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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに2

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 マーニャが扇で牢屋の奥を指す。そこにはリュカが貰ったパデキア入りの大きな麻袋と、その隣に拘束されたデズモンがいる。彼は敵側にいた以上、拘束を完全に解くのは危ういということで鎖だけ切られた形だ。

 ルヴァは改めて辺りの様子を確認する。
 ディディがいたつい先程まで帰り道を塞ぐほど見えていた魔物たちが、今はすっかりと鳴りを潜めていて、通路に影すら見当たらない。
 上階へ向かう前、一瞬にして気配ごと消えたようにも思えていた。それに何か不自然さを感じつつ、先を行くソロたちの後を追った。

 リュカたちの前から姿を消したイゴーは、ピサロの前へ現れていた。
 赤子を取り囲んでいた髑髏の数はピサロたちの攻撃によって半数以下に減っており、イゴーが補助呪文を唱えて防御力を高めたところで、赤子へ斬り掛かっていたピサロが振り向く。
「────貴様は」
 どこかで見た気がしたピサロは記憶を辿るが、イゴーの髪や目の色自体はエルフや人型の魔族には割とよく見受ける色味で、とりわけこれと言う特徴もない。強いて言えば、気の強そうなつり目だろうか────ふとその目の形に思い当たる人物が浮かんだが、目の前の男とは似ても似つかぬ、大柄な魔族だったと思い直した。
 その魔族自体、この城で既に弔われているのだから本人ではないだろうと思った矢先、彼に女児と見間違うほど線の細い息子が一人いたことを思い返した。
「……ヤーガの息子か?」
 思い出した名を口に出したピサロへ、イゴーは忌々しそうに吐き捨てる。
「ハッ。久し振りにその名を聞いた」
 ピサロが幼少の頃、ヤーガという魔族の男がエルフの女を娶り、妻子と共にこの城で暮らしていた。跡目争いに敗れた後どうなったかは分からないが、いつの間にか妻子はいなくなり、今はヤーガだけが城の地下で密やかに眠っている。城内に他の身内はおらず、半ば打ち捨てられたまま手向けの花ひとつすら置かれたことはなかった筈だ────そんな記憶がうっすらと思い出され、ピサロは目を細めてイゴーを見る。
「あのときの息子か」
 思えば、この薄紫の瞳には確かに見覚えがある。
 先王に目通りする際、肩を怒らせて歩くヤーガの後ろをオドオドと怯えながら歩いていた幼子がいた。当時のピサロはまだ少年と呼べる年齢で、生粋の魔族の血を引く彼は王位継承の筆頭候補だった。ヤーガはそれに対抗し、己の子を王位に就かせようとしていたのだ。だが彼の思惑は外れ、実子が王位に就くことはなかった。母譲りの魔力こそ父ヤーガを遥かに上回っていたが、魔族としてはいかんせん体が弱すぎた。
 どちらかといえば脳筋比率の高い魔界では、虚弱体質は物笑いの対象でもある。その点ピサロは家格、当人の才能、容姿のいずれも高い値を呈し、自薦せずとも周りが黙っていなかった。ピサロが周囲の予想通り王になった際、ヤーガの睨め付ける視線が時折ねっとりと纏わりついていたが、ピサロ自身は気にしたこともない。羨望や嫉妬の視線など、幼少期から当然の如く注がれ続けてきたからだ。

 突如現れたイゴーへ、ピエールがすかさず剣を向け身構えた。
「イゴー……!」
 一気に警戒色を強めた声音を聞きつけて、ピサロは視線だけ動かしてピエールの様子を見る。その隣ではバトラーが小さな騎士の警戒ぶりとピサロとの会話で、イゴーと呼ばれた男をじろりと見下ろしていた。
「ピサロ様、知り合いですか」
 バトラーの言葉に小さく頷いて規則的に瞬きを繰り返すが、その面持ちには何の感情も浮かんでいない。
「この城で一時期暮らしていた。私が王に選ばれる前だ」
 それならば自分が知らぬのも無理はない────バトラーは納得した様子でふむうと唸った。この城へ来る機会もさほどなく、ピサロの配下として名を得る前は魔界で気ままに暮らしていたのだから、接点自体がそもそもないに等しいのだ。
 ピサロの簡素な説明に、ピエールが驚愕の声を上げる。
「そんな昔から……!?」
「昔?」
 どういうことだとピサロの声音が物語っていて、ピエールは補足の説明を話し出す。
「スライムナイトに知り合いがいるようなんです。我々はこの時代より遥か後に生まれた種族。それなのにピサロ様と同じ時代にいたとなれば、今一体幾つになるのか……」
「実はオレより年寄りだったりしてな……?」
 バトラーはうっかりそう呟いたが、赤子の泣き声に遮断されて聞き流された。

 イゴーは泣き叫ぶ赤子の側に駆け寄り、よしよしとあやし始めた。
「それは貴様の子供か?」
 ピサロが冷たく詰問すると、きつい睨みと共に短い一言が返ってきた。
「だったら何だ」
「母親はどうした?」
 何気ない言葉に、ぴくりとこめかみを震わせる。
「私が産んだ子だ」
「……男だったと記憶しているが、違うのか」
 淡々としたピサロの声に、ほんの少し躊躇いが乗る。
「進化の秘法のお陰だよ。君のときより研究が進んでね、見かけもほとんど変わらないまま全てを超越できるようになった」
 そう言って睨め付ける視線は、卑屈だった彼の実父とよく似ている────尤も、本人にその自覚はないだろうとピサロが考えていた中、イゴーは侮辱を続けた。
「君やミルドラースの醜さと言ったら! 笑えてくるよ、よくあんな生き物になろうと思ったね。まあこの時代ではまだ実験段階だったから仕方がないし、そもそも生き延びただけでも御の字だったろうけど」
「……」
 イゴーの嘲笑に沈黙を貫く代わり、ピサロの周辺に小さな火花が爆ぜ始める。
「話はそれだけか?」
「は……、なに、怒ったの? 案外短気だね」
「私の城で好き勝手しておいて、よく言えたものだ。その度胸は認めてやる」
 言うなり、ピサロは魔界の剣を赤子目掛けて振り下ろす。
 周囲を取り巻く髑髏が一斉に集まり赤子を守るものの、幾つかは火花を纏った剣に弾き飛ばされて粉々に砕け散った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 火がついたように泣き叫ぶ赤子をイゴーが抱きかかえてあやすものの、一向に泣き止む様子を見せない。
「よしよし……怖かったね。お腹空いてるの?」
 イゴーの言葉にもさして反応せず手足をばたつかせる赤子を、イゴーは一瞬だけ不愉快そうに睨む。その決定的瞬間をピエールが目撃したが、次に何をし始めるのかと警戒を怠らない。
 イゴーの体が淡く光って間も無く、肢体が柔らかな曲線を描いた。元々ゆったりめだった袖からするりと腕を抜くと、そこには彼の性別では本来あるはずのない、ぱんぱんに張った乳房がまろび出る。
 赤子の口に乳を含ませてみるものの、全く吸い付く様子はない。嫌がってぺっと口を離した赤子は再び泣き叫び始め、イゴーの眉間に皺が寄る。そして衝撃的な言葉が聞こえた。
「……まだ魂が足りないの?」
 ピサロの顔が怪訝に歪む。
「魂……だと?」
 イゴーは袖に再び腕を通し、元通りに着直して軽くため息をつく。
「母乳をあげてもこの通り飲まないし、人の肉や魂ばかり食べるんだ。頑張って産んだのに、困ったもんだよ」
 元よりも高い声で平然と告げられた内容を、ピエールは呆然と聞いていた。