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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

INDEX|136ページ/213ページ|

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 オスカーが静かに戸口へ向かい、扉の前で振り返る。
「オリヴィエの件も話したい。皆外に出ろ」
 真面目くさった顔でそう言ってから、顎をさすって言葉を続けた。
「……スッピン、ジロジロ見てたらしばかれそうだしな」
 オスカーの言葉に守護聖たちは妙な説得力を感じ、神妙な面持ちで建物を出た。

 一方、アリーナたち三人は途中で離脱したマーニャが戻った後、酒場で歓談してからサントハイムに帰還した。
 玉座に座る父王を前に、アリーナは少々不機嫌な様子ながらも無事帰還の知らせを報告する。
「お父様、只今戻りました」
「お帰り、アリーナ。試合はどうだったのだ」
 当然優勝してきたと思っているのか、どこか楽し気な声音の王に対し、アリーナは更に仏頂面で答える。
「……準優勝だったわ」
 予想外の言葉に王は絶句し、ぱちくりと瞬きを繰り返す。
「なんと……」
 王はようやくそれだけ呟き、アリーナは淡々と言葉を続けた。
「優勝した人、すごく感じのいい人だったけどスライムナイトって言う魔族を従えてた。魔物の言葉が分かるって言ってたわよね、ブライ」
 アリーナはリュカを敬称付きで呼ぶピエールを見て、主従関係があると勘付いていた。
「……ふむ」
 王の表情が僅かな緊張に引き締まり、その視線は老魔法使いへと向いた。
 視線で促されたブライは険しい顔で口を開く。
「どうやら人間のようでしたが、王の夢に出てきた男と、髪型や服装などの特徴は同じでしたな……」
「そうか……して、戦ってみた印象は?」
「体力はあるけどちょっと打たれ弱い部分はあったから、回復さえさせなければ勝てると思う……ってそうじゃない」
 父王が聞きたいのはそこではないだろうと言葉を止め、一瞬間を置いてから話し出す。
「お父様が考えていたような危険な人ではなさそうよ。戦い方はちょっと頭おかしい感じはしたけど」
 褒めているのかけなしているのかも分からない愛娘の言葉に、サントハイム王の片眉が持ち上がった。
「それはどう受け取ったらいいのだ……? まあ良い、話は分かった。下がって良い」
 王の許可を得て、アリーナは自室へと引き上げた。
 サントハイム王が更なる異変に気付くのは、この日の就寝後────

 私の視界は闇に閉ざされ、幾度瞬きを繰り返そうとも一縷の光すら映り込むことはなかった。
 ここはどこなのだ。誰かおらぬのか────叫べども、闇はただ沈黙を貫くばかり。
 呆然と立ち尽くす内、やがて目の前を一人の年若い女が横切った。
 愛娘から聞いたエルフ族と特徴が重なる女はしきりに背後を振り返り、花桃色の長髪をなびかせながら駆け去っていく。
 その恐怖に満ちた視線の先を辿ると、彼女の後ろを眉目秀麗な男が一人、ずかずかと大股で追って私の前を通り過ぎて行った。
 横顔からも分かる薄紫の瞳には、冷ややかさ以外に何の感情も見えない。背の中ほどまである真っ直ぐな髪は美しい白金色で、耳から上の毛束を後ろで一つにまとめ銀の装飾具で留めている。
 男も特徴的な耳の形をしていて、先を急ぐ女と同族なのだろうか。だが見た限りでは友好的な間柄には見えない。
 男がつり目を一層細くして手を翳した瞬間、女は見えない何かに突き飛ばされたように転び、周囲を槍のようなもので囲まれて逃げ場を失った。
 槍は女を捕らえる大きな鳥籠となり、そこでようやく満足気に口の端を上げた男は何故かそのまま歩き去り、その姿は闇に消えた。
 女は出口を求めて鳥籠を両手で叩き回り、やがて諦めた様子でその場にがっくりと頽れた。
 女のすすり泣く声だけが響く中、遥か遠くが明るみ始め、そこに地平線があると分かった────夜明けだ。
 視界が開けていくにつれて、私は捕らえられた女の嘆きの意味をようやく理解できた。
 見渡す限りのありとあらゆる建造物が破壊され、不毛地帯と化した大地……その上を覆い尽くす屍の山が露わになってきたのだ。
 その見るに堪えない惨状の中、ある一点に釘付けになった私は生まれて初めて恐怖に慄き、腹の底から叫んだ。
 無数の屍の中には、愛娘と仲間たちの姿があったからだ。

 そして突然、場面が切り替わった。
 足元に目を落とすと黒々とした岩が視界に入り、息苦しいまでの暑さが我が身を襲う。
 辺りの景色は陽炎のようにぐにゃぐにゃと歪み、じっとしているだけでも苦痛を感じる。
 少し先に、先程の長髪の男と対峙する誰かが見える────背に純白の翼を持った者、ブライから聞いた天空人だろうか。赤みがかった栗色の緩い巻き毛を耳が隠れる程度の長さに整えていて、これが金髪なら天使にも見えただろう。
 天空人らしき男は長槍を片手に毅然と立っている。それに対し、長髪の男の顔には強い憎悪が窺えた。
 睨み合う二人の間に上半身は人間だが下半身が獣のような異形が背を丸めてうずくまっていたが、背の片側を隠していた真紅の外套が見るからに上質と分かるもので、異形の部分に似つかわしくないような気がした。
 彼らは何か言い争いをしていたが、会話は入ってこない。
 暑さから来る目の渇きに耐え切れず瞬きをしていた間に、再び場面が切り替わっていた。
 長髪の男の姿は既になく、天空人が片手に持った赤い宝石をじっと見つめ、それを懐にしまい込む。
 それからうずくまっていた異形の男が顔を上げ、二言三言、言葉を交わしているようだった。
 異形の男は鮮やかな緋色の髪を短めに整え、怜悧で理知的な顔立ちをしていた。四つ足の下半身には獣毛の合間に鱗が青く光り、観賞用の鳥のような長い尾が数本見える。
 我が娘の話では、とある城でもこのような姿に変えられた人間が多くいたらしい。話を聞いていた者たちが「悪趣味」と吐き捨てるほどの惨事があったと言う。
 彼の装飾品を見るに、王侯貴族か、それなりの立場の者ではないのか────うずくまる彼の姿をつぶさに観察し、私はそう考えた。
 視線を交わす二人の顔が余りにも寂寥感に満ちていて、私はふと、彼らの会話を聞いてみたい衝動に駆られた。
 その願いを叶えるように、静寂の空間に新たな音が届き始める。
「後生だ……妻を頼む。君にしか頼めないんだ、カカシュ」
 異形の男がそう言って外套を外し剣と共に差し出した瞬間、カカシュと呼ばれた天空人の顔が悲し気に歪む。
「ベル……」
 異形の男の名なのだろう、呼ばれて小さく笑っている。儚げなその薄い笑みが深い覚悟を感じさせ、見ている私まで泣きそうになった。
「アルヴィンには何も伝えないでくれ。共に逝くと言い出しそうだから……」
 その言葉に、カカシュの頬を涙が伝った。是とも否とも言えない様子で佇んでいる。
「後は任せた。友よ、君に出会えたことを幸いに思う」
 その後、天空人カカシュの手でベルと呼ばれた男が討たれる光景を、私はただ傍観し続けた。天空人の頬と同じくらいに、私の頬も滂沱の涙に濡れていた────

 目を覚ましたサントハイム王はゆっくりと体を起こし、悲しい夢の記憶に小さく呻く。
 予知夢のようだったがどこか過去にも思えるような感覚を残し、王はのろのろと朝餉の間に向かった。

 正午前────王の間にて夢の内容を聞かされたアリーナたちは、三者とも一様に怪訝な顔で考え込む。