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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「見てないよ。ここはおまえが来るような場所じゃないから、早く帰りな」
 つっけんどんにそう言い放った後、彼女たちは何事もなかったように視線を外し身繕いに精を出し始めた。
 ルヴァたち一行は知らなかったが、こちら世界でのスライムはここからほど近いイムルへの洞窟内に出没しており、それ故にさほど怪しまれることもなかった。このとき人よりもスライムの群れに化けたのは正解だったと言える。
 スラリンの後に続きそうっと侵入したルヴァが、物陰から室内の様子に目を配る。
 控え室の扉には閂がかかっていて、客が訪れても開けられないことを確認できた。
(……あのジェリーマンは変化に時間がかかっているようですね。この三人も恐らく中身は……おや、あれは)
 蠢きながら少しずつ人の形を作っているジェリーマンの近くにもやもやと揺らめく陽炎を見つけ、ルヴァはこんな狭い空間に現れている不自然なそれへ、じっと目を凝らす。
(温度差が起こるようなものもありませんが……何でしょうね、あのもやは)
 周囲に手掛かりもない以上、考えていても埒が明かないと判断したルヴァは、偶然を装って姿を見せた。
「スラリン! ここにいたんですか、探しましたよー!」
 再会を喜ぶようにお互いぴょんと飛び跳ねていると、唇に紅を引いていた一人がちらりと顔を向けた。
「お、二匹目。仲間が見つかったのかい、良かったね」
 三人の中では比較的優しい態度を見て取り、スラリンが無邪気なそぶりで話しかける。
「ありがとう、お姉さんたち。……えっと、お姉さんだよね?」
 スラリンの無邪気な一言に、女の顔がニイッと歪む。
「……に、なってんだよ。人間のオス相手の店だからね」
 スラリンの視線が一瞬ルヴァへと注がれ、アイコンタクトを受けたルヴァが質問を投げかけた。
「はあ……それはまた、どうしてですか?」
「そういう命令なんだよ」
 背後で指示を出している黒幕の存在を掴もうと、ルヴァは慎重に言葉を選び出す。
「……人間の子が必要だからですか」
 察しのいい者だったならばこの質問に警戒心を抱くことが想定され、危機を覚悟して選んだ言葉だったが、相手は特に気にしたふうでもなく呑気に答えを返してきた。
「そうらしい。攫ってくれば早いのに、面倒なことを……」
 やれやれと肩を竦める一人に向けて、残りの二人が口を開く。
「そーお? あたしは結構楽しいけどなぁ」
「酒飲ませて適当にスゴーイって言ってりゃいいだけだし。あいつら馬鹿過ぎてチョロいったらねーわ」
 夜の店に馴染みのないルヴァはけらけらと笑い合う彼女らに迎合することもできず、引き気味に黙って話を聞いている。
「そういやあ、先生どこ行ったっけ?」
「城で報告会があるとか言ってたから、今日は来ないんじゃない?」
 グランバニアで聞いた「先生」の存在が一人の口から出てきたことで、ルヴァの目に鋭さが増した。
 詳細を訊ねたいものの変化した状態を保つ残り時間を考慮して、ルヴァは脳内で質問の内容を吟味する。
 ソロの話では、こちらの世界にジェリーマンは存在していない。本来の生息地というものがない彼らはどこから来てどこへ帰るのかを問うことに決めた。
「あのー、あなたたちは用事を果たしたらどこへ行くんですか?」
「うん? そこの扉から城に帰るよ」
 そう言って、陽炎のほうを指差す。
 どうやらあの揺らめくもやが空間を繋ぐ扉と知り、欲を出してもう一つ切り出してみた。
「そこが出入り口なら、人間をそっちに連れて行けばいいんじゃないですかね」
「おまえスライムの癖に頭イイなー。あたしらもそう思ってたんだけど、城では別の実験してるから分けたかっ────」
 言葉の終わり際に「扉」から大きな虫の羽音のような不快な音がして、そこから丸眼鏡の男が一人現れた。
 背を向ける位置にいた女の一人は音や気配で判断しているのか、やすりで爪の形を整える作業に没頭しつつ声をかける。
「先生、今日は報告会って言ってなかった〜?」
 濁った瞳の奥に不気味な光を湛えた男は、不愉快そうな顔つきで声を絞り出す。
「……君たちの中から一人、至急バトランドへ向かってくれ。客引きが消えていた」
 ルヴァは発言の内容に内心ぎくりとしたものの、いまは事情を知らないただのスライムだと己に言い聞かせて成り行きを見守る。
「ええ〜、人間の町なんかやだよ、気持ち悪い!」
「いいから行け。人間を集められないなら、消えるのは君たちだぞ」
 眉間にしわを寄せて言うも、女たちは一笑に付した。
「あははっ、それ言ったら先生だってヤバいじゃなーい」
「責任取らされちゃうよね〜」
 どこか小馬鹿にした口調の彼女たちを前に、男はこめかみを押さえて小さく溜め息を吐く。
「取り急ぎ私は城に…………何だ、このスライムどもは」
 ここでようやく存在に気付いたらしい男が、じろりと見下ろしてくる。
 話に参加していた一人が視線の意味に気付いて短く説明を入れた。
「迷子だって」
「ふむ……」
 ルヴァの横でスラリンはぷるっと身を震わせ、上目遣いに男を見上げる。
「友達とはぐれちゃって探しに来たの……お邪魔してごめんなさい」
 スラリンは鍛えに鍛えたスライムだったが、見た目にはそこらのスライムと何も変わらない。雑魚を装って油断させる手口はお手の物のようだ────と、ルヴァは感心しつつ眺め入る。
「……即刻立ち去りなさい。ここは遊び場じゃないんだ」
「はあい」
 退出を促された好機を逃さず、二人はすぐにその場を離れることに成功した。

 スライム姿で通路まで全力疾走してきたルヴァは、元の姿に戻るなりその場にへたり込んだ。
 緊張に満ちた場面を切り抜けすっかり気疲れした上、慣れない変身により普段使わない筋肉が軋む。いつもの表情を取り戻すことすらできず、ただ息を乱れさせていた。
 隣で共に走ってきたスラリンがその姿を心配そうに見つめる中、ティミーがベホイミをかける。
「ルヴァ様、大丈夫ですか」
「はっ……はいぃ……なんとか……」
 ハンカチで溢れ出る汗を拭うルヴァをソロが片手で起こし、変化の杖で自らの肩をとんとんと叩きながら口を開く。
「遅くなったし、今日は宿屋で休むか」
 ソロの言葉に、ルヴァは眉尻を下げて話し出す。
「できるなら早めに合流したいんですがねぇ……」
「直接的な被害はまだそれほどでもないし、焦って今すぐ食い止める必要はない。それにルヴァ、あんたもう限界だろ」
「そ、れはそうなんですけども……しかし」
「ここで無理しても仕方がないだろ。じゃあさ、もし宿屋が埋まってたらライアンちに向かおうぜ。オレ結構クタクタ〜」
 そう言ってうんざり顔で再び杖で肩を叩き出したソロを見て、ポピーがくすりと笑った。
「ソロさん、オスカー様にもなってましたしね。お疲れ様です」
 オスカーに化けさせる作戦を言い出したルヴァとしてはそれ以上我を通すこともできず、諦めてバトランドの宿屋で一泊することにした。

 一行は翌朝すぐにライアン宅へと向かう。
 バトランド地方は先日からの嵐の影響により、路面状況は酷いものだった。ぬかるみに足を取られてよろけたルヴァの背をソロが咄嗟に支え、おもむろに話しかける。
「……なあルヴァ」