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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

INDEX|167ページ/213ページ|

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 どうにか止めようとルヴァが駆け寄り、進路を阻むように立ち塞がった。
「ま、待ってくださいクラヴィス! 穏便に! ねっ!?」
「穏便に済ませたくとも、最早話を聞く状態ではないようだが?」
「そ、そうかも知れませんけど、じっくり話し合えばきっと────」
「その猶予はない。退いていろ」

 ルヴァの説得を遮り、クラヴィスの体から闇のサクリアが溢れ出す。
 守護聖と勇者たち一行を取り囲んでいた魔物たちが次々と倒れ始め、突然の異変にピサロの顔が奇妙に歪んだ。
「何だ……何が起きている……?」
 倒れた魔物を見れば、すやすやと寝入っている。だが同時に消し飛ばされている魔物もいた。
 強い魔力を感じ取りはしたもののかつて見たことのない状況に、更に激高したピサロがクラヴィスに詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「貴様、兵士たちに何をした!」
 至近距離で凄まれたがクラヴィスの顔は冷ややかなもので、微笑が浮かんでさえいる。
「安らぎを与えているだけだ。行き過ぎれば永遠の安息となるがな」

 そのやり取りを少し遠巻きに見ていたソロ一行のうち、マーニャが扇で口元を隠して喋り出す。
「ちょっと何あれー、マジ魔王じゃない。後ろの玉座が似合いすぎて怖いわー」
「姉さん、言いすぎだってば! 私もそう思ったけど!」
 姉妹の酷い言い草を聞き流し、アリーナが隣のクリフトを見る。
「あの人どっかの魔王なの?」
 問われたクリフトは返答に困り、ソロに話を振る。
「流石に違うと思いたいですが……ソロさん、何か知ってますか」
「や、オレもよく分かんないけど、クソ強くね?」
 冷静に見つめていたブライもまた、クラヴィスの身に宿る強大な魔力へ関心を示していた。
「丸腰だった理由がよく分かりますな。末恐ろしい魔力……」

 ピサロがクラヴィスの胸ぐらを掴んだまま何かを言いかけた矢先、大きな爆発音と共に足元が揺れた。
 一触即発の雰囲気に水を差したのは、駆け込んできた骸骨の魔物、死神だった。
「……ピサロ様!」
 ピサロはクラヴィスを掴む手を離さず、横目で発言を促す。
「何事だ」
「西側離れの建物内部にて爆発があり、現在火の手が上がっております!」
「分かった、すぐに向かう。おまえたちは避難を優先するように」
「御意!」
 指示を受けた死神は、勇者一行にも守護聖一行にも視線を向けることなく踵を返していった。

 小さな爆発音が全員の耳に届くほど辺りは静けさに見舞われたが、その静寂を破ったのはソロだ。
「なあ、ピサロ」
 ソロの呼びかけに、ピサロがついと顔を向ける。
「西側に建物なんかあったか? 地下があっただけだったよな、確か」
「兵舎を増やしたいという報告を受けて、増築の許可は出してあるが……」
 そう話す内に、先程のルヴァの話が線で繋がることに気付いたピサロの顔が怪訝に歪み始めた。ソロの言葉が続く。
「……さっき、知らせを受けたばかりって言ってたよな」
「そうだ」
 天空の剣を鞘に納め、敵意がないことを示したソロが近づく。
「誰かが勝手に変なことをし始めたら、今みたいに報告されてると思うんだよ。でもおまえは知らなかったんだろ?」
 ピサロ自身が知らないと言うなら本当に知らないのだろう、とソロは信用していた。姑息な嘘をつくような性格ではないと既に分かっているからだ。
「ああ……」
 ピサロが頷きを返し二人の視線がかちりと交差したが、かつて敵と味方の両方を経験したためか、そのまなざしは驚くほど穏やかなものだ。
「変だと思わないか? 少なくともオレたちは数日前から異変に気付いてたぞ」
 今でも圧倒的なカリスマ性を持つピサロを崇拝している魔物も多い中、誰一人として知らせに来ない異質さをソロは指摘した。
 その指摘に冷静さを取り戻したピサロは内心その通りだと考え直し、その思いが口から零れ出た。
「……。それもそうだな……」
「この城だけでもいいからさ、魔族側に変わったことがないかそっちで調べてみてくれないか。オレたちがゴチャゴチャ荒らすよりいいだろ」
 厚かましさでは先程のルヴァを上回る発言だったのだが、ソロの人となりを知っているピサロは怒鳴り返さず、しばし考え込んでいた。
 脳裏に浮かんだのは、以前自分を裏切ったあの存在だった。ソロと手を組み打ち倒したが、魔物の中には野心に燃える者は多い。再び現れない保証などない────束の間思考の海に沈んでいたピサロが考えを取りまとめ、掴んだままだったクラヴィスの服から手を引いた。
「ふん……命拾いしたな」
 クラヴィスは拳一つ分ほど背の低いピサロを無言で見下ろし、掴まれてできた服のしわを整えた。
 額のサークレットと同じ紫の瞳には何の感情も浮かんでおらず、虚無を感じ取ったピサロが不快そうに眉をひそめ、それからルヴァへと視線を縫い留めた。
「城内をうろつくのは許可する。だが何か不穏な動きをしてみろ、貴様らの命はないと思え!」
 慌てて頷き返したルヴァを確認し、続いて周囲を囲んでいた魔物たちへ向けて声を張り上げる。
「おまえたちも、争いは無用だ。こいつらは用が済めば勝手に出て行くだろうから放っておけ!」
 ピサロの言葉に魔物たちが困惑気味にざわつきだす中、ソロが口を開く。
「ピサロ。来たついでだから壺、」
「もう割るなよ。次は全額弁償させるからな」
「あっ、ハイ……」
 割らせて、と言いかけたソロの言葉を遮ってぴしゃりと言い渡すと、ソロは肩を落とした。
 ここにリュカ一家がいれば腹を抱えて笑ったであろうやりとりに、くすりと笑みを漏らしたアリーナがピサロに睨まれる。
「分かっているとは思うが……アリーナ、おまえもだ」
「はーい……」
 とんだ藪蛇だったと肩をすくめたアリーナが、つまらなさそうに唇を尖らせている。
 宿敵同士だとばかり思っていた彼らの不思議な空気感に、守護聖たちは戸惑いつつ様子を見ていた。

 バトラーは人間が襲ってきたと騒ぎ始めた兵士の中を堂々とすり抜け、すんなり裏庭へと回り込んでいた。
 城内はポピーたちに任せ、その間に遠方から調べていこうと考えて辿り着いたが、その勘が当たっていたことにほんの少しだけ口の端を上げた。
 かつて四天王としてこの世界にいた頃にはデスパレスにも来たことがあったが、その当時にこんな離れはなかったはずだ────何か不穏なものを感じ取り、裏庭から見えたこの離れをまず疑った。
 ホイミンが破壊した壁を前に両手を腰に当て、そこから見える範囲を目で追っている。
(……誰だか知らんが、随分と派手にやったもんだ)
 大きな体を縮こまらせて、よいしょと瓦礫をまたぎ室内に侵入していく。
 水浸しになっている床へと視線を落とし、指先で掬って液体の匂いを確かめると、元々厳しい顔が更に険しくなった。
(薬臭いな……ここが、あの守護聖の言う実験部屋か?)
 夜行性で夜目が効くバトラーには照明のない室内もよく見渡せた────昼行性のホイミンやホイミスライムたちが気付かなかった、最奥の壁面までも。
 壁側から微かに吹き付けてきた風に異変を感じ取り、のしのしと近づいたバトラーは手を翳す。