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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 森林から海洋、地下資源に至るまで豊かな環境資源に恵まれ、知恵と魔力に優れた民により栄華を極めた貿易都市エルニダは、後に度重なる地震と火山の噴火により殆どが崩壊し、大地が裂けてできた狭間から魔物が現れ始めたのをきっかけに、多くの住民が当時陸続きだった南方へと渡った。エルニダに残った人々は、復興後に犠牲者へ哀悼の意を込め都市の名をエルヘブンと改名し、魔界から続々とやってくる魔物を封じる扉を作り上げることとなる。このとき、特に多くの魔力を注ぎ込んだのがエルニダを興した者だったと、ごく一部の文献にのみひっそりと記された。
 一方、遥か南へ渡ったエルニダの民は、後のグランバニア建国の際に多大な貢献をもたらしたとも言われているが、その真偽については不明である。

 カカシュに連れられ、ホイミンは空を行く。
 視界の先に金色の光の粒が見えたと思えば瞬く間に遥か後方へ流れ去り、どうやら自分達は高速で移動しているのだと理解する。
 そんな二人の隣へ、金色の光を纏い虹の羽色をした鳥がゆったりと並び飛ぶ。
「わあ、綺麗な鳥!」
 小型の竜ほどの大きさの鳥が珍しく、無邪気に声を上げたホイミンへ、聞いたことのない女性の声が鳥から発された。
「ふふ、ありがとう」
 見た目の大きさに反して鈴を転がしたような可愛らしい声音に驚き、ホイミンはきょとんと視線を縫い止める。
「あなたの行く先に、たくさんの幸せがありますように。わたしたちから愛を込めて」
「あ、ありがとう!」
 鳥が右へ大きく旋回して進路を変える間際、隣を飛んでいたカカシュが口角を上げて呼びかける。
「……導きの助力、感謝する!」
 カカシュの声とほぼ同時に虹の鳥が強く輝き、ホイミンは眩しさに目を細めた。
(……天使?)
 狭めた視界の中に、なぜか美しい鳥の姿はなかった。
 そこにはカカシュに似た白い翼を背に、金の巻き毛を豊かに靡かせた女性が微笑んで手を振っていた、ように見えた。瞬いた瞬間に女性も鳥も綺麗さっぱり消えていて、もしや幻でも見たのかとキョロキョロ視線を彷徨わせ、それからカカシュに声をかけた。
「カカシュさん、今の、天使ですか!? それとも天空人!?」
「何か見えたか?」
 見ていなかった様子のカカシュの問いに、ホイミンは興奮しきって捲し立てる。
「お、女の人がいました! 背中に羽が生えてた!」
「そうか」
 薄笑いを纏った一言は明るい調子で、カカシュの横顔を盗み見ても機嫌が良さそうに見えた。
「そうか、って……知ってるんでしょ!?」
「さあな」
 まともに答える気のなさそうな返答に、ホイミンが不貞腐れた。
「また教えてくれない! 意地悪!」
「そう簡単に教えてたまるか。知りたかったら自分で調べろ」
「ちょっとくらい教えてくれたっていいでしょ! ぼく頑張ったのに!」
 ぷうと頬を膨らませて文句を言うホイミンに、カカシュは苦笑混じりで話し出す。
「はは、それもそうだな…………、まあ、神様みたいなものだ」
「みたいなもの?」
 どこか楽しげなカカシュへ、不思議そうに問う。
「それに一人とも限らないしな」
「えええ?」
 ますます訳が分からない、と首を傾げた。
「分からないままでいい。人が知る領域ではないんだ、本当は」
 それきり、カカシュは口を閉ざした。それでもどこか寛いだ表情のカカシュを見て、そう悪い気はしなかったホイミンも黙り込み、金色の光の中に身を委ねた。

 時間は少し遡って、ソロ一行────
 階段を降りてすぐの場所でライアンを待っていた彼らの中で、水晶球をじっと眺めていたクラヴィスが踵を返した。
 今は無関係の者が立ち入れる雰囲気ではなかったため、クラヴィスの背へリュミエールが声をかける。
「クラヴィス様、どちらへ」
「……サクリアが必要なようだ。ルヴァ」
「はっ、はいっ?」
 急に名を呼ばれ、ルヴァは素っ頓狂な声音で返事をする。
「陛下の水晶球を」
「ええと、ちょ、ちょっとお待ちくださいね……」
 慌てて鞄を探ると、水晶球から強い光が溢れていた。
「アンッ……、調和のサクリア……!?」
 うっかり恋人の名を呼びそうになったのをどうにか取り繕って、手のひらに水晶球を乗せた。美しく光り輝く水晶に、ソロたちも興味深そうに様子を見ている。
 オリヴィエが水晶球に指先で触れ、視線をルヴァに合わせた。
「陛下のだけじゃないね……」
「ええ、光に風に鋼のサクリアまで……」
 訝るルヴァの声に、オスカーが続く。
「全員のサクリアが少し必要、ということか」
 守護聖たちがそれぞれアイコンタクトを取り、頷き合う。

 クラヴィスのサクリア解放は先程間近で見ていたソロたちだったが、他の面々のサクリアも揃った様を見て、ソロが真っ先に感嘆の声を上げた。
「へーっ、綺麗なもんだなー!」
 ソロの隣にいたクリフトがそれへ頷き、天目掛けて立ち昇る色とりどりのサクリアを見つめたまま言葉を繋ぐ。
「そうですね。サクリア……とは聞き慣れないものですが、魔力の塊のようです」
「他の連中も詠唱とかないんだな。不思議な感じするわ」
 そんな会話をしている内に、ルヴァの手にあった水晶が更に強烈な光を放ち出す。
 守護聖たちのサクリアを吸収した光は一つにまとまり、虹色の鳥の姿に変化する。孔雀やオパールの遊色のような美しい羽根の煌めきに、マーニャがほうとため息を漏らしている。
 金色の輝きが虹色の鳥の周りを包み、羽ばたく度に金の粒をきらきらと雪のように散り落としながら、優雅に守護聖たちのもとから飛び去っていった。
 先程の一件から、誰を見送るのかを察したマルセルが呟いた。
「無事に辿り着くといいですね……」
 涙目のマルセルの背に手を当てて、ルヴァは頷く。
「そうですねえ。陛下の采配なら大丈夫ですよ、きっとね」
 マルセルの抱えた世界樹の苗木が、ほんの僅かに幾つかの葉を揺らした。

 魂が抜け出て間もなく、ホイミンの肉体も消えてしまった。
 存在すらなかったかのように何の跡形もなく、装飾品どころか髪の一房すら残せなかったライアンは、ただ茫然と何もない床を見つめている。
 リュカがホイミンの竪琴を拾い上げた。
 半分以上が切れてあちこち自由に揺れ動く弦を眺めながら、独り言ちる。
「この頃から、音楽が好きだったんだね」
 竪琴の近くに落ちていた彼の布袋から、おもむろに賢者の石を取り出す。
 ライアンとホイミンの会話を耳にして、これまでずっと引っかかっていた幾つかの疑問がようやく解けた気がする。
「あの人が賢者の石をどこで手に入れたのか、ずっと分からなかったんだ」
 よく見てみれば、自分が知っているものよりもずっと真新しい。このまま長い時を経て人から人へと渡り歩き、あるいはどこかで厳重に保管をされていずれ自分の手の中に来るのだろうと確信を持てるほど、その感触はしっくりと馴染みのあるものだった。
 そして人間の中でエルヘブンの一部の民だけが何故、魔物の言葉を解するのか。それへの答えも憶測と想像の範囲ではあったが、手に入れたに等しい。
「……道理で帰れなかったわけだよ。これを知るためだったんだな」
「……リュカ殿……?」