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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 ピサロが顎をしゃくって指し示した先に、幼い声の主が浮いていた。
 髪や眉のない赤子が裸の手足を縮め、大きな黒目でこちらをじっと見つめている。本来ならば愛らしく微笑ましい姿のはずが、表情を顔に出さないピサロ以外の二名は息を呑んだ────黒目と思っていたそこは、ぽっかりと空洞になっていたからだ。
 アンデッド系の魔物たちでも多くは瞳に光が宿り、生物に近い感じはそれなりにある。だが目の前の赤子の瞳には、それらしい輝きがどこにもないのだ。そして肌もまた赤子にしては死者を想起させる青白さで、殊更に気味が悪い。
 体の奥底から何かがぞわりと這い上がってくるようなおぞましさに、ピエールは僅かに震えた。怖気づく気持ちを振り払おうと眉間にきつく皺を寄せながら、おもむろに口を開いた。
「死霊の類でしょうか……」
 誰にともなく呟かれた言葉へ、バトラーが反応する。
「分からんな。だが人間でないのは確かだろう……」
「ふん。あれが何であろうと、こちらに害を為す以上は────」
 宙に浮いた赤子をきつく睨み上げたピサロの身を、再び紫のオーラが覆い尽くす。
「容赦しない」
 短く言い切り、魔界の剣を構えたピサロ。それに倣ってピエールとバトラーも身構えた辺りで、赤子が動きを見せた。
「うー、うあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 火が付いたように泣き出した赤子の周囲に、再びキラーマシンの群れが現れる。
 ピサロは群れに一瞥をくれただけで相手にはせず、キラーマシンたちを軽々と飛び越えて赤子へと斬りかかっていく。
 素早く剣が打ち下ろされる間際、床に散らばっていた頭蓋骨が四方から集まって赤子を取り囲み、ピサロの攻撃を弾いた。
 バトラーの炎がキラーマシンたちを飲み込み、ピエールもまた弱った者を着実に仕留める中、赤子へ手をかざしたピサロの瞳が赤く光る。
 魔法陣が敵全体を囲う────相手の守備力を下げる呪文ルカナンが発動し、直後に灼熱の炎を浴びた幾体かが溶け落ちる。辛うじて残ったキラーマシンもアーム部分が焼け落ちて攻撃力が激減したところを、ピエールが狙いを定めコアを破壊していった。
 赤子本体にも多少は効いていたらしい。周囲を鎧のように包んでいた頭蓋骨の動きが鈍り、ピサロはすかさず袈裟懸けに切りつけた。
「……無駄か」
 魔界屈指の攻撃力を誇る剣と、それを装備するにふさわしい技量を持ったピサロ────赤子など容易く真っ二つになるであろう攻撃は、皮膚に浅い傷をつけるに留まった。

 ピサロがバトラーたちと合流する少し前────
 守護聖たちとソロ一行は、地下牢に捕らわれていた男と対面していた。
 鎖で繋がれた細面の男、デズモンの前を大きな緑色のスライムが塞いでいる。その見覚えのある姿にルヴァが思わず声を上げた。
「ディディ……!」
 主不在の不自然さに気付き、駆け出そうとするルヴァの体をオスカーが押さえた。
「待て。足元を見てみろ」
 オスカーの指摘に守護聖たちは視線を床に移し、息を飲む。ソロ一行は先に気付いていたのか、既に険しい表情になっていた。
 片手で口元を押さえたマルセルが呟く。
「……これって、血、ですよね」
 掠れた声音の呟きは質問の形を取ってはいたが、口に出したマルセルの視線はずっと床に縫い留められたままで、それへ答える者はいなかった────人の顔面ほどに広がった血溜まりが石床を濡らし、そこから筆書きされたような跡が長く続いていたからだ。
 ルヴァは屈み込んでその痕跡を指先に取り、臭いで血液と確認してから長い血痕へと視線を移す。
「『何か』を引き摺っていますね」
 彼の頭の中では主不在のスライムとこの血痕が既に線で繋がっていたが、敢えて断言はせずにぼやかして話す。
 振り返って痕跡を辿るが、血痕は壁の向こう側にまで続き、その先どこまで続いているのか分からない。
「あの壁の向こうには、何があるんですか」
 ルヴァの問いかけに、マーニャが片眉を持ち上げて答えた。
「階段よ。地上に入り口がない建物と、地下で繋がってるの」
「そうですか……では、あなたの主はそちらへ連れて行かれたんですね」
 ルヴァの青灰色の瞳がディディを見つめた。視線に促されるように、ピキィと弱々しい鳴き声が響いた。それを肯定と捉えたルヴァが頷きを返し、労りを込めた手で優しく撫でた────わらび餅が苦手な彼にとって、感触が似たスライムは苦手だったのだが、このとき苦手意識よりも同情や慣れが上回ったらしく、ようやく仲間と認識した瞬間である。
 何かを言いたげなディディが脇によけ、ルヴァは背後のデズモンへと目を向けた。湖の塔で見たときより幾分かやつれた姿を前に、あくまでも偶然、初対面を装い声をかける。
「えーと、あなた、魔物に捕まっているんですよね?」
 全員の視線が注がれ、ひっと小さく叫んだ男は涙目で幾度も頷いている。
「た、助けてください!」
 一同の視線は地の守護聖へと移った。いざという場合に備え、武器を持つ者たちは密かに警戒の糸を張り巡らせていたが、無言のままルヴァの決定を待っている。
「……ディディ、教えてください。あなたの主は、彼を守るように言いつけましたか」
 問われたディディは再びピキィと一鳴きして、小さく飛び跳ねる。
「そうですか……彼は敵ではないという判断をしていたんですね。それならば、私たちが助けない理由はありませんね」
 笑みを浮かべそう言うと、ディディは嬉しそうに再び飛び跳ねる。
 ルヴァはデズモンの手首をそっと持ち上げ、手首の枷へと視線を落とした。それから鎖、壁に取り付けられた金具を確認し、ゆっくりと振り返る。
「誰か、鎖を外せる方はいませんか」
 穏やかなその声に、ソロが一歩前に進み出る。
「オレがやってもいいけど、そいつ助けても大丈夫なのか?」
 ソロの言葉に幾人かが頷き、次いでオスカーが口を開く。
「同感だ。自由になった途端に攻撃してくるんじゃないのか?」
 二人の疑念に、デズモンは慌てて頭を振り否定する。
「おや……こういう意見が出ていますが、どうしましょうかねえ」
 あからさまにすっとぼけた口振りに、オリヴィエが苦笑混じりでツッコミを入れる。
「ちょっとルヴァ、意地悪いよ」
 今度はマーニャが畳んだ扇でちょいちょいとデズモンを指し示して話し出す。
「不安なら、解放する前に色々聞いといたほうがいいんじゃなぁい?」
 マーニャの隣で強く頷いていたアリーナが、デズモンの襟首を掴んだ。
「わたしが締め上げてあげようか?」
「ひいっ……!」
 デズモンの悲鳴を聞き、ブライとクリフトが両側からアリーナを引き剥がしながら叫んだ。
「姫様! またそんなご無体を!」
「普通の人間は召されてしまいますから、やめましょう!」
「失礼ねー、そんな本気出さないわよー」
 唇を尖らせたアリーナの抗議に、ソロがすかさずツッコむ。
「……アリーナが本気出したら、ドラゴンも秒で逝くだろ。軽めでも充分こえーよ」
「ソロまで酷いこと言う!」
 ぷんすかと憤慨し始めたアリーナとそれを見て笑う者たちの間で、ルヴァもまた苦笑いの表情に変わった。
「ま、まあまあ皆さん落ち着いて。ええと、そうですねえ、それではー……」