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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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「えっ? あー、いつもいつも上級魔法ばかりだと、魔力が尽きてしまったら困るような気がしましてねー。少しばかり節約を試みたんですよ」
「だからって何も今やらなくたって────」
 オリヴィエの話の途中でどすん、と音がした────ベンガルが一歩こちらへ近づいてきた音だ。
「……まだ戦う気?」
 オリヴィエが忌々しそうにチッと舌打ちをして、誘惑の剣を手に駆け出していく。
 体毛の焦げた匂いが充満し、思わず眉根を寄せたオリヴィエが肩の高さに剣を構えた。
「悪いけど、ここを通して貰わないと困るんだ。いま楽にしてあげる」
 艶やかな黒目がじっとオリヴィエを見ていた。これ以上太刀打ちできるとも思っていなかったのだろう、ベンガルは無抵抗のままオリヴィエの剣を胸に受け、そのまま静かに息絶えていった。
 慣れているとは言い難い行為に、どっと冷や汗が溢れ出る。
 オリヴィエは顎下を流れる汗を手の甲でぐいと拭い、まだ体温の残る亡骸から視線を背けた。
「はー……ほんっとヤな感じ」
 ごく小さな呟きを、ピエールならば容易に聞き届けただろう。しかしこの場においてそれを聞いた者は誰もいなかった────

 それから守護聖たちは先を行くソロたちを順調に追いかけ、玉座の間に到着した。
 既に到着していた勇者一行のもとへ歩み寄ると、アリーナが両手を腰に当ててぷくりと頬を膨らませている。
「おっそーい!」
 できる限り無用な戦いを避けながら駆け抜けてきたため、ぜいぜいと息を切らせたルヴァが頭を下げる。
「あー……これはどうも、すみません……」
 そこへマーニャがアリーナの肩に腕を乗せ、からからと笑う。
「アリーナの速度にはついてこれるわけないわよ。わたしでも無理だもん!」
 入城してからここまで無言を貫いていたライアンは、口を真一文字に引き結び、せわしなく視線を彷徨わせている。
 日頃の穏やかな表情とは打って変わり必死さを伴った形相に、誰も触れられずにいる。
 訪れた沈黙に耐えかねたのか、ふ、と緩く息を吐いたマーニャが諭し始めた。
「ライアン。今更焦ったって仕方がないわ」
 マーニャの言葉にライアンは一度何かを言いかけて、声が出ぬままゆっくりと口を閉ざした。
 そして小さく頭を振ると、ようやく絞り出すような声が聞こえた。
「……すまない。私は一足先に他の場所を見てくる」
 踵を返してその場を立ち去るライアンの背へ向けて、マーニャが叫ぶ。
「ライアン! 待ちなさいってば!」
 一刻も早く探し出したい────そんな感情が詰まった声音に、マーニャも呼びかけはしたものの強く引き留めはしなかった。否、引き留められなかった。
 じっと見ていたティミーがおもむろに口を開く。
「ぼくたちがついていくよ。行こう、ポピー」
「うん!」
 ライアンを追って駆けていく双子に続こうとしたルヴァの腕を、ぐいと止めたのはクラヴィスだ。
「クラヴィス……?」
 なぜ、と訝る視線を受けても、クラヴィスは表情一つ変えずに話し出す。
「おまえまで感情に任せてどうする。あの三人が揃っているなら戦力に問題はない筈だ」
 そう言って手近にあった椅子に腰かける。
 その姿に導かれしものたちが小声で口々に何かを言っていた。
 唖然としたルヴァがひくりと頬を引き攣らせ、次にリュミエールが眉尻を下げた。
「あの……クラヴィス……?」
「クラヴィス様、そこへお掛けになるのはどうかと……」
 周囲で遠巻きに見ていた魔物たちまでざわつき、そちらからの視線も突き刺さる中、当の本人が平然と身を預けて目を閉じている場所は────玉座である。
 城主の色違いとも言える髪型で魔王よろしく悠然と座っている姿が相当おかしかったようで、ぶふっと吹き出して肩を震わせていたソロがふと目を丸くして、後方に視線を持っていく。
 つかつかと近づいてきた長身の男が冷ややかに笑っていた。
「ほう、なかなか似合っているな」
 半笑いでそう告げた銀髪の男を見て、オリヴィエの表情が硬くなった。
「デスピサロ……」
 オリヴィエの呟きにルヴァがはっとした顔になり、それから徐々に目を細めてピサロを見つめた。
 ソロが向かい合う位置に立ち、口の端を持ち上げる。
「ようピサロ。邪魔してるよ」
 不敵な笑みを前にして、ピサロはむっすりと不機嫌さを隠さない。
「本当に邪魔だ。人間どもが雁首揃えて、何をしに来た」
「また喧嘩売ってきたのはそっちだろ。人間を連れ去ってんの、知ってんだぞ」
「何の話だ」
「ああ? お前も噛んでるんじゃねーのかよ」
「だから、何の話だ。私に分かるように説明しろ」
 交錯する二人の視線の間に、バチバチと火花が散っているかのようだった。
 にわかに殺気立つ空気。このままでは情報を得られなくなる可能性を憂慮したルヴァが思わず声を上げる。
「……進化の秘法の」
 ピサロの赤い瞳がじろりと向いた。ルヴァは臆さず話を続ける。
「人体実験が、再び行われている可能性が高いんです。この城で」
「なんだと……?」
「おや、知りませんでしたか。何かご存じでしたら、是非教えていただきたいと思ったんですがね」
 ピサロの睨みに全く動じる気配のないルヴァに、導かれしものたちは瞠目し、守護聖たちはなるほどと合点がいっていた────ピサロは銀髪に赤い瞳。ルヴァが殊更気にかけている鋼の守護聖、ゼフェルと同じ色味だったからだ。
 ソロたちも大概だがこいつもまた変な人間だ、と内心思いながら、ピサロはふんと鼻を鳴らす。
「私はここに住んではいないからな、先程侵入者がいると知らせを受けたばかりだ」
 そう言って両腕を組むピサロに対し、ルヴァが穏やかな声で話し出す。
「そうでしたか……突然の来訪で失礼いたしました」
 深々と頭を下げて見せたルヴァに、ピサロの片眉が意外そうに跳ね上がる。
「私たちの目的はさらわれた人間の保護ですので、危害を加えるつもりはございません」
 ルヴァの説明にピサロはすうっと目を細め、背後にいたオスカー、オリヴィエへと視線をずらした。
「ほう……それで敵意はないとでも?」
 明らかに殺傷能力のある武器を持っている者への厳しい視線に、ルヴァは引き攣りそうな頬をぐっと持ち上げ笑みを浮かべた。
「ええ、勿論です。あーそれでですね、城内の探索を許可していただけるなら、大変ありがたいんですが……」
 これまでとは桁違いな殺気がルヴァの肌を粟立たせる。背を一筋、冷たい汗が伝い落ちていくのが分かった。
 不快さをありありと顔に出したピサロが、瞬き一つせずルヴァを強く睨み付けて舌打ちをする。
「……厚かましいことを。こちらとて既に無傷ではない、殺されたくなければ今すぐ帰れ!」
 ピサロの怒号に続くように、周りで様子を窺っていた魔物たちが一斉に吼え出した────そうだ出ていけ、殺せ、人間など要らない……聞くに堪えない罵詈雑言の嵐に、マルセルが今にも泣きそうな顔を俯かせている。
 玉座で鷹揚に肘をついていたクラヴィスが溜め息混じりの呟きを漏らす。
「埒が明かん……」
 言うなりゆっくり立ち上がり、その身からサクリアが放たれ始めたことに気付いた守護聖たちの顔色が緊張に変わる。