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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 苦痛に歪む顔を心配そうに見つめて問うと、ソロは気丈にも頭を振った。
 それを見たルヴァが手を伸ばして眉間の皺をぐいと広げる。
「無理を押すなら、笑顔で。女性を見つけたら笑ってくださいね」
 練習がてら、振り返ってポピーを見た。
 にこりと口角を持ち上げてみると、ポピーがOKサインを出している。
「オスカー様の笑顔とは違いますけど、向こうは本物を知らないから大丈夫だと思います」
 中に聞こえないよう声のトーンを落としてそう言うと、隣のティミーが頷く。
「見た目そっくりなのに、なんかすごく真面目な人に見えるねー……」
 確かにとルヴァは内心思ったがおくびにも出さず、代わりにフォローの言葉を伝える。
「オスカーも本当は真面目な人なんですよー」
 それにはティミーが首を傾げ、否定を口にした。
「えー……真面目な人は人妻を口説かないと思う……」
 しびれを切らしたソロが会話に割って入る。
「い、いいから早く済ませようぜ……体しんどい……」
 本物であればまず言わないであろう「しんどい」の声に、ルヴァはせり上がる笑いを噛み殺して扉に手をかける。
 軋んだ音を立てて開いた扉の向こうに注意し、そろりと歩を進めた。
 祭壇には神父がいたが、探し人はその目の前で祈りを捧げている。
 扉の横には子供たちが待機して、様子を伺う。
 端に金の刺繍が施され、紺か黒に見えるケープを羽織った金髪の女性を確認し、二人は彼女の視界に入る位置で祈るふりをする。ソロが無言で立ち去る間際に女性と目が合い、オスカーの真似をして微笑みながらウインクを送ると、ルヴァの思惑通り女性から話しかけてきた。
「あの、少しお時間いいですか」
 そっと張り巡らせた警戒の糸をひた隠し、二人は振り向いた。
 ルヴァは見覚えのある顔に一瞬肩を強張らせたが、冷静さを保って次の行動に出た。
「はい、なんでしょう?」
 ルヴァが接触している間、ソロが横目で後方を見る。
 青空のような目の色に黄色味の強い豊かな金髪。黙っていればシスターと間違われそうなほど清楚な佇まいで、女性はにこりと愛想よく笑う。
 女性の顔が明らかになった途端、後方から見ていた双子の顔が一層険しくなった。
 目配せして小さく頭を振る二人に気付いたソロが女性の視界を遮る位置に動く。女性の姿が長身の向こうにすっぽりと隠れたのを確認し、ティミーが唇だけを動かしてソロに伝える。
(に、せ、も、の、だ)
 無音のメッセージを読み取ったソロの顔にも真剣味が増し、片手を小さく振って確認の合図を送る。
 それにより、作戦は次の段階へと移った。
 女性は腕に下げた籠から例の靴を二足取り出し、上目遣いでルヴァを見る。
「この近くでお店を出しましたの。よかったら来てください」
 先程確認したのと同じものを手に、知らないふりで問う。
「はあ……これは何ですか?」
「お店の入店証です。履くとお店のある建物まで移動できますよ」
 女性はオスカーにも靴を渡す。
「随分と可愛い靴だ……俺には似合わないな。だが君の好意を無下にはできない、ありがたくいただこう」
 ソロは事前に説明された通り、できる限りオスカーの口調を思い出しながらそれらしく振る舞い、時折「これでいいのか」とルヴァに視線で助けを求めた。
 話の相槌を打つように見せかけて「それでいい」と頷くルヴァが、しれっと会話を続ける。
「そうですねえ、折角ですから私も頂戴いたしましょう。で……どういったお店なんですか?」
「……殿方専用の会員制サロンです。お二人とも素敵な方だから、是非いらして」
 清楚な雰囲気から一転し、女性のしなやかな手がするりとソロの二の腕を這う。
 それをしっかり目撃したルヴァは、この手口で多くの男たちがコロリと堕ちたのだろうと理解した。
 媚びたまなざしに一瞬困惑顔になったソロだったが、気を取り直して再びオスカーに成りすます。
「君にも会える? 何時に行けばいいのかな」
「お時間はいつでも。私よりいい子が沢山いますよ」
「俺は君がいいなあ……」
「ふふ、嬉しいわ。それでしたら今夜、お相手しましょうか」
「とか言って、店ではつれなくなるんだろう? あんまり弄んでくれるなよ」
「まさか。ここは神聖な場所、神に誓ってそのようなことはいたしませんわ」
 ソロが女性の頬に手を添え、切なげな声で喋り出す。
「それなら俺にも誓いが欲しい……」
 アイスブルーの瞳でじっと見つめ、親指で女性の唇をなぞる。
 ソロとしては精一杯の行動で赤面しないように耐えるのに必死だったが、努力は功を奏した。
「ここでは、ちょっと……」
 困ったように目を伏せた女性の肩を抱き寄せ、囁いて見せた。
「外、行こうか────後でな」
 ルヴァと別行動を取る口振りで有無を言わせず外へ連れ出すことに成功し、ソロの背を見送ったルヴァは安堵の息を吐く。
(時々オスカーじゃなかったですけど上等でしたよ、ソロ殿!)
 そして、ソロの後を子供たちとルヴァがこっそりと着いていく。

 女性と共に教会を出たソロが、すぐ近くの木陰に誘う。
 たわいもない話題で楽し気にくすくすと笑う女性の前に、ゆっくりとした足取りでティミーが近付いてきた。
 目深に被っていたフードを取り払って顔を露わにし、女性の顔を真っ直ぐに見つめて声をかける。
「こんにちは、こんなところで会うなんて驚いたよ……マリアさん」
「え……?」
 何の話かと首を傾げた女性へ、ティミーの目つきが鋭く切り替わった。
 身が竦むほどの強い視線に、怯えた女性が数歩後ずさり駆け出していく。
「ぼくたちが分かるはずないか。姿を真似してるだけだもんね?」
 一目散に走り去る背に吐き捨てるような声を投げつけ、おもむろに天空の剣を掲げた。
 剣から迸る凍てつく波動によりたちまち輪郭が溶け崩れ、人の姿からは遠く離れたジェリーマンに戻る。
 魔物の姿に戻ったのを確認したルヴァが、逃がすまいと理力の杖を向けて叫ぶ。
「はやてかぜ、刃となれ!」
 ルヴァの足元からジェリーマン目掛けて風が走り、真空の刃となって襲い掛かった。
 当人のレベルが上がっているせいか、以前は発動に必要だった命令の文言を発さずとも、十字を切るだけで真空刃は大きな渦に変わり敵へと向かっていく。
 ルヴァの放ったバギクロスが命中し、金属質な悲鳴が響き渡る。
 幸いにも強まってきた雨脚のお陰で辺りに人影はなく、続けて自分の姿に戻ったソロが手にした剣で斬りつけると、ジェリーマンは呆気なく砂と化した。
 降り続く雨が一行の衣服を満遍なく濡らす中、ルヴァが苦虫を噛み潰したような顔で口を開く。
「これで靴の配布は止められましたね。まあ、一時凌ぎでしょうけど」
 ソロはティミーとポピーを交互に見やり、疑問を口にする。
「……知ってる人だったのか?」
 フードを被ったままのポピーが、短く答える。
「父の友人です」
 髪にかかった水滴を手で払い除け、フードを被り直していたティミーも続く。
「はー……本物だったらどうしようって思ったよ。魔物が化けてただけだったね」
 ルヴァがティミーの言葉に頷いて話し出す。
「まさかマリア殿とは思いもよりませんでしたよー。それに、流石に教会の中で退治するわけにもいかないですしねぇ」