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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

INDEX|155ページ/213ページ|

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 思いの外静かに入ってきた長身の男が視線を合わせてきた────薄紫の瞳を縁取る長い睫毛、切れ長でやや吊り上がった形から発せられる鋭い視線に、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。
「おはよう、よく眠れたかな」
 薄い唇から紡がれた声が森で出会った男と同一であると気付いた瞬間、ホイミンの表情が険しくなった。
「ぼくに何の用?」
 口の端を上げ近づいてきた男の白い手がホイミンの喉から顎へと滑り、くいと上向かされた。
「君は大事な来賓だよ」
 白々しい言い方が癇に障り、呆れ返ったホイミンが言葉を吐き捨てる。
「はっ、身ぐるみ剥いでこんな格好にしておいて?」
 顎を上向かせていた手をぱしんと払い退け、まなざしに怒りを込めて睨み付ける一方、男は動じる様子がない。
「ああ、そうか……君の視点では生け贄ってことになるのかな」
 にこりと頬を上げてそう言うと、男は一拍置いて言葉を続けた。
「ここは魔城デスパレス。聞いたことはあるかな? これから君が暮らす場所だ」
 不愉快そうに眉根を寄せたホイミンがすかさず言い返す。
「ここで? 嫌だね。何で勝手に決められなきゃいけないんだ」
 怯えることもなく挑むような目つきに、吊り目を一層細くさせてくつくつと喉奥で笑った男はゆっくりと跪く。
「なりたいものになれたら、もっと生き易いのに。私はその手伝いをしてあげたいだけ……」
 寝台に座るホイミンを僅かに見上げる位置で言い聞かせるように告げ、小首を傾げた。
「……進化の秘法で?」
「ふふ、その通り。ピサロは失敗しちゃったけど、あれから研究が進んでね。痛みも苦しみも味合わずに済むんだよ」
「なりたいものになれるって……、うまくいけば、ってことでしょ」
 ありありと反抗の浮かぶ顔に男は眉尻を下げ、穏やかな口調で語りかけてくる。
「君の望む幸せが手に入る機会だ、試してみないか?」
 今が不幸だとでも言わんばかりの言葉に、込み上げた怒りが口を押し開く。
「幸せ……? 嘘で塗り固めて手に入れる幸せって何? そんなものに縋って一体何になるんだよ、冗談じゃない!」
「やっぱりそう簡単に乗ってきてはくれないか……」
 ホイミンが毅然と投げつけた答えに優しげな態度から一変し、一瞬だけ背筋が凍りつくような笑みでホイミンの胸ぐらを掴む。
「……ホイミスライムは馬鹿ばかりと思っていたが、流石はマスタードラゴンの息のかかった元魔物だ。忌々しいほどに正論を吐く」
「何とでも言え。あなたの言う通りにはならないよ、ぼくは帰らせてもらう」
 思い切り鼻の頭にしわを寄せて不服従の意を示し、視線をかち合わせたまま唇を真一文字に閉じた。睨み合う二人の間には火花が散り、やがて胸ぐらを掴む手が緩んだ。
「帰るかい? それでもいいよ、出て行くも留まるも君の自由だ────もっとも、出られるならの話だけど」
 あっさりした口振りに、ホイミンは疑惑の目を向ける。
「ぼくを殺すの?」
「そんなことはしないさ。でもこの城は人間が来られないようになってるから、移動呪文を使えないなら難しいと思うよ」
 淡々と言い放つと、扉を開けて恭しく一礼をした男は片手で退出を促した。
「まあゆっくり城内の散策でもしておいで。お互い頭を冷やそう」
 ホイミンは男の態度に鼻白んだものの、促されるまま寝台を滑り降りる。
 部屋を出る際、背後から呪いのような言葉が投げかけられた。
「ひとつ忠告する。君はまたこの部屋へ戻ってくるよ……その理由はいずれ嫌でも分かるだろう」
 無言を貫いて退出していったホイミンの後ろ姿を、男は余裕の表情で見送った。

 一方ソロの村で待機していた後発組も、マーニャの移動呪文でようやくバトランド入りを果たしていた。
 事前にソロから「宿屋で滞在して欲しい」と指示があったのを受け宿屋でめいめいに寛いでいたものの、退屈を持て余したオリヴィエが話を切り出す。
「ちょーっと散策行ってきてもいいかな。退屈で死んじゃいそう〜」
 長い足を組み替えてそう言うと、隣にいたオスカーが呆れた表情を見せた。
「全く、元気になればすぐこれだ……」
 同じく退屈していたらしいマーニャが間に入り、オスカーをなだめる。
「まあまあ、いいじゃない。それなら私も一緒に行くわ、露店見に行かない?」
「いいねー行っちゃおう! あんたたちはどうする?」
 話を振られたマルセルとリュミエールは共に顔を見合わせてから、戸惑いがちに頭を振った。
「あそー、じゃあお留守番頼んだよ。私はちょっとお散歩してくるね〜」
「おい待て、オリヴィエ!」
「すぐ戻るよ〜ん」
 オスカーの制止を振り切りさっさと退出していったオリヴィエとマーニャ。残されたミネアがぽつりとフォローを入れる。
「……あんなノリですけど、姉さんがついていますから大丈夫ですよ」
「そうは言ってもな……」
 はあとため息をついたオスカーが窓の外へと顔を背ける。
 外出を断ったマルセルは世界樹の様子をこまめに観察し、異常がないことを確認してから呟きを漏らす。
「ルヴァ様たちは無事に会えたのかな……」
 その呟きに、水晶球をぼんやりと見ていたクラヴィスが視線を上げた。
「……星の導きは間近に迫っていると出ている。案ずるな」
「あっ……すみません。なんだか落ち着かなくて」
「聖地を離れて暫く経つのだ、落ち着かないのも仕方あるまい」
 闇の守護聖にしては柔らかい顔で告げると、マルセルは大きな瞳を零れそうなほど見開き、こくりと頷きを返した。

 父リュカに頼まれバトランドへ来たポピーは真っ直ぐ宿屋へと辿り着き、宿の主人に声をかけていた。
「あのう、すみません……こちらに団体客が泊まっていませんか」
「申し訳ございませんが、お客様の個人情報なので……」
 断られて困った矢先にすぐ横の扉が開かれ、中から赤い髪が見えた。
「よう、お嬢ちゃん。待ってたぜ」
 いつもの調子で甘い笑みを浮かべたオスカーを見て、ポピーはぱっと明るい顔になる。
「オスカー様! 良かったぁ……あの、兄は来ていますか」
「いや、まだだが……何かあったのか」
「はい……ちょっとトラブルが起きて父とまた別行動になったんで、その知らせに」
「立ち話も疲れるだろう? 中で話を聞こう。今オリヴィエが出ているんで俺たちは留守番なんだ」
 室内にはソロの村にいた面々が勢揃いしており、ポピーはほっと胸を撫で下ろす。
 滞在人数が多く寝台が足りなかったため、床には厚手の絨毯が敷かれている。
 その床に三角座りをしていたマルセルが穏やかに問いかけた。
「ポピー、お父さんには会えたの?」
「はい、みんな元気でした。でも……」
 どこから話せばいいのかと言葉が途切れ、間を置いてから再び口を開く。
「吟遊詩人のホイミンって人が行方不明になっちゃって、今お父さんたちが探しに行ってるんです」
 マルセルと同じく座っていたクラヴィスが真っ直ぐにポピーの顔を見た。
「……ルヴァはどうした?」
「あっ、兄と一緒に先にこちらへ来ているはずなんですけど……来てませんか? ライアンさんとソロさんは、王様に謁見してくるって言ってました」
 ポピーのざっくりとした説明に、片手で口元を覆ったオスカーがアイスブルーの瞳を細める。