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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「そうだな、うちの天秤桶だ……ホイミンの姿が見当たらんが……」
 ぐるりと辺りを見回しながら、リュカも話し出す。
「家に戻ってるんじゃないかな」
 リュカの言葉にソロは片眉を上げ、気難しそうな顔になる。
「溢しちまったにしても、道具は持って帰るだろ。放置するような性格じゃなさそうだけど」
 それもそうだと全員が頷き、リュカと同じように辺りの様子を見ていたルヴァも口を開いた。
「うーん……おや、あちらに何か落ちていますね」
 少し離れた草むらの中にぽつんと落ちていた緑色の布袋。それに気付いたルヴァが拾い上げ、ライアンに手渡す。
 ホイミンに対しては保護者や後見人のような関係とも言えるライアンは、躊躇うことなく布袋の紐を解いた。
 中身を把握した途端に、ライアンの顔が強張る。
「……ホイミンの持ち物だ」
 のろのろと布袋から出してきたのは、つい先日、演奏のお礼にとリュカが手渡したエルフの飲み薬だった。
 顔色の変わったライアンとリュカを見て、ルヴァが落ち着いた声音で呼びかける。
「……これだけで何かがあったと判断するには、時期尚早かも知れませんよ。ひとまず家に戻ってみませんか」
 ルヴァの提案に、ソロがこくりと頷く。
「だな。家でへたばってるだけかもしれねーし……帰ろうぜ」

 ライアン宅に戻った一行に、出迎えたピエールが声をかける。
「お帰りなさいませ……何かございましたか」
 どこか浮かない顔の主から微妙な空気を察知してそう切り出すと、リュカが小さく頷いた。
「ピエール、ホイミンは戻ってる?」
 室内を見回しての言葉に、ピエールは頭を振った。
「いいえ……?」
 大人たちの帰宅を知り、留守番をしていたティミーとポピーも居間に集まってきた。
 ライアンがおもむろに取り出した布袋を、そうっと机に置いて呟く。
「どこかで道に迷ったんだろうか……」
 プックルが布袋に反応を示して、ひくひくと鼻を動かしている。
 腕を組んで考え込んでいたソロが口を開いた。
「探しに行くか? ライアン」
「うむ……」
 次の言葉がライアンの喉を通りかけたとき、プックルの唸り声が響いた。
「……微かにジェリーマンの匂いがするぞ」
 さっと顔色を変えたルヴァが問う。
「何ですって……!? プックル、それは本当ですか」
「嘘じゃねえよ。あとは知らん匂いも混じってる」
 ルヴァの様子にポピーも怪訝な表情に変わっていく。
「ってことは……まさか」
 ティミーは卓上の布袋へと視線を落とし、指先でテーブルをこつんと叩いた。
「お父さん、ちょっと嫌な予感がする。早く皆と合流しておこうよ」
「分かった。でもその前にプックル、これが落ちてたところで匂いを辿ってくれ。皆は先にバトランドへ行ってていいよ」
「えーまた別行動? しょうがないなあ……じゃあポピー、お父さんと一緒にいて」
「お兄ちゃんは?」
「ぼくはソロさんと一緒にバトランドに向かう」
 きっぱりと言い切るティミーへ、ルヴァは大きく頷いて見せた。
「あー、それがいいでしょうねえ。ジェリーマンが出たのならば、そのほうが」
 ホイミンを探しに行こうかと迷う様子のライアンへ、リュカが話しかける。
「ホイミンはぼくらが探しますよ。王様とお話しされるんでしたら先にそちらを優先しましょう。勇者の肩書きと一緒にね」
「むう……そうか」
 そこでスラリンがぴょこんと飛び跳ね、プックルの頭上に着地する。
「ボクも一緒に行くよ。いいでしょ、リュカ」
 頭上で飛び跳ねられたプックルが不愉快そうに小さく唸る中、リュカは気にも止めずに言葉を返した。
「いいよ、一緒に行こう」

 リュカはポピーと仲間モンスター達と共に先程の現場に戻ってきた。
 ふんふんとホイミンの匂いをかぎ回るプックルに声をかける。
「……どう、プックル」
 リュカの問いかけにグルルと唸る。
「だめだ、匂いが途切れてて分からねぇ。ここでパタッと無くなってる」
「リュカー!!」
 スラリンに呼ばれ、リュカはハッと顔を向ける。
「どうした?」
「こっち来て! 竪琴が落ちてる!」
 スラリンの大声に緊張が走る。
 竪琴は布袋が落ちていた地点からすぐ近くにあった。
 リュカは眠るときでも竪琴を側に置いていた彼の姿を思い返し、明らかな異変の兆しに眉間のしわを深く刻む。
「……バトランドで挨拶回りしてから向かうのと、今すぐ湖の塔に乗り込むの、どっちが早いかな」
 事態は一刻を争うかもしれぬことを、リュカの真剣なまなざしが告げている。
 それを見たスラリンも改まった声で答えた。
「湖の塔にね、旅の扉みたいなのあったよ。そこからデズモンが出入りしてたみたい」
「ルヴァも言ってたね。デスパレスで別の実験がどうのって……恐らくはそこが直通ルートだろう。ぼくは塔から先回りできないか、探りに行く」
「ボク案内するよ!」
「ん、よろしく頼むよ」
 リュカは久し振りに同行できると喜ぶスラリンへ頬を緩めたあと、念の為にとルヴァから預かっていた空飛ぶ靴を取り出し、束の間視線を縫い止めてから愛娘へと目を向ける。
「悪いけど、このことをティミーに伝えてきて欲しい」
「……伝えたあとどうしたらいい?」
 ポピーの質問にリュカは僅かに考え込み、ゆっくりと言葉を選び出す。
「ぼくらが塔から行けない場合に備えて、皆で予定通りデスパレスへ向かって。宿屋で合流するって言ってたから、まだ追いつけるはず」
 指示を受けたポピーはすぐにルーラでバトランドへ旅立ち、それを見送ったリュカたちは湖の塔へと向かった。

 混濁した意識が戻ってくる────酷い船酔いのような眩暈の中で、ホイミンはうっすらと目を開けた。
(……ここはどこだろ)
 後頭部を引っ張られるような重たさを感じながら上半身を起こしたが、ふと見れば生成りの寝間着に着替えさせられており、思い当たるのはあの男しかいない。
 ゆっくりと首を回して狭い部屋の中を見渡す────窓もなく、寝台の他には簡素な机と椅子、ランプが置かれているだけだ。一人用の寝台は清潔で上質な寝具で整えられていて、ふと、堅牢な石壁に目が留まる。どこかの城の中なのではないかと思ったホイミンは鉄の扉に駆け寄り、脱出できないかと扉に体重をかけたが外側から施錠されているようでびくともしない。
(だめか……)
 淡い期待が打ち砕かれとぼとぼと寝台へ戻る際、冷たさに気が付いて足元を見れば裸足になっていた。
 服の上から体をまさぐってみるも当然ながら所持品は何一つなく、ずっと持ち歩いてきた竪琴やリュカに貰ったエルフの飲み薬を失くしたことに、しょんぼりと肩を落とす。
 くるぶし丈のワンピースのような寝間着の下は裸のため、床からくる冷えが容赦なく体温を奪い始める。ホイミンは寝台の上で膝を抱え、冷え切った足先を手のひらで温めた。
(ライアンさん、どうしてるかな)
 どうやら捕まったらしいと把握して、少しでも勇気を貰えるようにとライアンの顔を思い浮かべ、次にリュカやピエールの顔も思い浮かべた。

 どれくらいそうしていただろうか────静寂を破る音に、ホイミンは身を強張らせる。
 鉄の扉の向こうから誰かが入ってくるのを、じっと息を潜めて注視した。