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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 すぐに椅子の背もたれに引っ掛けていた鞄から、空飛ぶ靴を取り出して見せる。
「ライアンさん、これ……ライアンさんが履いてたのとおんなじだ!」
「う、うむ……頼むからあまり大きな声で言わんでくれ……」
 やたらメルヘンな見た目の空飛ぶ靴である。恥ずかしそうなライアンと懐かしそうに目を細めているホイミンとの落差に、ルヴァたちは少々気の毒そうな視線を向けていた。

 おやつにと出された胡桃を齧っていたティミーが父を見る。
「お父さん、デズモンって人知ってるんだよね?」
「んー、知ってるってほどではないけど……確かに、ヘンリーが城に戻る前からいたよな? スラリン」
「いたいた。あのときと見た目が同じだったんだよ」
 見上げてきたスラリンへピエールはひとつ頷き、眉間にしわを寄せて話し出す。
「それは……いくら何でもおかしいでしょう。長寿の生き物でもあるまいし」
 ピエールの言葉に一同が納得の声を上げ、リュカが顎をさすりながら言葉を繋げる。
「ヘンリーたちが消えたってのも気になるね。無事だといいけど……今の状況じゃどうすることもできない」
 リュカの声音に含まれた焦燥を感じ取り、子供たちは視線を俯かせている。
 かまどにくべられた薪の残りがぱちんと爆ぜ、崩れる間際に小さな火の粉を二つ三つ巻き上げた。
 そんなささやかな音がはっきりと聞こえるほど静まり返った室内。重々しい空気を振り払うように、ライアンが口を開く。
「そんなときは、身近な問題から一個一個片付けていくほうが近道だろうな」
 仲間の兵士たちからのろまと言われがちなライアンだったが、それは立場上自らを厳しく律し、無益な殺生を避けようと慎重に動く性格から来る戦い方である。急がば回れを地で行く彼の発言には、経験にしっかりと裏打ちされた自信が含まれ、重苦しい場の空気を幾分か軽減させた。
 リュカは肺に溜まった息を吐き出して、浅くなった呼吸を整える。それからきゅっと口角を上げた。
「そうだね……ここで考えてたって仕方ないか」
 気力を取り戻した様子に、ルヴァが安堵の息を漏らした。
「まずはできることから取り組みましょう。解決の糸口はそこから出てくるはずです」
 くいくいと袖口を引っ張られる感覚にリュカが視線を向けると、少し困惑顔のピエールが話しかけてきた。
「リュカ様、あの……ソロ様が」
「ん? ありゃ」
 指差す先を辿って見れば、先程プックルにちょっかいをかけていたはずのソロが丸まって眠っており、プックルはというと枕にされたままじっとしている。
「いつの間に……疲れちゃったんだろうなあ」
 リュカの声を聞き付けたライアンがソロのもとへと歩み寄り、起こしにかかる。
「ソロ殿、寝るなら寝台で休んだほうがいい」
 小さく肩を揺すられ、ソロがはっと目を開けた。
「んぁ……? あー、ごめん。寝てた……」
 空き部屋の寝具を出していないことに気付いたホイミンが問う。
「ライアンさん、向こうのお部屋の支度しますか?」
「ああ、すまんが寝具を出しておいてくれ。扉の中にあるから」
 指示を受け空き部屋へと向かうホイミンの背を、じっと目で追っていたライアンが振り返る。
「君たちも疲れただろう? そろそろ休みなさい」

 リュカが使っていた部屋の隣────案内された部屋には二つ寝台が置かれていた。
「ここに寝台をもう一つ二つ用意するから、君たち家族で一部屋使ってくれ」
 さも当然といったライアンの口振りに、リュカが大慌てで頭を振った。
「いやいや、そんな気を遣わないでいいですよ。ぼくらはどこででも眠れるんで……」
 雨風を凌げるだけでも十分だと言いかけた矢先、隣にいたソロが口を挟む。
「遠慮すんなって。部屋も寝台も、元々オレたち仲間が全員集まってもいいようになってんだからさ」
 ソロの発言に今度はポピーがすまなそうな顔つきで話し出す。
「押しかけてきたのはこちらですから……」
 ひたすら遠慮する一家の前で、ライアンは彼らを床に寝させずに済む方法を考え、ふと思いついた名案を口にする。
「ふむ、それなら……ホイミン、おまえは私の部屋で寝なさい」
「ふぁいっ!?」
 動揺し素っ頓狂な声をあげたホイミンに向け、ライアンは平然と続けた。
「それなら新たに用意する寝台は一つで済むだろう?」
「え、えっ、でもそれは」
 狼狽えたホイミンが助けを求め、オロオロとリュカに視線を送る。ばちりと視線が噛み合ったリュカは、柔らかく微笑んで頷いて見せた。
「なんだ、嫌か? ああそうか、ホイミスライムの姿ではないしなあ……やはりもう一台納屋から引っ張り出すか」
 野営の際、魔物だった彼を外套に包んで眠っていた頃の印象のままだったと思い直したライアンが納屋へと足を向け、ホイミンが急いで引き止める。
「ああああああのっ、ライアンさんといっ、一緒でいいです!」
 言ってしまった────と頬を紅潮させたホイミンを訝しみ、ライアンは不思議そうな顔で首を傾げた。

 その後、ルヴァのもとを訪れたリュカが扉を小さく叩く。
「ルヴァ、まだ起きてるかな」
 調べ物のためオロバスに質問をしていたところで、ルヴァは扉の向こうの遠慮がちな声に答えた。
「えぇまだ起きていますが、何かありましたか?」
「ラインハットのこと、もうちょっと詳しく聞きたくて。入ってもいい?」
「どうぞどうぞー」
 扉がごく僅かに軋んだ音を立てて開き、静かに入室したリュカが寝台で寝転ぶソロに気付く。
「あっ、君も起きてたのか。お邪魔するよ」
「おう。ティミーたちは?」
「さっき寝たよ。連れてきてくれて助かったよ、迷惑かけてなかったかい」
 ルヴァが寝台の端に寄り場所を空け、リュカはそこに腰を下ろす。
「全然。会えてよかったな、ああ見えてかなり心配してたからさ」
「二人とも、伝説の勇者に会えたって大喜びしてたよ」
「はは、そりゃどーも」
 そう言って小さく笑ったソロが、潮が引くように笑みを引っ込めて呟く。
「……いいね、家族って」
「ん?」
 ビアンカよりも少し深い青の瞳に寂しさが浮かんだのを見て、リュカは次の言葉を待つ。
「オレもいつか……父親になるのかなぁ」
「きみの子孫がぼくの奥さんと子供だからね、そうなるかもね」
「正直全然実感わかないや。今はシンシアと一緒にいるだけで精いっぱいだし」
「シンシア? えっと、きみの恋人?」
「んー、幼馴染み」
「ご家族はどうしてるの」
「もういない。村ごと魔物にやられて、生き残ったのがオレ」
 淡々と話す声に含まれた陰りを察知し、ルヴァが口を開く。
「……あの村を見て、私はサンタローズを思い出してしまったんですよ」
「ああ……そっかぁ」
 ソロに続いたルヴァの言葉でどのような惨劇が起きたかを瞬時に悟り、リュカは小さく頷いた。
「世界を救った勇者だ、って皆言うけど。オレに残されたのって仲間とシンシアだけでさ」
 仰向けになっていたソロは誰とも視線を合わさず、そのまま天井を見つめている。
「村の皆と普通に暮らしてたかったよ、ホントは」
 母のぬくもりを知らず育ったリュカと、年頃になってほぼ全てを失ったソロ。