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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「だよな、やっぱり……」
 妹の言葉が自分の指摘と同じだったと確信した途端、こめかみから後頭部にかけチリチリと嫌な痛みが走る。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ん、ちょっと嫌な感じがするだけ」
 ポピーは道具屋が視界に入る位置で木陰を探し、ソロとルヴァに話しかける。
「ソロさん、ルヴァ様。ちょっとそこで休んでいいですか」
 大人たちが頷く前に木陰へと駆け寄り背を預けていたが、じっと道具屋の様子を窺う双子の目が余りにも真剣で、ルヴァが何かを察知した。
「あーあの、二人とも。違っていたらすみませんが、何か気になることでもありましたか?」
 話しかけられたティミーはルヴァのほうを向くことなく、質問に答えを返した。
「……あっちで話してる男の人、空飛ぶ靴を持っているんです」
 横でじっと観察を続けるポピーも口を開いた。
「父と母が石にされたときに使われてたものに良く似ていて……」
 徐々に睨み付ける目つきになってきた双子をなだめようと、ルヴァは敢えて明るく問いかける。
「その靴は何か、呪われているような代物なんですか?」
 問われてティミーがゆっくりと頭を振る。
「いいえ。履いた人は北の教会まで飛べるだけで、その先の塔に父をおびき寄せる為の……罠でした」
 悔しさと憎しみを滲ませた低い声でそう告げたティミーに、言葉を失ったルヴァの顔が驚きに満ちた。
 いま明かされた真実は、リュカがその後十年もの間石化したきっかけとなる話だったからだ。
 双子と背中合わせになる位置で幹にもたれ、両腕を組んでいたソロが顔を上げた。
「……塔なら、ここの近くにもあるぞ。湖の塔……陸路がなくて、ライアンが昔空から潜入したとは聞いてる」
 ソロの言葉に、双子はさっと顔色を変えた。
「お兄ちゃん、行こう!」
「おう!」
 居ても立ってもいられずに駆け出した二人。先に到着したティミーが道具屋で店主と楽しそうに話す男性へ話しかける。
「すみませーん、あの……」
 勢いで話しかけたものの何と言っていいのか戸惑うティミーの肩に、後を追ってきたルヴァが手を乗せてそのまま話を引き受けた。
「あー、突然すみません。私どもは旅の商人をしていましてねー。もしよろしければ、その珍しい靴を鑑定させていただけないでしょうか」
「うん? ああ、いいよ」
 男は気前良く靴を手渡してきて、双子はルヴァの手元を一斉に覗き込む。
 一見するとスリッポンのような浅いかかとの両側に、虹色に煌めく羽根がついている。
 ルヴァはいつも持ち歩いているルーペを手に取り、鑑定士よろしく角度を変えて眺め、それからもったいぶった動きで持ち主へと目を向けた。
「これは珍しいですねえ……素晴らしい作りです。失礼ですがどちらでこれを?」
「あー……」
 男がちらりとポピーを見て、少し離れてから声を潜めた。
「教会にいる女に貰ったんだ」
「……教会? シスターということですか」
「いや違う、みんな礼拝の後に声かけられてたぜ。近くに会員制の酒場ができたから、これが入店証代わりなんだとよ。この辺りの男は初回無料で遊べるって言われてな」
「その女性が靴を配っている、と?」
 双子の顔色が変わるのも無理はない────あからさまな罠の気配に、ルヴァの目つきが僅かに細くなる。そのまなざしには猜疑心が宿っていたが、男は気付かずに話し続けた。
「道具屋の親父が行った話ではな、美女揃いでよりどりみどりだったらしい。何してもいいんだってよ」
 そう言って男は手指で輪を作り、輪の中にもう片方の指を入れる動作をして下卑た笑みを浮かべる。
 下品極まりないジェスチャーに不快感を覚えつつ、それを顔に出さないよう気を付けて調子を合わせた。
「その方に話しかければ、私もいただけるんでしょうかね」
「なんだ兄ちゃん、生真面目そうな見た目の癖に……意外と興味あるのか? まだいると思うぜ」
 お仲間扱いされた屈辱に、ルヴァの口から乾いた笑いが零れ出た。
「はは……なかなか貴重な品のようですからね。無料でいただけるのならぜひ欲しいんですよ……良い情報をありがとうございました」
 そうして男に空飛ぶ靴を返し、ぺこりと頭を下げた。
 ルヴァは無言のまま視線で双子を呼び、木に寄りかかったソロの元へ戻る。
「教会で女性があの靴を配っているそうですよ。なんでも、会員制の酒場ができたとか」
 猛者の勘が働いたのか、ソロの顔は険しい。
「なんか胡散臭いな。すぐそこだけど、寄ってみる?」
「そうですね。少し気になりますし……あー、ソロ殿だけこちらへ来て貰えますか」
 子供たちから離れ、ソロの耳元へ口を寄せた。
「……どうやら、成人男性だけを集めているようです。中でいかがわしい行為も行われているようですので、あの子たちを連れていくのには些か問題が……」
「あー……まあ、そうだな。宿に置いていくか……」
 と、大人二人は考えた上での作戦だったのだが、事情を聞いたティミーはきっぱりと首を横に振った。
「ルヴァ様もソロさんも、あの靴のこと良く知らないでしょ。ぼくたちのほうが詳しいよ」
「そ、それは確かにそうですが……しかし、子供に見せて良い場所ではないんですよー」
 狼狽えたルヴァの説明をティミーは鼻で笑い飛ばした。
「今更だよ。ぼくもポピーも、これまで両手両足じゃ足りないほど魔物の首を切り落としてきたんだから」
 無感情に言い放つティミーの横で、ポピーも頷いている。
「本当に無理そうだったら退きますから。それならいいですよね?」
 屠る行為とは別の意味で教育に悪い現場なのにと思ったが、結局それ以上説得材料のなかったルヴァは渋々同行を許し、一行はその足で教会へと向かった。

 天候は悪化し、ポツポツと降り始めた。
 雨粒を受け地面がまだら模様を作る中、ルヴァが教会の扉の前で振り返る。
 ここへ来る道すがら、空飛ぶ靴がリュカの時代とこの時代でどちらも魔物絡みだったことを鑑みたルヴァが、ある作戦を持ちかけた。ソロは勇者として名を馳せており、魔物側人間側双方に顔を知られている可能性がある。子供たちには靴を渡さない可能性を考慮し、まずは顔を知られておらず成人しているルヴァが接触を試みる案でまとまったのだ。
 子供たちは念の為に調達した外套のフードを目深に被り、武装姿を分かりにくくした。ティミーの天空の鎧が目立ちすぎたためである。
 そして、ルヴァの目は燃え立つ赤い髪を捕らえた。
「準備はいいですね、オスカー」
「……ああ」
 ルヴァが提案したもうひとつの作戦────ソロのモシャスでオスカーに化けさせ、連れ立って歩くこと。
 シンシアからモシャスについての説明を聞き、ソロも得意とは言えないものの習得していると知った上での作戦である。
「しっかし気持ち悪ぃな……すげーしんどい」
 仲間に化けたときにはなかった違和感が、いまは悪寒となってソロの身体中を蝕んでいる。
 ソロの説明によると、どうやら守護聖の持つサクリアがソロの魔力と干渉しているらしく、普通を装って歩くのが精一杯とのことだった。
 言葉通りにうっすら脂汗を浮かべているソロを見て、ルヴァが僅かに眉根を寄せる。
「どうします? 今なら元に戻れますが、やめますか」