二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

冒険の書をあなたに2

INDEX|141ページ/213ページ|

次のページ前のページ
 

 ぼそりと呟いたクラヴィスはリュミエールの前に片膝をつき、ルヴァから預かっていた水晶球を渡す。
「クラヴィス様……?」
「持っていろ。女王陛下の加護がある……」
 リュミエールが淡く金色に輝く水晶球に視線を落としている間に、クラヴィスはデーモンスピリットへと視線を合わせた。
「悪しき魂の寄せ集めか。力試しにはうってつけと言うわけだな」
 リュミエールの前に立つクラヴィスの全身から、仄かにサクリアが解放されていく。
「私の元へ来い。おまえに安らぎを与えよう……心ゆくまで堪能するがいい」
 翳した片手に噛みつこうとしたデーモンスピリットは肌に触れる前に蒸発し、なす術もなく消滅した。
 消え去る間際の悲鳴がこの場にいた者の耳を聾し、皆一様に顔をしかめた。
「……永遠の眠りを選んだか。それも悪くなかろう……」

 かつて数人がかりで手こずったこともある魔物を一瞬で消滅させたクラヴィスを前に、姉妹は呆然と立ち竦む。
 クラヴィスはそんな姉妹には一瞥もくれずに再び広場へと踵を返していく。
 闇の守護聖の退出を意にも介さず、オスカーはぽっかりと穴の空いた屋根を見て苦笑する。
「それにしても、すっかり風通しが良くなったな」
 オスカーの言葉にマーニャは小さな溜め息を吐き、それからやれやれと肩を竦めた。
「でしょー……あのヘルバトラーに修理頼んでみようかな。これは流石に怒られそう……」
 外からばたばたと足音が聞こえてくる。
 慌ただしい足音にマーニャの表情がいつもの陽気なものへと切り替わった。
「あ、帰ってきたっぽい」
 シンシアが素早く駆け込んできて、その視線がマーニャを捕らえた。
「何があったの!?」
「もーホントごめん。魔物と戦ったんだけど、私がやっちゃった……」
 穴の開いた屋根を指差し上目遣いに謝るマーニャへ、シンシアはほうと安堵の息を漏らす。
「皆が無事ならそれでいいわ。屋根なんかすぐ直るもの」
 シンシアの背後からひょこっと顔を覗かせたマルセルが視線を上向け、驚愕の声を上げる。
「わぁあっ、なにこれ!? えっ、もしかして魔物が出てきたんですか?」
 ハープを抱えたリュミエールが眉根を寄せ、俯く。
「ええ……再び出て来てしまいました。すみません、わたくしが軽率でした」
 申し訳なさそうな口振りに、オスカーがぽんぽんと肩を叩いて励ます。
「そう気にするな。誰も怪我はしていないんだから」
「しかし……」
 リュミエールが悔恨の言葉を告げかけたとき、ぎしりと床板が軋む音がして、屋内にいた者たちの視線が戸口へと集まった。
 ぬうっと現れたバトラーが背を屈めて中の様子を窺い、おもむろに口を開く。
「……魔を寄せ付けぬ存在がいないからだろう。神の加護の元に生まれた勇者は、いるだけで魔を威圧する」
 バトラーの言葉を聞き、マルセルが頷いている。
「そういえば……ジュリアス様がいたときも出なかったんですよね?」
 愛剣を鞘に戻したオスカーも表情を一層引き締めて同意する。
「そうだったな。だとするとジュリアス様はともかくソロやティミーがいない今、リュミエールが単独で演奏するのは危険と考えておくほうがいい」
 バトラーとオスカーの説明に理解を示したリュミエールが、ハープへと視線を縫い止めて呟く。
「勇者であるソロやティミーがいてくださったから、平気だったのですね……」
 気落ちしているリュミエールへなんと声をかけようかと守護聖たちが狼狽える中、マーニャがリュミエールの二の腕の辺りを手の甲でぽんと軽く叩き、前を通り過ぎた。
「経験値とお金稼ぐには便利そうだけどね、その竪琴」
 そういう話ではない────屈託のない笑顔で発されたマーニャの言葉に、守護聖たちはがくりと肩を落とした。

 一方、闇の中へと捕らわれたオリヴィエはひたすら歩き続けていた。
 上下左右にくまなく視線を散らしても微かな光すら差し込まない────完全なる闇を前に、オリヴィエはとうとう立ち止まる。
 両手を膝に当て軽く屈伸すると、そのままの姿勢で緩く息を吐いた。
(……何時間歩いた? そもそも今は何時?)
 体に疲れはない。喉の渇きもなく空腹感すら起こらない現実に、ここが正真正銘本来の世界とは違う場所であると、否応にも実感せざるを得ない。
「参ったねー、右も左も分からないんじゃ、どうしようもない……」
 独り言ちて、先程のロザリーの様子を思い出す。
 出口のない鳥籠に閉じ込められ、殺すでもなく放置されていた────他の者は皆殺しになっていたというのに。
「はーん……もしかして、私もそういう扱いなのかな?」
 干渉されないように隔離された可能性に辿り着き、オリヴィエは低い声で笑い出す。
「ふ、ふふ……あーなんかムカついてきちゃった。こんな辛気臭いトコ、何としても出て行ってやる」
 下唇を噛み締め、キッと顔を上げた。
「イゴーだか屋号だか知らないけど、顔も出さない卑怯者に好き放題させないよ!」
 幾度か誘惑の剣で目の前の空間を斬ってみたものの、何の手応えもない。
「成功の秘訣は諦めないコト、ってね。これでダメなら次の手!」
 焦らないよう自分に言い聞かせ、剣を両手に構え直して意識を集中させる。
 とくとくと脈打つ心音がやたらと大きく耳に届き、落ち着くまでゆっくりと深呼吸を繰り返すうちに、覚えのある音色が遠く聞こえてきた。
(……ハープの音……?)

 ハープの音色は遠くから近くへ、近くから遠くへと聞こえてくる方角や距離感はバラバラだった。
 もしやと思い、サクリアの気配を追う。
 音色が大きくなったときに水の守護聖のサクリアを感知して、オリヴィエはにやりと口の端を上げた。
「ナーイス、リュミエール! 案外近くにいるのかも。よっし、やる気出てきた!」
 間もなくしてクラヴィスとオスカーのサクリアも感じ取り、彼らへ向けて居場所を知らせようとサクリアを解放させる。
 オリヴィエの体から満ち溢れたサクリアが剣に伝わり、花桃色の刀身が一層美しい輝きを放つ。
「これで気付いて貰えるか、うまいことどっかに穴でも開くといいんだけどねっ!」
 高く掲げた剣先から、夢のサクリアが迸る。
 強い輝きが天を目指して一直線に闇を裂いていく様を、オリヴィエはじっと見つめた。
 遥か上空で小さな星になったと思った刹那、その星が大きな金色の光に変わる。
 初めは点のようだった光は、近づくにつれて神鳥宇宙の象徴と同じ鳥の姿でオリヴィエ目掛けて優雅に舞い降りてきた────そこに調和のサクリアを感じ取ったオリヴィエは、驚きの表情になりながらも咄嗟に跪いた。
(……オリヴィエ、わたしが分かりますか)
「女王陛下……!?」
 目の前の神鳥から聞こえてくる間違えようのない声音に、少し混乱気味に瞬きを繰り返す。
(見つけるのが遅くなってごめんなさいね。あなたがサクリアを出してくれて良かったわ)
 アンジェリークの穏やかな口調に、理屈を抜きにして肩の力が少しずつ緩む。
「どうしてお分かりになられたのか、伺ってもいいですか」
 そもそもアンジェリークはこの時代から数百年後のグランバニアにいるはずで、何故この状況を知っているのかと首を傾げた。