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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

INDEX|174ページ/213ページ|

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「時間稼ぎ……ぼくに任せて貰っても、いいですか」
 何か考えがあるのだろうと判断したリュカは、頷いてスラリンに指示を出す。
「スラリン、スクルトを」
「了解!」
 ぽよんと大きく飛び跳ねたスラリンが呪文の詠唱に入ったのを見届け、次に傷だらけで座り込んでいたプックルへと呼びかける。
「プックル、まだ動けるか」
 矢継ぎ早に続くリュカの呼びかけに、プックルはよろけながら立ち上がる。
「……おう、平気だ」
 立ち上がった拍子に、赤い雫がぱたぱたと床に落ちた。
「攪乱を頼む」
 指示を出してすぐにベホマを唱え、プックルの傷を回復させる。
 それと同時にスラリンのスクルトが発動し、プックルの咆哮が部屋中に轟いた。
 猛々しい声に導かれ、イゴーの真上に暗雲が集まる。雷鳴と共に光が辺りを包み、幾本かの紫雷がイゴー目掛けて激しく降り注ぐ。
 雷の轟音と光で視界と聴力を奪っている隙を狙い、ホイミンが鞄と竪琴を抱えて戻ってきた。

 体中から黒煙を立ち昇らせたイゴーの瞳が赤く光を放ち、彼の周囲にこぶし大の光が集まり始めた。攻撃の気配を察知したピエールが叫ぶ。
「攻撃、来ます!」
 球状の光はリュカ一行の頭上に集まり、無数の光の矢となって降り注いできた。ひとつひとつが鋭い剣先のような切れ味で、皮膚を焼き切る痛みが全身をくまなく襲った。
 防御の姿勢を取っていても堪え切れないほどの全体攻撃に、ベホマでフル回復をしたばかりのプックルが再び倒れた。
 ディディのいないピエールも盾で防ぎ切れず肩と片足の腱をやられ、血を流してうずくまっている。
 ピエールの盾で庇われ直撃が少なく済んだ上、瞑想で自己回復をしたスラリンがすかさず灼熱の炎で果敢に応戦する中、致死を免れたホイミンは急いで鞄の中から賢者の石を取り出し、高く掲げた。
 石は青い光を放ち、リュカたちの傷を癒していく。
「それは?」
 どうしてホイミンが持っているのかと目を丸くしたリュカへ、ホイミンは僅かに頬を上げる。
「……貰ったんです」
 意に反して石に閉じ込められた、元同胞たちの命────手の中で煌めく石を見つめたままぽつりと返し、片手を添えて労った後ゆっくりと鞄に戻し入れた。そして今度は竪琴を持ち上げ、リュカと視線を重ねる。
「足止めの間に」
「ありがとう、助かるよ」
 リュカの言葉に少し泣きそうな顔で頷きを返したホイミンは、表情を引き締め竪琴を奏で始めた。

 温かな音色が室内に響く中で、イゴーは攻撃してくることもなくこちらを凝視している。
 できる限りピエールから引き離そうと、演奏を続けながらホイミンが一歩、また一歩と遠ざかる。
(こっちを見ろ……!)
 ホイミンの体の持ち主が残していた譜面の中ではあまり使ったことのない楽曲ではあったものの、”魅了”の力を持つ旋律がイゴーの関心を引き付け、つられるように数歩ホイミンへ近づいていく。
 リュカは一心不乱に竪琴を爪弾くホイミンからピエールへと視線を移し、小声で話しかける。
「今のうちに、子どもたちを呼びに行けるか」
 人間ならば聞こえない囁き程度の小声でも、ピエールはしっかりと頷きを返し、イゴーの動向に注意しながらその場を後にした。
 階段を下りて騎士の姿が見えなくなったとき、リュカはようやく息を吐いた────賢者の石で回復をしたとはいえ、ピエールは重傷を負っている。どうか無事に子供たちの元へ辿り着いて欲しいと、ただ願う。
「よし……あとは粘るだけだな」
 胸に立ち込める不安を消し飛ばすように両頬を引っ叩いて喝を入れ、それから剣を構えた。

 極度の緊張と疲労が汗の粒となって、ホイミンの額を流れた。
 不思議なことにホイミンの奏でる魅了の音色はイゴーを惹きつけ続け、背後から攻撃を与えられているにも関わらず振り向こうともしない。何か言葉を発するわけでもなく、プックルの鋭い爪がイゴーの背を裂きスラリンの炎に包まれてもなお、ただただ無表情でホイミンの手元を凝視しているのだ。その薄気味悪さも相まって、ホイミンはじりじりと壁側に後退していく。
(ダメージにはなってる……のかな)
 背中にひやりと硬い感触がして、行き止まりまで来たと知る。が、ホイミンは演奏の手を止めずに右方向へと逃げることにした。
 このままでは背を押されたイゴーに接触するか、こちらの攻撃に巻き込まれかねない────振り返って反撃してくると想定した位置取りが失敗だったと悟り、リュカが慌てて大声を出す。
「プックル、横から狙え! スラリンは援護!」
 指示の直後、リュカはイゴーの背後から右斜め前に飛び出し、振り向きざまに斬りかかる。
 ぐるりと体を反転させ勢いに乗った剣はイゴーの右腕を斬り飛ばし、切り離された髪と同時に床へと落ちた。
「……っ」
 バランスを崩しよろけたイゴーの腹をすかさず蹴り、そこへプックルの攻撃が重なる。
 ホイミンとの距離を開けようと体当たりをかまして、イゴーは更に数歩後ずさった。

 このまま押し切れば勝機が見えてくる────このとき、誰もがそう思っていた。形勢逆転だ、と。
 事実しばらくの間はホイミンの演奏でイゴーの攻撃が止まったままで、一度も回復せずに全員が攻撃に転じていた。
 しかしホイミンの疲労は既に限界をとっくに超えており、彼の体内で再び異変が始まり出したことに気付く。
「拙いな……このままじゃ、保たない……っ!」
 指先の感覚は既にない。これが長時間の演奏から来る疲労なのか進化の秘法の影響なのかは分からないが、痛覚を失くしても他の感覚はあっただけに、もしやと恐怖が蘇ってくる。
 ふと視線を感じて、竪琴を爪弾きながら顔を上げた。
 片腕を失くし、額や口の端からも血を流しながら、イゴーがうっすらと笑っている────切れ長の瞳は真っ直ぐにホイミンへ向けられていた。

 青褪めたホイミンに視線をひたりと縫い留めたまま、イゴーがゆっくりと口を動かす。
(も、う、す、ぐ、だ)
 唇の動きで言葉を察し、汗だくになっていた背が一気に冷えた。
(なんだ? 何か嫌な予感がする……何を言いたいんだ、あいつは)
 視界の隅で何かが光った気がして、ホイミンはそちらに視線を流した。
 石組みの壁面の隙間を縫うように、ちらちらと光が走っている気がした。良く見ればその光は自分たちの足元、室内の床にも走っている。
 縦横無尽に動き回る光の動きに注視していると、床だけ動きが違っていることに気付く。円を描いては壁に戻り、石組みの隙間に潜り込む動きはまるで意思を持った生き物のようで、ホイミンの脳内で警鐘が鳴った────室内に描かれる軌跡が、かつてライアンと共に訪れた湖の塔で見た魔法陣に酷似していたからだ。あのときはピサロの手先を目前にしてただの模様と思っていたが、後にライアンから「別の目的で仕組まれていたものではないか」と言われ納得した記憶を思い出し、懐かしさと共に胸に去来する小さな痛みを片手でそっと宥めた。
 そしてふいに緩みそうになる涙腺に頭を振り、ぎゅっと下唇を噛み締める。気を取り直してイゴーの足元へ視線を落とした。
(あの笑いは、何か裏があるんじゃないか?)