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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「この国にとってもあなたがたが救世主だったんですねえ……なぜ全滅したんです?」
「確か干ばつでやられたって言ってたかな」
 素直に称賛の意味を込めたルヴァのまなざしにむず痒さを覚え、ソロはふいと目を逸らす。
「先程マルセルがね、保水性のある土と見立てていました。乾燥には比較的弱い植物のようですねえ」
 ちらとマルセルを探すと、今度は王と共に鍬を持ち、空いた畑を耕している姿が視界に入ってきた。
「それにしても、この国の王様は本当によく働きますね。リュカも細々とよく動く王様ですけどね、ポピー」
 嬉しそうにはにかみ、こくりと頷くポピー。
 生存を確認したことで、ルヴァもまた安心してリュカの名を口に出来た。
 祈るだけでは変えられないこともある────と彼女が慕う魔法使いマーリンがかつて言っていた通り、変えるために必死で足掻く者こそがより良い運を引き寄せるのかも知れない、とルヴァは考えた。
 しばらくしてルヴァたちのところへ戻ってきたマルセルは、ハンカチで額の汗を拭いながら話し出す。
「ルヴァ様、ここの近くの森に行ってみたいんです」
 緑の守護聖の言葉に、ルヴァは問い返す。
「はあ、どうしてそんな場所へ……?」
「土は元の世界でも再現できると思うんですけど、パデキアがここにだけ育つ理由が見つかりそうなので……」
 言い終えて、すみれ色の瞳がじっとルヴァを捉えた。マルセルの確信めいた声音に、ルヴァはゆるゆると頬を上げた。
「何か、手掛かりを掴めたんですね?」
 落ち着いた調子で尋ねると、マルセルが大きく頷いた。
「……はい!」
「それなら、私に否定する権利などありませんね。早速行きましょう」
 ソロとポピーも快く頷き、四人は村の外れへと足を延ばした。

 太陽は天頂を通り過ぎ、午後の陽射しが森の木々に影を落としている。
 広葉樹の広がる森に入るなりマルセルはすぐに片足で周囲の落ち葉を踏みしだき、ふわふわと柔らかい場所の落ち葉をよけては戻しを繰り返す。
 それを見ていたルヴァが、ああ、と声を上げた。
「マルセル、もしや土着菌を探しているんですか」
「あ、はい。持って帰れたら、ここの土壌を再現できるかなって……」
 ソロとポピーは理解が追い付かず、二人の謎の会話に割って入った。
「なあ、ドチャクキンってなに」
 マルセルは動きを止めずにソロの質問へと答えを返した。
「えっとね、菌の塊って言ったら分かるかな。砂糖や塩と一緒に海のミネラルを加えてパワーアップさせたり、家畜の発酵飼料に使って臭いをなくしたりできるんだ」
「……?」
 訳が分からないと言いたげなソロの表情に気付かず、マルセルの言葉は続く。
「色々な菌が集まって白い板状の塊になってるんだけどね、その土地によって棲んでる菌の種類が違うんだ。だからそれを持ち帰って増やせたら、ここと同じ環境に近づけると思う」
「へー成程な。で、その白いのを探せばいいんだな?」
「葉っぱの下に固まってるから、見つけたらすぐに分かるよ」
 マルセルの言葉を裏付けるように、豊かな広葉樹の森にはそこかしこに土着菌が隠れていた。
 少し探ると菌糸で繋がった塊がどんどん見つかったため、一行は一時間と経たぬうちにある程度まとまった量の土着菌を採集できた。
 そろそろ切り上げようかと腰を上げたマルセルの指先に、植物の葉が当たった。
「……あれっ、この葉っぱ、どこかで……」
 どこかで見た記憶を辿って、辿り着いた答えに大きな目をまん丸にさせた。
「ねえポピー、見て! これっ、この木、世界樹だよね!?」
 そう叫んで若木を指差したマルセルに全員が駆け寄ってくる。
「天空城で見た苗木とおんなじだよ、ぼくのサクリアを勝手に吸収したから覚えてる!」
 見回せば二、三十センチほどの丈の小さな木があちらこちらに生えていた。
 マルセルの発言がにわかには信じ難く、ルヴァはほんの少し眉根を寄せた。
「マルセルのサクリアを……? いやいや、まさか。それは何かの見間違いでは────」
 ルヴァの否定をかき消すように、マルセルが慌てて捲し立てた。
「ほ、本当なんですルヴァ様。葉っぱを触ったらサクリアが出て、ゼフェルとランディもその場にいて、ぼくと世界樹を引き離してくれたんです!」
 二人の話をよそに、ポピーは世界樹の若木と思しき植物に触れ、じっと観察を始めた。
「確かに……見た目は同じですね。でもどうしてこんなにいっぱい生えてるんだろ……」
 ひょろひょろと徒長した若木ばかりが生えている事実に、ポピーは小首を傾げた。
 マルセルが足元の落ち葉を片手で救い上げ、葉の形を眺めながら呟く。
「良く見たら落ち葉にも世界樹の葉っぱが混じってる……」
 ルヴァはマルセルから一枚の落ち葉を手渡され、指先で擦ってかさかさと音を奏でた。
「回復と蘇生の力を持つ世界樹の落ち葉に、土着菌……パデキアの効能にも、一役買っているんでしょうかね?」
 ルヴァの疑問に小さく頷いたマルセルが、手のひらの落ち葉を地面に戻してぱっぱと手の汚れを払う。
「分かりませんけど、その可能性も充分あると思います」
 話を聞いていたソロはポケットからハンカチのような布を取り出し、その中から葉を一枚取り出してマルセルに見せた。
「……世界樹の葉っぱだったら持ってるよ。枝から引っ張ってみな、本物なら千切れない」
「う、うん」
 言われるがままマルセルは世界樹の葉を引っ張ったが、ソロの言う通りびくともしなかった。ぐっと力を込めてみても、枝がしなるばかりで全く千切れない。
 マルセルに代わりルヴァとポピーが同じように引っ張るものの、やはり枝から離れはしなかった。
 ソロがまじまじとその様子を眺め、些か呆気にとられた顔で話し出す。
「本物みたいだな。こんな小さな若木は初めて見たけど、あんたらの時代には普通なのか?」
 そう問われたポピーのほうは、もっと呆気にとられた顔になって質問返しをする。
「苗木はありますけど、それ以外にあるんですか?」
 ソロとポピーがお互いの顔を見つめ、唖然としている。
「……でっかい樹だよ、見たことない?」
 こんなの、とソロが両腕を大きく広げて見せるが、ポピーは頭を振って答えた。
「ないです。世界中回りましたけど、聞いたこともない」
「えー……じゃあ、あんなでっかい樹が数百年で見る影もないってこと?」
 二つの時代の相違点に、話を聞いていたルヴァはこの時代には存在していて未来にはなく、地図で見る限り地形もほぼ全て変わっている事実を脳内で比較検討し、思いついた仮説を口にした。
「地図上では火山帯が多かったですから、激しい地殻変動によって海に沈んだり、噴火に巻き込まれ燃えてしまったのかも知れませんねえ……」
 未来には存在していないと聞き、指先で鼻を擦って考え込んだソロがぶっきらぼうに切り出す。
「それなら本物見てみるか? ここのすぐ北側にあるけど、気球に乗れば行けるから」
 その言葉に、ソロ以外の全員が目を輝かせて声を揃えた。
「気球!?」
「え、なに。それも珍しいの?」
 想定外の反応の良さにぷっと吹き出したソロがそう言うと、ポピーがこくこくと首を縦に振った。
「一旦村に戻るよ。ついでにパデキアを置いてこよう」