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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ティミーとルヴァの会話を聞きながら、手の中の靴をぶにぶにと押して弄っていたソロがティミーへと視線を流した。
「次はどうする。ライアンちに向かうのか、それともこれの行先を確かめるか」
「二人には悪いけど、先に確認してもいい?」
 深刻な顔つきの子供たちを前に、ソロはにいっと口角を上げて二人の肩を叩く。
「決まったならとっとと行こうぜ。ここにいても時間の無駄だろ」
 その後、やたらと可愛らしいデザインの靴を誰が履くかで少々揉めたが、結局ソロとルヴァが履くことになった。
 ルヴァが恐る恐る足先を入れてすぐに、頭の中で声が響く。
(────かえりたい。かえりたい。かえりたい。かえりたい。かえりたい……)
 ただひたすらそれだけを繰り返して幾重にも重なる声に、意識を持って行かれそうになる。嵐のように襲い来るそれをどうにか堪えていると、急に体が軽くなった。
「えっ……わっ!」
 無意識に足が持ち上がった瞬間、酷い立ち眩みがして視界が目まぐるしく歪む。
 ルーラに少し似ているが同じとは言えない奇妙な感覚に支配され、掴まっていた子供たちからも小さな悲鳴が上がる。
 立ち眩みが治まって目を開けると、一行は見慣れない塔の屋上に運ばれていた。

 塔の最上階からはバトランド城下町や平野、豊かな森林地帯を広く見渡せた。
 晴れていたなら絶景だったろうに────とルヴァは考えたが、生憎の雨で地上はぼんやりとけぶっている。
 細い糸のような雨が体を打ち、ぐっしょりと濡れた外套が非常に重い。
 先を急いでいたポピーが振り向き、周囲の様子をぼうと見ていたルヴァへ声をかけた。
「ルヴァ様、こっちです!」
 声のほうを見れば、双子は下り階段目掛けて駆け出している。真っ先に階段を下りているソロに至っては、既に頭のてっぺんがちらと見えるだけだ。
「あああすみません、今行きます!」
 慌てて後を追い、階段を二、三歩降りたところで名残惜し気に振り返る────雨粒を弾き返すいかめしい甲冑が視界に入った。
 悪天候のせいもあってか、無人の廃墟を思わせる陰鬱な雰囲気が寒々しい。艶を失い鈍色にくすむそれから逃げるように、駆け足で階段を降りきった。

 ひとつ下の階に到着すると、皆濡れた外套をすぐに丸めて袋にしまい込む。着たままでは下の服まで濡れてくるからだ。
 目の前に灯されている松明の炎が温かく、それぞれが手を翳したり頭を近づけて乾かしたりしている。
 ティミーとソロがぐるりと見回して口を開いた。
「魔物の気配がないね」
「だな。見えるところにはいなさそうだ」
 二人は小声でそう話しながらも小部屋の外に少しだけ顔を出し、辺りの様子を窺っている。
 何となくソロの意見を待つ雰囲気になり、片眉を上げ束の間考え込んだソロがおもむろに左側を指差す。
「……左に行ってみるか」
 柱が等間隔に六本並び、視界を遮っているところをそのまま通り過ぎた。
 ぐるりと回り込むような通路が迷路のようで、ルヴァは物珍し気にちらちらと視線を飛ばしながら歩く。
 下り階段を発見したソロが振り返る。
「行くか?」
「あー……ちょっとお待ちくださいね」
 そう言って懐に手を入れているルヴァへ、ソロは怪訝な顔で問う。
「どうした」
 懐からそうっと一冊の本を取り出したルヴァが答えた。
「……そろそろ、偵察役が必要ではないかと思いましてね」
 表紙に目玉がひとつ描かれた不気味な本を見て、ポピーがあっと声を上げた。
「オロバス出すんですか」
「ええ。我々では目立ちすぎますからね────起きなさい、オロバス」
 目玉が赤く光を放ち、ぎょろりと動き出す。
 間近でそれを目撃したソロがぎょっとしてルヴァの顔を凝視する。
「うわっ、何こいつ。魔物……!? えっ、あんたも魔物使いだったわけ?」
「いえいえそんな。流れ上、やむなく名を与えただけで……」
「それを魔物使いって言うんじゃないのか……?」
 ルヴァはそれへは答えず、にこりと頬を上げている。
 挨拶を交わし宙に浮かぶオロバスへ、ルヴァは優しく声をかけた。
「さあお仕事ですよ、オロバス。下の階に何がいるか、ちょっと見てきてくれますか」
「分かったー。敵がいたらどうする?」
「あなたにお任せしますが、これはあくまでも偵察ですからね。あまり目立ってはいけませんよ」
「了解、いってくるー」
 ルヴァの指令を受けて、オロバスはふよふよと階段を下っていく。
 ゆっくりと遠ざかるオロバスを見ていたティミーがぼそりと呟きを漏らす。
「本棚じゃなくても動けるんだね」
 その呟きを聞き付けて、ルヴァが答えを返した。
「本棚からの移動のほうが得意だそうですがね。うまくいくといいんですが……」
 ポピーの足元にいたスラリンがぴょこんと飛び跳ねる。
「心配なら、ボクも行こうか!?」
「ひあっ! ……え、ええ……そうですね、ついてて貰えると助かります」
「任せて!」
 まだ少し怯えつつも慣れようと努力しているルヴァの態度にスラリンは喜び、ぴょんぴょんとオロバスの後を追っていった。

 順調に最下層まで下りた二匹は、通路の壁際からそっと中の様子を覗き見る。
 フロアに小奇麗な身なりの女性たちを確認したスラリンが小声で話しかけた。
「……なあ、あれ人間かな」
「化けてる可能性はあるけど、オレたちじゃ分かんないな」
「どうする? 戻る……あっ、誰か来た」
 学者風の男が現れて女性たちと会話を始めたものの、二匹にはピエールのような優れた聴覚がなく、会話の中身までは分からない。
 しかし、男の姿を食い入るように見つめていたスラリンがオロバスへと視線を移す。
「……戻るよ」
 オロバスは急に硬い声音に変わったスラリンを不思議そうに見下ろして、意図を確かめようと問いかけた。
「なんか分かったのか?」
「後で言うよ、今は急ごう」
 そうしてすぐに元来た道を引き返し、スラリンは帰還を待っていたティミーたちのところへ弾丸のような勢いで飛び込んでいく。
「ポピー、ティミー! 大変だ!」
 小声で叫ぶという実に器用なことをしつつ血相を変えて戻ってきたスラリンに名を呼ばれ、双子は何事かと驚きの顔を見せていた。
「ラインハットの学者がいたんだ! 名前なんだっけ、えっとー……」
 思い出そうとするもののあやふやな記憶に歯噛みするスラリンの隣で、オロバスが調べ始める。
「ラインハットの学者────ああ、あった。これかな」
 すぐにオロバスが頁を開き、そこに浮かんだ文字をルヴァが読み上げる。
「……デズモン。進化の秘法を研究していたラインハットの学者……!」
 ルヴァの脳内で、この時代に来る前に立ち寄ったラインハットの惨状がすぐに思い出された────無人の城内で、女王陛下と補佐官だけが勘付いた邪悪な気配。あのとき通路に溢れてきた大量の汚水が、どの部屋の方向からやって来ていたかを。
 眉をひそめたルヴァと双子を気にも留めず、スラリンが話を続ける。
「さっきのマリアみたいに化けてるかは分かんなかったけど……この時代にいるはずないのは確か」
 全員がスラリンの話に小さく相槌を打ち、次の言葉を待った。