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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

INDEX|146ページ/213ページ|

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「あの人間、ヘンリーがラインハットに戻る前、ニセ太閤の統治の頃からいたんだよ。なのに見た目もそんなに変わってなくて驚いた」
 スラリンの話に双子たちが顔を見合わせる。
「ぼくたちが生まれる前から……?」
「お父さんがお城に戻ってきたとき、サンチョにちょっと老けたねって言ってたよね」
 不可解だと言いたげな子供たちの視線を受けて、ルヴァはスラリンへと目を向けた。
「あなたはプックルを除けば、リュカと旅をした最初のスライムでしたよね?」
「そうだよ。リュカと、ヘンリーと、マリアが一緒だったんだ」
「奴隷から解放されて間もなくなら、その頃彼らはまだ十代だった筈です。その頃から、学者の容姿がさほど変わっていないと言うんですか?」
「うん。さっき見た感じでは、老けたってふうでもなかったよ。だから大変だって思ったの」
 足元でぷるりと震えるスラリンの前に、ルヴァはゆっくりと片膝をついて話しかける。
「……スラリン。他に見たことを全部教えてください」
 怯えられずに話しかけられ、一瞬面食らった表情を浮かべたスラリンだったが、すぐに答えを返した。
「他には人間の女が四人いたくらいかな。男はあの学者だけだった」
「そう、ですか……んー……」
 片手で口元を覆い隠し、脳内に点々と散らばった情報のどこかが線にならないかと思案を巡らせる。
 低く唸ったきり思考の海に沈むルヴァを、一同は不安げに見つめた。
 硝子や格子もなくぽっかりと開いているだけの窓から、びゅうびゅうと冷たい風が入り込んでくる。
 それにより天空の鎧が冷やされ始め、なおも続く沈黙に業を煮やしたらしいティミーが話を切り出す。
「行ってみようよ。マリアさんみたいに姿を使われてるだけかも知れないし」
 急かすような口調にルヴァが反応するより一足早く、ソロが口を開いた。
「いや、一旦退く」
「えーなんで?」
「いい道具がある。すぐ持ってくるから、それまで宿で待っててくれないか。説明は後だ」
「うー……ご先祖様がそう言い切っちゃうと、子孫のぼくは反対できないよ」
「おい、ご先祖はやめろって言ったろ。ルヴァも、それでいいよな?」
 問われたルヴァは片膝をついた姿勢から静かに立ち上がり、穏やかな声で肯定を口にする。
「そうですね。少し頭を整理する時間が欲しいと思っていたので、むしろありがたい限りです」
「じゃ、出るぞ」
 鶴の一声で一行は再び塔の最上階へと戻った。
 そこからソロは別行動となり、残った三名はポピーのルーラでバトランドの宿屋に向かい、ソロの帰還を待った。

 宿に入り、濡れた外套がろくに乾きもしない内にソロが戻ってくる。
「悪ィ、待たせた」
 手に持っていた杖を興味深げに見たルヴァがすぐに食いついた。
「いえいえ、大して時間は経っていませんよ。良い道具とはその杖のことですか?」
 杖の先に青い宝玉があり、その周囲に螺旋状の装飾がつけられている。
「これは変化の杖。名前の通りの杖で、使い方は簡単」
 ソロは淡々とそう告げてから、一呼吸おいて杖を振りかざす。
 ルヴァたちはぼわんと言う音と共に圧縮された空気が解放されたような圧を感じ、緊張で固まっていた。
「目、開けてみな」
 ソロの声に全員こわごわと薄目を開け、すぐに眼球が零れ落ちそうなほど丸くさせた────杖を持ったソロの姿が少年になっていたのだ。
 目を開けて飛び込んできた姿に驚いたポピーが、兄へも視線を流して大きな声で反応を示す。
「ええっ……!? 皆同じ姿になってる……!?」
 お互いの姿を確認し合い、ルヴァも驚いた顔を見せる。
「あー、本当ですねえ。でもよーく見ると、目元は変わっていないような?」
 それぞれの目の色は変わらないままで、髪と目の色味が元々同じ双子は更に似通ってしまっている。
 今になって登場した便利グッズに、ティミーが後頭部を掻きながらぼやき始めた。
「こんなのあるなら、教会行く前に持ってくれば良かったじゃん……」
 ご尤もな指摘だったが、ソロは平然と言い返した。
「こっちはモシャスが使えなくてもいいからな。で、人にも魔物にも化けられる。ってことは?」
 ソロの視線がルヴァへと注がれる。
 意見を求められていると察し、束の間の考慮で導き出された回答を紡いだ。
「……なるほど。全員変化するには、もってこいですねえ」
 ルヴァの推察が当たっていたらしく、ソロの口の端がにやりと上がった。

 その後、再び湖の塔に潜り込んだ一行はとうとう地下一階へと辿り着いた。
 ここへ来たのがライアンとホイミンだったなら、以前とは明らかに違う部屋に驚いただろう────フロアにあった大きな魔法陣はなく、かつてピサロの手先が立っていた場所は赤絨毯が敷かれたステージになっており、周辺には丸テーブルやソファが置かれていた。無味乾燥な壁面も美しい布で飾られ、留めた部分に生花があしらわれている。ここが周囲から隔絶された塔の中という点を除けば、確かに人間仕様にしつらえた店内だった。

 先頭にいたソロが通路からそっと中の様子を覗いて振り返る。
「……誰もいねえ」
 声を潜めてそう告げる顔にはこれといった感情は浮かんでおらず、彼の中で危機とも思っていないことがルヴァたちによく伝わってくる。
 ソロがおもむろに変化の杖を振り、人間の姿よりも音を立てずに動ける利点を生かしスライムの姿に化けた。
 変化する対象を強くイメージするとすんなりその姿に変われる、と過去の経験で突き止めていたソロの助言をもとに幾度か練習を重ねた成果だ。
 室内にいる者が仮に魔物ではなく騙されている人間だった場合でも、スライムに関しては見つかってもあまり騒がれないだろうというソロの意見を汲んだ、ルヴァの提案である。
 一行は人間で言うところのすり足のような動きでスススと移動して、物音のする奥の間の前へやってきた。
 以前子供たちが閉じ込められていた牢屋は取り払われ、壁と同じ石材に代わっている。控え室と書かれた板が下げられた木の扉は閉まっていたが、床から男のこぶし一つ分ほどの隙間があった。
 果敢にもスラリンがその隙間を潜り抜け、堂々と侵入を試みる。
 控え室内には先程スラリンが見た女性が三人テーブルを囲み、そして少し離れた場所には姿は人間サイズだったが赤いゼリー状の魔物────変化途中のジェリーマンが一匹。
 爪の手入れをしていた女がスラリンに気付き、綺麗に整えられた柳眉をひそめる。
「やーだ、何このスライム」
 嫌そうな女の声に他の面々の視線が一気に集まり、スラリンは人畜無害なふりをして愛想を振りまく。
「こんにちは、ボク悪いスライムじゃないよ!」
 スラリンの明るい挨拶を無視したもう一人が、じろりと見下ろしながら低い声で質問してきた。
「……どこから入ってきた?」
 人間の場合、多くはスライムが話しかけただけで叫ぶなり逃げ出すなりし始める。リュカと出会う以前のスラリンももれなくそのような態度を取られ続けてきたため、ここでジェリーマンと同室にいて魔物を見慣れた戦士でもないのに平然としている女性たちの姿は、彼の視点からも異様に映った。
「あのね、湖で遊んでてね、友達とはぐれちゃったから探しに来たの。ボクの他にスライム見てない?」