ配下の四天王だったらしいけど」
 トルネコの呼吸が一瞬ぴたりと止まり、ぎぎぎと音がしそうなぎこちなさでバトラーを見る。
「てことは、結界のほこらの……!」
 トルネコは驚きを隠さず、視線はバトラーとティミーの間を幾度も往復して、ようやく喉から声を絞り出した。
「…………ええぇぇぇぇええ!?」
 顎が外れそうなほど口を開いたトルネコの驚駭の声は、辺りに大きく響き渡った。

 傾斜が緩やかとは言い難い山道を、トルネコとポポロが淡々と歩き進む。
 大きな荷物を背負いながら息切れ一つしない親子の後ろにはティミーとポピー、そして守護聖たち、最後尾にバトラーとスラリンが続いた。
 前方の親子を視界に入れながら、ティミーが妹にだけ聞こえる声量でぼそりと呟く。
「……サンチョだったらぜえぜえ言ってそう」
「そうだねー」
 ポピーがそれに相槌を打ち、会話はそのまま途切れた。
 黙々と歩くこと小一時間、トルネコが一行を振り返って呼びかける。
「そろそろ見えてきますよ、あと少しです」

 杳としてリュカの消息が知れぬ以上、これも縁とばかりに勇者の故郷を訪れてみてはと言い出したのは、誰あろうトルネコである。
 ティミーから詳細を聞き涙ぐんだ彼は両親を流行病で亡くしており、パデキアを求め時代を超えてきたリュカ、そしてそのリュカを探しに来た一行の力になれたらと話し、勇者ソロ宅までの道案内を買って出たのだった。
 周辺の木々にちらちらと視線を飛ばしながら、ルヴァが不思議そうに尋ねた。
「こんな山奥に住んでいるなんて、不便ではないんですかねー」
 ルヴァの素朴な質問にトルネコが苦笑いを浮かべて答えた。
「私も含めて、仲間の多くは不便だから引っ越せと言ってはいるんですがね。やはり生まれ育った故郷は捨てられないんでしょう」

 トルネコが言った通り、間もなくして辺りの視界が一気に開けてきた。
 木造の簡素な小屋が二つほど建っているだけではあったが、元々は集落と言ってもいいほどの平地が広がっている。
 人の気配がないことを不審に思った一行は、黙したまま立ち止まる。
 トルネコだけが平然と辺りを見回し、声を張り上げた。
「おおーい、ソロさん! シンシアさん、いますかーっ!?」
 すんと鼻を鳴らしたバトラーが近くの木を見上げた。
 樹上からかさりと微かな音がした次の瞬間、誰かが飛び降りてきてバトラーに斬りかかる。
 直前に気付き咄嗟にかわしたバトラーだったが、それでも縦に長く斬られた傷は浅くなく、思わずぐうと呻き声を上げた。
 新緑を思わせる髪を後ろで一つに束ねた青年が、これでもかと執拗にバトラーへの攻撃を繰り返す。
 トルネコがぎょっとした顔で慌てて叫んだ。
「ああっ、ソロさん! 待って────」
 恐ろしい形相を浮かべ、トルネコの声すらも耳に入らない様子で幾度も斬りつける勇者ソロを前に、一切反撃をしないバトラーの体から鮮血が飛び散る。
 見かねたティミーが回復呪文を唱え、落ち着かせようと呼びかけた。
「待ってください、ぼくたち敵じゃ────」
 言いかけた言葉は喉の奥で絡まり、行き場を失くした。首筋にひたりと宛がわれた金属質の何か────恐らくは武器と考えたティミーの心臓が早鐘を鳴らす。
「動くな」
 背後から聞こえてきた青年の声に恐る恐る頭を動かすと、目の前でバトラーを斬りつけている勇者ソロと同じ姿が視界に入り、ティミーは驚きの声を上げた。
「ねえトルネコさん! 勇者ソロって双子なの!?」
「い、いえ、そんなはずは!」
 困惑した表情のトルネコがそう言うと、息子を抱き締めて庇う。
 音もなくティミーの背後を取った勇者ソロが、ぞっとするほど低く冷たい声で問いかけてきた。
「答えろ、ここへ何しに来た」
 ミルドラースと対峙したときにも動じなかったティミーですらたじろぐほどの殺気に、ぞわりと背筋が凍り付く。
「……ぼくの、ご先祖様に会いに来ました」
 今にも首を掻き切られそうな兄の姿に、ポピーが叫ぶ。
「わたしたちは危害を与えません、どうか剣を引いてください!」