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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 不安そうなポピーの言葉に、顔の底に憤りを湛えたティミーが静かに言い放つ。
「渡すもんか。それを断ったから、こうなってるんだろ。今何を言ったって無駄だよ、噂を盲信してる連中には……」
 現在この世界中を恐怖と混乱の坩堝に陥れている疫病。それは魔物を媒体として罹患するものであり、その発生源は魔物とそれに与する者たちの暮らす城、グランバニアからである────という根拠のない噂が、まことしやかに囁かれるようになっていた。
 悔しそうに俯いたポピーが呟く。
「皆なんかおかしいよ。魔物さんたちは何も悪いことなんかしてないのに」
 勇者と共に多くの同胞たちと戦い、世界平和に一役買った魔物たちである。根も葉もない噂を信じ、殺さないのなら引き渡せと言う人々の身勝手さの前に、ティミーは呆れてものも言えない。
「ぼくらもこの城の人たちもそれは分かってる。これが何かの罠だってことも」
 吐き捨てるように言うその表情は厳しい。
「罠……?」
 こくりと頷くティミー。母親の天空の血を色濃く継いだ彼には、嫌な胸騒ぎがし続けていた。
 戦いが長引けば、心の弱いものほど仲間を売りがちだ。魔物たちに出て行って貰えば平和が戻ると思い込む者も、いずれ出てくるだろう。
 国王であり魔物使いでもある父が城から引き離されている現状は、残念ながら仲間モンスターたちを手放しやすくしている。残るはエルヘブン側の血を濃く受け継いだ妹だけが魔物と人間双方と対話し説得ができるが、王族とはいえ年若い者の言葉など素直に聞いてくれるだろうか。
 このまま共に残ってポピーに説得を頼むか、父を連れ戻すため聖地へ向かうかの二択を言い出したのは、母ビアンカだ。
 ポピー本人に話を通さないまま母と息子で勝手に決めてしまったことを申し訳なく思ったが、最悪の場合を考えて「グランバニア王家の血筋を残す」方向で話がまとまっていたのだ。
「……早く聖地に行ってこい、ポピー。お父さんが戻れば皆の士気も上がる。反撃に出るのはそれからだ」
 群衆を睨みつけながらとんとポピーの肩を押し、その足で彼らの前にはっきりと姿を見せた。

「王子も出て来たぞ! 悪魔の手先め!」
「匿っている魔物を始末しろ! 病原菌をばらまくな!」
 矢と同時に飛んできた言葉にティミーの目尻が吊り上がった。剣を一振りして数本の矢を薙ぎ払い、群衆へ向けて怒鳴り返す。
「断る!!!」
 雨足が更に強くなり、二人ともずぶ濡れだ。ティミーは襲い掛かってくる矢を幾度も打ち払い、ポピーへ視線を向けた。
「北の教会の近くに馬車を隠してあるから。マーリンたちが待ってる……気をつけて行ってきて」
 妹を気遣う優しい口ぶりに、再び目を潤ませたポピーが大きく頷いた。
「……お兄ちゃんも、無事でいてね」
「任せろ。全員無事で出迎えてやるよ」
 そう言って笑顔で差し出された片手に、ポピーが手のひらをぱしんと打ち付ける。幼いころから続けてきた合図だ。
 そのままポピーは移動呪文ルーラを唱え、ティミーの前から姿を消した。

 北の教会に着くなり、ポピーは階段を駆け上がって神父とシスターに助力の礼を言い、神の御前で跪き熱心に祈りを捧げる。ローブが泥だらけになっていたが、悠長に着替えている時間はなかった。
(どうか、皆が無事でいられますように。わたしをアンジェ様とルヴァ様の元へとお導きください……!)
 決意を胸に秘め、立ち上がりかけたところでくらりと視界が揺れた。
「……っ?」
 このときほんの少しだけ感じただるさが、すぐ後に彼女の体を蝕むことになるとは思いもせず、教会の外へと飛び出していく。
 教会からほど近い森の中に、慣れ親しんだ幌馬車が隠されている。
 白馬パトリシアの側に魔法使いマーリンが跪き、蹄の状態を見ているようだった。
「マーリンお爺ちゃま!」
 ポピーの声にはたと顔を上げたマーリンが振り返り、落ち窪んだ目元が柔和な笑みを形作る。
「無事に出てこれた様じゃな、ポピー」
 安心して駆け寄ろうとしたところで、ポピーの膝からかくんと力が抜けた。
「あ……れ?」
 前のめりに転び、四つん這いの姿勢で不思議そうに首を傾げた。
「お爺ちゃま、わたし、なんか……変だ」
 マーリンが静かに歩み寄り、ポピーの下瞼に指を当てて裏側をじっと見ている。それから額に手を宛がう。
 ひんやりとしたマーリンの手が心地よかったが、向かい合うマーリンの表情はとても険しくなった。
「……急ぐぞ。天使様のお力を借りねばならんようだ」
 馬車の中にエビルアップルのアプール、おどる宝石のジュエル、キラーマシンのロビンが乗り込んでいるのを見て、ポピーは目を真ん丸に見開いた。
「どうしたの、皆……!」
 今ごろ他の仲間たちはグランバニア城内で待機しているはずだ────そう思った矢先、呆れたように笑いながらマーリンが説明し始める。
「こやつら勝手に乗り込んできおっての。まあ誰もおらんよりは役に立つじゃろう、みなで聖地へ行くとしよう」
「でもお爺ちゃま、これじゃひとり多いじゃない。皆と一緒に聖地の中に入っていけるか分からないけど……」
 そこへアプールが能天気なフォローに入った。
「だいじょうぶ。こうすれば問題ないよ」
 ジュエルの袋の中へ潜り込んでそう言うと、ジュエルが怒ったように宝石を吐き出した。
 その流れでぺっと袋から放り出されたアプールへ、マーリンが更に毒づく。
「なんならそこの出荷箱にでも入っとれ、一つ目のアホりんごが」
「ひどいー」
 ここで言う出荷箱とは、自称魔界のプレミアムりんごだというアプールの棺桶(JAロゴ入り)のことである。
「JAはボクの敵なんだからねー」
 彼らを棺桶、もとい出荷箱に入れて送り出すのがJA(ジャハンナ・アグリカルチュラル・コーポラティブズの略称、農業協同組合のこと)だ。

 馬車にマーリンが乗り込んだところで、ポピーが腰に下げた道具袋の中から干からびたルラムーン草を取り出す。
 からからに乾いて一塊になっているルラムーン草を小さく千切り、馬車を囲むように六か所に置いていく。そしてその上にキメラの翼を重ね置いた後、小皿に魔法の聖水を注いだ。
 小皿を左手に、右手にキメラの翼を持った状態で聖水に翼を浸し、ぱっぱっと干し草に振りかけていくと、聖水を吸った干し草が淡く輝き始めた。
 聖水を浸していたキメラの翼と小皿を元の袋にしまい、六か所の中央に立ったポピーが静かに両手を差し出している。
「わたしの友────プロートン、トリトン、ペンプトン。太陽の右手を取れ」
 ポピーの右手のひらが赤く光を放ち、一番目、三番目、五番目の干し草から順に赤い炎が立った。
「デウテロン、テタルトン、ヘクトン。月の左手を取れ」
 次に左手のひらが青く光り、二番目、四番目、六番目の干し草が青く燃えた。
「わたしはミデンなり。古き友よ、遥かなるメソンの地へ運べ────ルーラ!」
 ポピーの詠唱が終わると同時に六つの炎は天高く舞い上がり、燻されて立ち上った煙が周辺の景色を瞬く間に覆い隠した。
 すがすがしい香りの煙が風に流れた頃、幌馬車とポピーの姿は消えていた。