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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ルヴァはどちらも等しく不幸な境遇だと思ったが、互いに痛みを知る者同士で慎重に言葉を探す様子が窺えて、余計な口を挟まずにいようと口元を引き結ぶ。
 リュカの黒曜石のような瞳が真っ直ぐにソロを見つめる。
「それでも、君は生き延びた」
「……」
 生きてさえいれば何とかなるよ、家族だってこれから作っていけばいいじゃないか────経験者として若い彼に言おうかとも思ったが、脳内に浮かんだどの言葉も焦点がずれてしまう気がして、リュカは結局無言のままソロの頭を撫でた。柔らかく癖のない髪質は、どこか妻や娘を彷彿とさせた。
 手を振り払うこともなく少し気恥ずかしそうに目をそらしたソロへ、ようやく伝えたい言葉を選び出したリュカが穏やかな声で告げる。
「よく頑張ったな……って、ぼくが君の親だったら言うと思う」
「そうかな」
「そうだよ。ぼくの時代に繋いでくれて、ありがとうね」
 ぽんぽんと軽くはたいてから手を離した。
 ソロは上目遣いにリュカの手を追い、ふ、と緩く笑う。
「どういたしまして?」
 話の区切りがついたところで、ルヴァが話の本筋へと誘導する。
「あーそれで、リュカ。ラインハットの話でしたよね」
「うん」
「私もあなたに伺いたかったんですよ。学者のいた部屋は向かって左側の通路の奥の、階段を上がったところですか」
 手帳に書かれた見取り図を見せながらそう言うと、じっと覗き込んでいたリュカが視線を上げた。
「……うん、そう。この階段を上がったすぐ目の前の部屋だった」
「アンジェと補佐官が……そちらの方角から邪悪な気配がする、見られている感じがすると言って具合を悪くしましてね。その後、妙な泥水の塊が溢れてきました」
「……なんだそりゃ。気持ち悪いな」
 リュカが眉間にしわを寄せてそう言うと、同意の頷きを返しながら言葉が続く。
「爆弾石でしたか、それをポピーが投げつけても、汚水の中に取り込まれていたんですよ」
「爆発せずに?」
「ええ。それを見て、逃げようという話に」
 ルヴァの話に納得がいかないといった顔つきで、リュカはもう一度きつく眉根を寄せた。
「でもどうしてお二人だけ……? ビアンカや子供たちの反応はなかったですか」
「ええ、特にありませんでした。アンジェと補佐官のロザリアは、元々我々神鳥宇宙の次期女王候補として選ばれた者です。女王の調和のサクリアは守護聖のサクリアを通して宇宙全てに波及していますから、安定を乱す力とは対極にあると言っても過言ではありません」
「そういえば、アンデッドたちを一掃してましたもんね」
 リュカは顎の無精髭をさすりながら、アンジェリークが竜の神に匹敵する力を持っていると話したマーリンの言葉を思い返す。
「私が見た限りでは……やはりそのデズモンという学者が今回の鍵を握っているように思えます。そういえばソロ殿、潜伏先の城に心当たりがあると言っていましたが……」
 ルヴァの視線がソロへと移り、話を振られたことに気付いたソロがぐっと身を起こす。
「ん? ああ……ここだよ。魔城デスパレス」
 ソロの指さした個所を覗き込み、ふうむと唸る。
 リバーサイドは地図に書かれていたが、デスパレスがあるという場所は不自然に険しい岩山で埋め尽くされている。
「おや……何も載っていませんねぇ」
 この世界にやってきた当初、目的地ばかりを見ていたために地名の記載がない事実に気付いていなかった。
 地図に全ての情報が記載されるわけではない。軍事的な意味で地名はおろか存在ごと秘匿される場合もあることをルヴァは知っていたが、素直に思ったことを口に出した。
 ルヴァの独り言めいた一言にソロが小さく頷き、おもむろに話し出す。
「魔族や魔物の城だからな、下手に知れ渡ると馬鹿な人間が行きやすくなる。それでもリバーサイドに行けば分かっちまうんだけど」
 打てば響くソロの説明に、ルヴァとリュカは納得した様子で頷いて見せる。
「なるほど……」
「確かに、そんな場所なら身を潜めるには最適だね」
「行くなら連れてってやるよ」
 ここでも発されたソロの何気ない一言に、一瞬言葉を失い目を丸くしたルヴァの口から声が漏れた。
「……まさかそこにもルーラで」
「行ける」
 魔城と呼ばれる恐ろしい場所へ一度は行ったのだという証────同じく歴戦の猛者であるリュカから見ても、目の前の飄々とした青年が勇者なのだと実感がわいてくる。
「凄いな……」
 リュカからのそんな称賛にも眉一つ動かさず、ソロは言葉を続けた。
「覚悟しとけよ、味方は誰一人いないと思っておくといい」
「承知の上さ。ここまで来たからには、どんな手掛かりにでも縋らないと」
 話を聞いていたルヴァがあっと声を出し、二人の注目が集まる。
「あーあの、その前にですね、バトランドに寄りましょう。まずは皆さんと合流してからで……到着しているといいんですがねえ」
「あれ、そうなの?」
 きょとんとした顔のリュカへ、ルヴァが申し訳なさげに説明を始める。
「すみませんね、守護聖が一人昏睡状態になりまして。回復を待つより先に私たちだけこちらへ向かったものですから」
「そっか、ルヴァの仲間なら会ってみたい。うちの子たちが世話になったお礼言っとかないと」
 トントン拍子に話が進み、ソロが口の端を上げる。
「よし、話はまとまったな。明日動けそうならバトランドで仲間探索。それでいいよな?」
 ソロの決定に、ルヴァとリュカが同時に頷く。
「ええ、その方向で構いません」
「了解。子供たちにもそう伝えておくよ」
 話しながら扉の前で振り返ったリュカが、ぱちりと片目をつぶる。
「……じゃあまた明日ね、おやすみ」
「おやすみなさい」
「んー……」
 ソロは返事をするのもだるそうに片手をひらひらと振り、それを見たリュカがくすりと笑って部屋を後にした。

 リュカが室内にいたその頃、ライアンの部屋では────直立不動の姿勢で固まるホイミンを不思議そうに見たライアンが話しかけていた。
「ホイミンは寝台を使いなさい」
「は、はいっ……ってあれ? ライアンさんは?」
「うん? 私は床で寝るよ」
 そう言って枕と薄い掛け布団を小脇に抱えたライアンへ、ホイミンは戸惑いを含んだ声音で問いかける。
「なんでですか……?」
 ホイミンの問いかけに、不可解だと言わんばかりに片眉を持ち上げたライアンが答えを返した。
「なんでと来たか……ああも嫌そうにされてはこうするしかあるまい? こちらも配慮が足らずすまなかったが、今日はこれで我慢してくれ」
「い、嫌がってなんかいないですよ!」
「うん……?」
「別にライアンさんの隣が嫌だって言ったわけじゃないんです。ほら、ぼく人間の体だから。狭くなっちゃうかなって思っただけ」
 本音を隠して口から出る言葉は、驚くほど滑らかな嘘だ────と、ホイミンはうっすら自嘲気味に笑い、言葉を続けた。
「寝相はいいと思うんで、ライアンさんは気にしないで休んでください」
 ライアンが手にしていた枕を元の位置に戻してにっこりと頬を上げたホイミンに促され、ライアンは渋々寝台に横たわる。
「そうなのか……私はてっきり……いや、杞憂だったな」