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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 斧のようなものを持った魔物と、片手にぶら下げられた大きなクラゲのようなもの────恐らくは同胞のホイミスライムに行われているであろう、残虐な行為に気付いたためだ。
(ころ、されて、る)
 胸元をぎゅうと強く掴んでもなお沸き起こる恐怖と怒りの前に、どうにか叫ばないようにするのが関の山だ。
 静まり返った部屋に、ぼちゃん、ぼちゃんと無慈悲な水音が響いた。
 それらの情報が導き出す信じ難い答えに、察しのいいホイミンは狼狽え、視界を覆うほどの水槽へと視線を縫い留める。
(この、青は)
 美しい海のように鮮やかな青。ホイミンの瞳と同じ色を、ただ呆然と見つめた。
 先程必死に叫んでいた誰かだろうか、透き通る水の中をゆっくりと漂うホイミスライムが見えた。優雅に泳いでいるようにすら見える姿だが、彼らの意識が既にないことを知ってしまったホイミンは込み上げてくる嘔吐感を堪えた。
 やがて姿が緩やかに見えなくなった頃、斧を持っていた魔物────恐らくライノソルジャーと思われる────が話し出す。
「おおい、そっちはどうだ?」
 こちらからは見えないが奥にもう一匹がいるらしく、別の声が聞こえてくる。
「今で三百くらいか。まだまだ先は長いなぁ」
 カラカラと硬い質感の物体を混ぜっ返すような音がして、溜め息交じりの声が続く。
「しかしこんなに大量に、一体何に使うんだか……」
「あの吊り目野郎の考えはさっぱり分からんな。まだ学者だっつー人間のほうが分かるぜ」
 ぶすくれた調子でそう言うと、笑いを堪えた声音が響く。
「吊り目野郎って。確かにそうだけどよ、聞かれてたらヤバいぞそれ」
「ふん、あいのこ風情が出しゃばりやがって。父親の威光で偉そうに……」
 かなり侮蔑的な表現で堂々と言い放ち、笑って窘めていた側も流石に黙り込む。
 ホイミンはそんな会話を聞きながら、彼らが話に夢中になっている間にそろそろと近づいて様子を窺った。
 そうっと顔を覗かせて、三百ほど作られたというものは何なのかと視線を散らす。
 水槽と繋がった無骨な鉄パイプの先に同じく鉄製らしい箱が置かれており、そこに手より少し大きい八面体の青い宝石が山積みになっていた。
 ホイミンが見ている最中にライノソルジャーBがレバーを動かし、またひとつ宝石が転がり出てくる。かつんと音がして山積みの宝石の中に埋没していった。
「さて、次の便が届くまでに片付けるか」
 ライノソルジャーAが背後の檻の奥から一匹の小さなホイミスライムを引きずり出す。
「や、やめて……!」
 怯え震えた声が聞こえる。まだ幼いホイミスライムまで────ホイミンは沸々と煮え滾る怒りに両手を固く握り締めた。
「悪いな、おまえらは素材処分だってよ。恨むならイゴー様を恨んでくれ」
「そういうときだけ敬称つけるのかよ!」
 ツッコミを入れてげらげらと笑う二匹の前で、ホイミスライムは檻にしがみつきささやかな抵抗を見せつつ叫ぶ。
「おとうさあん!」
 次の便の到着時間が差し迫っているのか、ライノソルジャーたちは苛ついた様子で斧を振り下ろす。
 檻に絡めていた触手があっさりと切り離された途端、甲高い悲鳴が耳を聾した。
「ぎゃーーーーーッ!!!」
「おまえも仲間のところに行きな。達者でなー」
 このままでは水槽へと投げ込まれる────そう思ったホイミンは考えるより先に飛び出していた。
「やめろおおおおおおおお!!!」
 怒りが体中を駆け巡る感覚に、ホイミンはそのまま身を委ねた。
 内側から力が溢れてきたような気がして、倍ほどの大きさのライノソルジャーへと果敢に掴み掛かる。
 ライノソルジャーAの手から奪ったホイミスライムを自らの胸元に押し込んだホイミンは、勢いに乗せて拳を叩き込む。
 派手な音がしてライノソルジャーは軽々と吹っ飛んでいく。石壁に激突して気絶したようだ。
 じんじんと痺れの残る手をさすって、残るもう一匹を睨み付けた。
「な、何だおまえは」
 ライノソルジャーBの声は僅かに震えていた。鬼気迫る表情で詰め寄るホイミンが、得体の知れない畏怖の対象に思えたせいでもある。
「……処分だって? させるもんか」
 誰にともなく呟くと、胸元で震える子供を片手であやし、束の間目尻を下げる。
 先程から続いた違和感への仮説が絶望を伴った確信へと変わる中で、ホイミンの心にはあるひとつの覚悟が生まれていた。
「これ以上の犠牲は出させない。おまえにも、あいつにもそんな権利はないよ」
 射貫くような視線の強さに気圧され、ライノソルジャーは後ずさる。しかしそうするとすかさずホイミンが足を進め、徐々に壁際に追い詰められていく。
 不利を察したのか、大きく息を吸い込んだライノソルジャーが斧を振り下ろしてきた。
 以前のホイミンならなすすべもなく斬られていたはずの攻撃。今はその動きが酷くゆっくりに思えて、するりと横にかわすことができた。
 斧はガツンと大きな音を立てて床を割る。めり込んでしまった僅かな隙をついて、ホイミンは脇腹目掛け思い切り蹴りを入れる。
 巨体が軽いボールのごとき速度で吹っ飛び、二匹目も壁に激突して気を失った。

 まだ隠れている魔物がいないか、室内を念入りに調べ回った。
 自分とホイミスライムたちだけと確認してから、そうっと胸元を広げて幼子に話しかける。
「もう大丈夫だよ。怪我を治そうね」
 触手が三本ほど斬られていて、染み出した体液がホイミンの服を黄色く染めている。
 回復能力に長けたホイミスライムも幼体のうちはまだ魔法力が少なく、自力で回復ができない。それを知っているホイミンがホイミを唱えてやると、元通りになった触手を嬉しそうに眺めた幼子が次に檻を指し示す。
「おとうさん、中にいるの」
 たどたどしく話す子供ににっこりと笑いかけ、頷いて見せた。行っておいでと意味を込めた首肯に、幼子は安心した様子で檻へ戻っていく。
「おとうさあん、にんげんが助けてくれたよー」
 子供の呼びかけに、一匹のホイミスライムがすぐに近づく。どうやらその一匹が親のようで、幼子は触手でぐるぐる巻きにされている。
 子育てのメインは母親だが、生まれて暫くは父親が食事を運んでくる。子が少し大きくなった段階で巣を離れていくため、その父親が子育てに参加しているということは、母親は子供を産んですぐにいなくなったか、亡くなったかしたのだろうとホイミンは推察した。
 まだ警戒を続けている残りのホイミスライムたちは、無言のままホイミンをじっと見ていて檻から出てこようとしない。
「……ぼく、元はホイミスライムだった人間で、ホイミンと言います。危害は加えないから、みんな早く出てきて」
 ホイミンの声に、幼子を抱いたままの父親がそろりと檻から出てきた。
「礼も言わず失礼しました。うちの子を助けてくださって本当にありがとう」
 丁寧にお礼を言われ、ホイミンは慌てて頭を振った。
「ううん、そんな。もうだいぶ犠牲が出ちゃったみたいだから……間に合わなくて、ごめんなさい」
 穏やかな声に促されるように、檻から生き残ったホイミスライムたちが続々と現れた。
 その中から長と思しき老ホイミスライムが進み出て、淡い黄金の瞳がまっすぐにホイミンを見た。