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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

INDEX|170ページ/213ページ|

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 バトラーが答えるより先に、辺りの空気が凍てつき始めた。これまで戦いに夢中で放置されていた炎がかき消され、汗ばんだ肌が一気に冷える。
 誰かが近づいてきた気配にふと振り返ったライアンと、マヒャドの発動を察知したポピーが僅かに目を見開く。
 吹雪を思わせる繊細な銀髪がさらりと風に煽られている。彼の唱えたマヒャドが周辺を鎮火させたのだと分かり、ポピーは銀糸の髪を持つその男をじっと見つめた。
「それなら、私が調べよう」
 淡々とした口調で発された声音に、じっと骨山の方角へ意識を向けていたバトラーが気付いて声を上げた。
「……ピサロ様!」
 見知らぬ者を見る目つきだったピサロはバトラーの姿に目を留めて、不思議そうに片眉を持ち上げる。
「ん? おまえは…………」
 バトラーを見上げて暫し考え込んでいたピサロが、僅かにはっとした顔つきを見せる。
「…………ヘルバトラーか?」
「はい、お懐かしゅうございます」
「生きていたのか……見違えたぞ」
 威厳を感じさせつつも柔らかな声色に、バトラーの表情も柔和なものになる。
「それにしても、生粋の魔族だったおまえが人間の中にいるとはな。珍しいものを見た」
 結界の番人でもあった四天王の一人が、人間の────それもまだ子供と言える若者の前に跪く姿は、魔族の王ピサロにとっては実に衝撃的な光景だ。
「仲間になれとしつこい人間がおりましてな。すっかり根負けした次第です」
「フ……人間の粘り勝ちか。全く、大した力もない癖に諦めの悪いのは何処にでもいるのだな……だがおまえを負かした者に興味は湧く」
 ピサロが苦笑を交えそう言うと、バトラーも皮肉げに片頬を吊り上げて見せた。

 砕けたキラーマシンの残骸に視線を落とし、眉根を寄せたピサロが話を切り出した。
「それで、こいつらは一体何だ? 見たこともないが……」
 ピサロの問いにバトラーが頷きを返し、簡単に説明する。
「今よりもっと後の時代に出てきた魔物ですが、どうやら更なる進化を遂げているらしく……」
「……先程の爆発といい、おまえたちの押しかけといい……厄介事を持ち込んでくれたようだな」
 呆れた口振りでそう話しながら、ピサロは例の骨山のほうへ目を向けた。
 確認しようと歩き出した矢先、ふと城の方角を振り向く。
「あれは、おまえたちの仲間か? 随分と育ったスライムだが……」
 視力聴力共に人より優れているピサロにははっきりと捉えられた存在────先程ポピーたちが来た方角から、大型スライムがぴょんぴょんと飛び跳ねてこちらへ向かっている。
「ピエールか!?」
 バトラーが告げた名に反応した双子がじっと目を凝らす。物凄い勢いで駆けてきているが、異変に気付く。
「……なんか乗り方おかしくない?」
「しがみついてる、みたい……」
 いつもならディディを華麗に操るピエールが、いまは振り落とされないように片腕で抱きついていて、異変を予感させた。
「怪我しているぞ」
 そっけなく放たれたピサロの言葉に、双子の表情が強張る。
 待ち切れず慌てて駆け寄ったポピーとティミーの前で、ぜいぜいと荒い呼吸のピエールはディディから滑り落ちた。
 左肩が折れているらしくだらりと下げている。回復もままならないほど疲弊し、返り血なのか怪我なのかすら判別できないほど血塗れの姿に、二人は息を呑む。
 ひびの入った兜を外して跪いたピエールに、ポピーが話しかける。
「ピエール、どうしたの!?」
「ポピーさま……、ティミーさま、お早く……っう、げほっ」
 咳き込んだピエールの口の端から鮮血が溢れ出た。
 そこではっと我に返ったティミーが急遽ベホマを唱え、片膝をついて問いかける。
「ゆっくりでいいから教えて、何があったの。お父さんたちは?」
 血と汗で顔に張り付く黒髪の間で、深海色の瞳が揺れている。揺れるまなざしと同じくらい震える手で、ピエールはティミーへと縋りついた。
「イゴーという者と戦っていますが、とても強く……リュカ様から応援を呼ぶようにと、申し付かりました」
 掠れた声でゆっくりと区切りながら告げた言葉に、双子は怪訝な顔になる。
「……お父さんが?」
 右腕である騎士を手放す真似に、ティミーの視線は訝しげにポピーへと向いた。サンチョのときのように何かの罠ではないかとの考えが刹那よぎったものの、ポピーは疑うそぶりもなく大きく頷く。
「行こう、お兄ちゃん」
 妹の声に首肯し、ティミーは立ち上がる。ピエールは視界の先にライアンを見つけて呼びかけた。
「ホイミン殿も怪我をしている状況です。ライアン殿もどうかお急ぎください……!」
 話す途中で喉に引っ掛かりを感じ、ピエールは口内に溜まった血液混じりの唾を吐き出し、小さく咳払いをしている。
 ホイミンの危機でもあると知り、ライアンの表情も僅かに強張る。が、落ち着いた声音でピエールへと話しかけた。
「分かった。場所は?」
「城の東、城内から地下通路を通った先の建物です。屋外から見た限りでは、入れそうな扉はありませんでした」
「そこならば知っている。案内しよう」
「わ、私も行きま────」
 付き添おうとしたピエールの言葉を遮り、再び骨山の方角から閃光と共に大きな爆発が起きた。

 爆発の直前、人間の会話に興味のない様子で奥の調査をしに進んでいたピサロが何かに気付き、踵を返した。その背後に再びキラーマシンの群れ、更にはこの城の兵士たちがいつの間にか続々と現れている。
 爆発を回避し、足早に戻ってきたピサロが敵の群れを迎え撃つように向き直り、背にしたポピーたちへ言葉を投げかける。
「我が城の兵士に見えるが……皆、様子がおかしい」
 言うなり、魔界の剣を片手に戦闘態勢に入った。
「おまえたちは離れたほうが良さそうだ、行け」
 信頼する仲間であるはずの魔物へ剣を向けたピサロ。事態の異様さにティミーたちの顔が一層険しくなる中、魔物たちは虚ろなまなざしをして一斉に東へ向かい始めていた。
 ティミーが振り返ってポピーとライアンへ声をかける。
「あいつらお父さんたちのいるほうへ向かってる。ぼくたちも急ごう」
 ライアンの先導で双子たちがその場を離れていく。だがピエールは凍り付いたように動かず、何かを考えこんでいた。
 隣に並んだバトラーが不思議そうに問う。
「……ついていかないのか?」
 魔物たちはこちらを気にすることもなく数を増やし、列をなして東へ向かう。
 ピエールは唇を引き結び一種異様な群れをじっと見つめながら、小さく首肯した。
「残念ながら、私の持てる力ではイゴーの前に歯が立ちませんでした。ですから」
 深海色の瞳が真っ直ぐにバトラーを見上げた。
「敵を生み出しているこちらを、先に叩きます」
 いまの自分にできることを考え、持ち得る能力を最大限に活かそうとする判断力は主君に似て潔く、バトラーの目に好ましく映る。
「供給を止めるのか。ふ、いい考えだな」
 加入時期が遅かったバトラーは、他の魔物たちと交流を殆どしてこなかった。